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風景画を描いたら逮捕された⁈ 旭川生活図画事件について

私は高校の頃、美術部でした。
風景画は特に好きで、見るの描くのも好きです。
ストーリーのあるような風景画は見てて特に楽しいです。
最近はそういう絵画がプリントされたTシャツも流行ってますよね。

私は富士山が好きで、よく描いていました。

ハイサイ・オ・ジサン作、高校時代に私が描いた絵


そんな絵を描いただけで、逮捕???刑務所へ??
そんなことが日本で起きたことがあるのです。
🥺



戦前には治安維持法という法律がありました。
あったというかできたのです。
1925年、25歳以上の男子に普通選挙権が与えられるのと引き換えに、思想犯の取締である治安維持法が制定されました。

当初は共産党の取締をめざすものでしたが、昭和に入り戦争に突入するにつれて取締の範囲が広げられていきます。

そして1928年、改悪され量刑がこれまでの10年以下の懲役または禁錮からさらに重く死刑または無期の刑罰となりました。
同時に新たに目的遂行罪を取り入れました。
これにより捜査側の裁量の範囲が広がり、捜査当局が目をつけた者を自由に捕えることができたのです。


この法律により、師範学校の美術部の教師と生徒が治安維持法違反で捕えられたのが旭川生活図画事件です。
1930年代、旭川では、旭川師範学校の教員熊田満佐吾や旭川中学の上野成行などが、対象の人物、風景、静物などを感覚的に美しく描くだけでなく、絵のなかに現実の生活を反映させ、自分の家族、友人、身の回りの人たちの生活を見たままありのまま描くことでどういう生活があるべき理想の姿か考えさせようとしていました。

社会や生活の諸問題にも目を向け、そのテーマを絵画的表出によってアピールするという画期的な運動だったのです。
そのため美術以外の総合的な芸術分野も積極的に勉強しました。
芸術論や美術史を勉強しながら、島崎藤村の「夜明け前」「破壊」夏目漱石「坊ちゃん」ゴーリキー「どん底」吉野源三郎「君たちはどう生きるか」などを読み、レコードコンサートを開いて、ベートーベンなどの古典音楽を聴きました。
現実の労働者や農民の生活にも触れ社会科学も広く学習して、リアリズム芸術を追究したのです。
いわゆる芸術活動のひとつでした。

しかし、逮捕されたのです。


逮捕された師範学校の美術教師熊田満佐吾によるとそれは「指月の月」に過ぎませんでした。

つまり、美しい月が出ていることを知らせるために月を指し示す指であって、気づかなかった人が指し示された月を見てその美しさを知れば、それで教育の役目は終わったというものでした。
当時の旭川師範学校の美術部の部員たちには自主的に行動する自由な空間が残っていたのです。

1940年初めには北海道生活図画教育連盟作りの話が進んでいました。
当時北海道には、北海道生活綴方教育連盟というものがありました。
綴方によって子どもたちに生活のありのままを見つめさせ、その中の矛盾を発見させながらたくましく生きる道を養おうとする教育を実践していました。

しかし、1941年1月綴方教育連盟関連の教師と熊田満佐吾も逮捕されます。
さらに9月には、美術部の生徒も逮捕され留置所に入れられ特高警察の取り調べを受けます。


いずれも共産党とはまったく関係ないのに、絵を描いて教師になりたい、芸術を追求したい、というだけで治安維持法の目的遂行罪にあたるとされたのです。

逮捕された生徒の一人は描いた絵が証拠として押収されましたが、その作品は色彩鮮やかな風景画でした。
絵を持ち去ろうとしている特高警察に母親は「どうしてこんな湖や近隣の山を描いている絵がいけないのか説明してください」と尋ねましたが返事はありませんでした。

生徒たちはその後1年3ヶ月ほど刑務所に入れられたまま警察、検察、予審判事の取り調べを受けて釈放されましたが、学校は退学になりました。
裁判では「懲役1年3ヶ月、執行猶予3年」の判決がでました。
熊田満佐吾や上野成行は実刑判決を受け服役しました。


生活図画運動への弾圧は、国の政策を批判する可能性のある、どんなささいな思想、言動も許さないというものでした。
当時国策として進めていた戦争を遂行するためでした。そして日本は破滅へと進み1945年の敗戦となりました。
日本に進駐してきた連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)マッカーサー元帥の宣言により1945年11月治安維持法、特高警察は廃止されました。
獄に繋がれていた人たちも解放されます。



あれから78年日本は表現の自由、思想の自由は守られているでしょうか?

この春、香港の民主活動家が東京大学の大学院で新たな研究生活を始めたそうです。
香港では中国当局の厳しい言論統制のために自由に発言することはできません。

でも私たち日本人は日本で自由に話せているでしょうか?
無意識に自己抑制しているのではないでしょうか?



執筆者、ゆこりん、ハイサイ・オ・ジサン

参考文献
「旭川・生活図画事件―治安維持法下、無実の罪の物語」安保邦彦著
花伝社発行

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