『そして、次のフェーズへ』2023.#7 ヴィッセル神戸×アルビレックス新潟 マッチレビュー
首位相手にスコアレスドローで勝ち点1GET。ただ、試合終了間際には小島のゴールキック→跳ね返される→新井と早川が交錯→抜け出したパトリッキ→1vs1を制します。
これはもう終わったと目の前が真っ暗になりましたが、まさかのVAR介入で大迫の踵がオフサイドラインに当たるという判定となりゴール取り消し。九死に一生を得る形となりました。先週はVARで退場者を出して(これが勝敗を殆ど決めた)今週は失点が帳消しと、短期間のうちに機械判定による功罪の両方に触れる形となった新潟。
VARの恩恵を受けた新潟ですが、今節のフットボール的な所を踏まえると、記録した枠内シュートはまさかの『0』。勝ち点3を掴む前提条件すら成り立たない、課題の残る試合となりました。神戸を相手に何を起こそうとしたのか、そして何が足りなかったのか。今回も振り返っていきます。
前半
ボールを持って攻略にかかる新潟vs構えながらチャンスを伺う神戸という基本形は試合を通じて変わらず。神戸はイニエスタを中心に置いたポジショナルプレー×ボール保持型から現在は縦志向を強めたサッカーを志向中。
ボール保持にはそれほど拘りを見せる事もなく、相手に圧をかけて速く攻め込む事を一つの狙いとしていたように感じます。
IHの井出が大迫と共に前線に加勢して、2CBに対して2枚のプレス要員を形成。そこで新潟の中盤を消しながら早川,トーマスへプレス。新潟CBには制限がかかってパスコースがある程度読めるので思い切り新潟SBに寄せられる汰木。ここで蹴らせて回収を目論む神戸。
新潟としてはこのように相手が来るなら中盤とDFの間に穴を作り、そこにボールと人を送り込んで前進したいところ。そんないつものプレス回避術を繰り出したいところでしたが、神戸はプレスの際に山口蛍がさほど新潟ボランチについていかず穴を塞ぐようにDFの前に陣取っていました。
そのため下から繋いで目の前の相手を剥がしながら前進する機会が多かった新潟。その中で試合序盤はSBの移動で相手を剥がしてチャンスに繋げていきました。
対面の相手を見ながら定位置を離れてプレーできるSBの新井。今日の対面は自身の後ろに進んだボールに対してプレスバックの意識が薄い汰木。そのために彼の背中をとってレイオフを受ける事で簡単に前向きにボールを持てます。そして相手を引き付けて空いた逆サイドへ。このように右サイドではトーマスや新井がドリブル,パスで相手が誘導したい矢印を折るので圧から逃れて容易に前方や逆サイドへ展開できます。
右サイドからの貯金により比較的オープンにボールを受ける機会が多かった三戸ですが、今日は中々仕事を果たせませんでした。仕掛ける際に加速したまま突破を試みる傾向にある14番、しかしそれだとボールコントロールが乱れやすいのでシュート精度が低くなる+相手も加速した状態で対峙するので、エンバぺでもない限り振り切ってシュートを枠内に収める…というのは中々難しい。しかも対峙する相手は酒井高徳。
ならば体を相手に向けてボールを持つ事でDFの足を止めて欲しい。そうすると少しの時間が生まれて味方の攻め上がりで数的優位を作ったり、正面でボールを持つ事で左にも右にも行けるので味方を囮にしてカットインの道筋が描けたりします (加速すると基本縦しかない、相手は読んで獲りに行きやすい)。上記のファンアラーノのようなゴールが理想的ですが、三戸には良い意味でゆっくりプレーして欲しいなと思います。シューターなのでプレースピ―ドを落としても武器を発揮できる選手だし。
味方に貯金を与え続けた右サイドですが、左サイドでは中々難しい時間を過ごしました。神戸WGが外へのパスコースを切って中央では齋藤や時には大迫が待ち構えるので、新潟CBがプレスラインに沿ったままパスを出してしまうと次に受ける選手にもろに圧力がかかる事に。下記のシーンでは早川が貰う前の時点から武藤が狙いを定めながら追ってきたという側面もありますが、LCBが体の向きそのままにパスを出してしまいトーマスにその余波が行き最終的に奪われてしまいます。
ビルドアップにおいては前線に少しでも時間とスペースという貯金を与えたいCB。運んで相手を引き付ければ次にボールホルダーとなる味方に少しでも余裕が生まれますし、体の向きで相手を動かしてパスコースを空けて通すなんて事も貯金を与える一つの方法論です。そういった点においては舞行龍に劣る早川ですが、試合の中でいくつか良いチャレンジが見られました。
受ける前にバックステップを踏んで武藤が届かない位置にスタート地点を調整。そこでボールを貰って外側へ運ぶ事で武藤を外側に(=内側のパスコースを空ける)。空いた所に顔を出した三戸へパスを刺して容易にボールを前進させました。武藤を誘導するようにゆっくりボールを持って様子を伺っていた事からも意図したプレーだったと思います。良かった。
このプレーに象徴されるように、一旦セットしてから奪いに来る神戸のミドルプレスでは後ろと前の共通意識が合わなかったり、同サイドで人を当てて奪いに来ても容易に剥がして逆サイドへ振ったり…と新潟としては比較的楽にボールを進める事が出来たのではないかと思います。
ただ、神戸側としてはさほど問題に感じていなかったようで…
悔しいけど吉田監督には同意見。後ほど触れますが、ビルドアップの際に『コンパクトな陣形を保ったままチーム全体で前進する』という点においては中々出来ていなかったように思えます。折角三戸に通してもボランチは勿論、涼太郎が降りていたりして崩しに中々人数を割けなかったシーンもありました(38:40〜とか)。
特段神戸がビルドアップ隊をマンツー気味に消しに来る、という訳でも無かったのでもう少しライン間なりに人を立たせておきたかったなと思います。後ろに重たい分ビルドアップは上手く行きますが、その後の崩しに停滞してしまう。これはアルベルトの時によく見られた現象です。「我々はビルドアップをしたいんじゃなくてゴールを目指したい」と試合後に監督は仰ってましたが、いかにそこのバランスに着手するのか。次節は5バックで構える福岡相手なので前線に手数をかける必要があり、修正が問われそうです。
神戸のボール保持に対しては孝司-涼太郎がアンカーを消しながら片側へ誘導するようにCBに向かったり、向こうがLSB初瀬を最終ラインに残して3CB化してきたらSH(特に太田)が中央を消しながら初瀬に寄せる事を徹底。下からの繋ぎでは容易にやらせませんでした。
その中で上記のように、太田が空けたエリアに井出が流れる事で『受け手になるor島田を引き付けて中央にスペースを創出する』狙いを見せたものの誰も呼応してなかったシーンが。
このようにボール保持においては噛み合ってなかった感があり、大体が『後方から対角線のロングパス→武藤,大迫が収めてマイボール→サイドに展開してのクロス!』という形に終始しました。それでも彼らにボールが入るとそれなりに怖さを感じさせる神戸。明確な基準点があってそこに対して衛星的に動く選手の質も高いので、シンプルだけど実りのある攻撃を仕掛けてきました。
とは言いつつも互いに決め手を欠きながら前半終了。五分五分の展開でした。
後半
前半はそれなりにプレスを外してラスト30mまでは辿り着いた新潟。そんなボール保持型のチームに対して高い位置で奪う事で、主導権もカウンターのチャンスも掴みに来た神戸。
55分に井出→佐々木に変えてからはプレスの色を強める神戸。佐々木は後ろを確認しながらプレスに行くのが上手く、上記のシーンでは蛍の連動が間に合ってないと見るや島田を消しながら早川へ。そうなると堀米にしかパスコースが無い事はお見通しなので迷いの無い二度追いで圧力をかけられます。
逆に蛍の連動が間に合っているなら最初から堀米を消して内側へ誘導。そうなるとパスが出る先にはJ屈指のCMFが待ち構えているという算段に。このようにチーム全体の意識と選手交代によりマイボールにする機会が増えた神戸。58:24~のプレスなんかは狙い通りにパスコースを消して蹴らせる事で容易な回収に成功しました。
ただそれなら逆サイドはどうなの?と言われると、そこにいるのは守備がさほど得意でない汰木。65:50~のように外を消しきれずに奪いに来たら空いた新井に容易に通したり、或いは流れの中で佐々木と大迫がポジションチェンジしたらそこを突いたりと糸口を見つけながらボールと陣形を進めていきました。
上記のシーンでは勇気を持って運んだ早川によって各自のマークがズレて前方までボールが進む事に。パトリッキの幻ゴールの時は「何してんだ!」と思いましたが、改めて見返すと攻守に渡って一定の貢献をしていたと思います。良かった。
新潟としては
・GK小島を使って相手の2トップに対して数的優位を形成出来る事
・2CBがペナ幅くらいまで開いて相手のプレスの距離を稼ぐ事(=時間と余裕が生まれる)
・SBが状況に応じてタッチライン際や相手SHの背中で受けられるように内側をとれる事(=パスコースの選択肢を生み続ける)
・涼太郎.ボランチが無闇に降りない事(=前進した後で起点になれる)
によって神戸が圧力を強めても優位性を保ちながら前進出来ていたと思います。後半は相手のプレスラインが上がり、大体のケースでペナルティエリア付近から奪いに来たので一つ剥がせば彼らの陣形は間延びしやすい。そして上記のような理由もあり、涼太郎やボランチ,更にはSBも攻め上がりに加勢できるシーンが増えました。
この後は盤面上の事象としてはあまり変化が無いように見えました。変わらぬ条件の中でいかに交わすか・奪うかの戦いが繰り広げられていき、パトリッキやイニエスタを投入して攻勢を強める神戸。何と言っても彼らは守備が上手かった。
後ろのパスコ―スを背中で消しながらゆったりと、でも選択肢を削りながら追ってくる元スペイン代表と、84:40~パスコースが一つに限定されていると見るや加速しながら確実に奪いに来るブラジリアン。後者は攻撃面でも新潟ゴールを脅かすヘディングシュートを放つなど少ない出場時間の中で違いを見せつけました。
高徳のコメントの通り、後半も下からの運びではさほど脅威を感じさせなかった神戸。名古屋同様に各自のポジション変換は少なく新潟を惑わすような配置のズレを生んでこなかったので、基本的に4-4のブロックを組んでおけばさほど崩れないという感じではありました。
それでも後半も大迫-武藤は怖かった。佐々木投入の際に大迫,武藤が2トップを組むようになった神戸。大体のチャンスはロングボールに大迫が競ってすぐ近くでプレーするようになった武藤が呼応したり、初瀬や高徳ら良質なクロッサーが大外からでもXGを上げるようなボールを供給した所から始まっています。
https://youtu.be/Ds-RQCUagyk?t=179
それでも新潟としてはラインを高く設定してBOX内での守備を強いられる時間を減らしたい(=大迫や武藤をゴールから遠ざけたかった)狙いをよく遂行したと思います。相手の決定機は競り合いから抜け出した武藤vs小島の1on1のみ。そういう意味ではよく守れていたと言えますし、かといって枠内0に象徴されるように決め手も無かった。そんなどっちつかずだけど手に汗握る熱戦でした。勝ち点1は両者にとって妥当な結果なんじゃないかと思います。
そして、次のフェーズへ
マンツ―で主導権もボールも奪われた開幕直後から、徐々に相手がリスペクトしてきて『奪う』事から『進めない』事を選択するようになり、試合を通じて安定したボール運びを行うようになった新潟。
ただ、そうなるとラスト30mで違いを生み出せず、今節は枠内シュート0に終わってしまいました。これでは獲得できる最大勝ち点が1になってしまい、試合としてもどうしても煮え切らない感じを受けたと思います。筆者自身も90分を通じて得点の可能性をあまり(というか全く)感じられませんでした。ならばどうすればよかったのか、最後に少しだけ考えてみます。
"WG"の不在
コメントの通り、比較的中央を消すようにブロックを組んできた神戸。中央攻略という新潟の得意な事をやらせない+大外で仕事をできるアタッカーがいないという点からそういった優先順位をつけられてしまったのだと推測します。新潟としても大外に張る選手を基準点に、内側にスペースを作ってそこに侵入して…という少し前のマンチェスターシティみたいな要素を作りたい所。
2022シーズンの4節まではWGを設けて攻撃的MFを2枚に増やして大外に張るWGと、内側にできたスペースに侵入するインサイドハーフ&SBというようにサイド攻撃を一つの軸にしていた松橋アルビ。しかし攻→守の切り替えに弱みを見せるなどして、守備との兼ね合いから中盤の底を2枚に増やしてバランスをとった事が現時点での基本形に繋がっています。が、J1にも慣れてきて少し色を変える時が来たのかもなとも思いました。
ボールが中央にあれば中央に人を集めてサイドに誘導する、逆のサイドを捨ててボールサイドのスペースを消しに来る振る舞いを見せた神戸。それなら新潟としてはサイドと内側をバランスよく攻めたいところ。内側偏重なチームスタイルですが、向こうが固めてスペースが無い所にパスを打ち込んでも何も生まれません。ならば外側からも脅威を見せて内側を広げていきたい。そうする事で互いのエリアにかかる負担を軽減してプレーの余裕が生まれます。
例えば、堀米が内側をとって相手のプレスラインを一気に置き去りにしながら前向きにボールを持てたシーン。そこから三戸に届けますが、彼が張る事により出来た内側のスペースに侵入する選手がいなかった。
大外に張ったウインガーには自身のカバーを連れて守備の枚数を増やさないように…とサポートに行かない事が推奨されていますが、これらの状況では三戸に対して高徳と蛍がダブルチームを組んでいるので単独突破は厳しい状況。それなら味方が敵を引き付けている間、内側に生まれたスペースへ侵入して一気にゴールに近づく動きをして欲しいなと思います。ただ、現状だとトップ下(涼太郎)は真ん中で待機しがち、ボランチはどちらも守備型で攻撃的な動きは不慣れ。
なのでチームとしてもサイドに張った選手と内側を活かす選手…というようなアタッキングについてはそこまでデザインしていないように思えます。相手SBとCBの間で価値を見出せる選手が現状居ないので仕方ない感はありますが、攻撃に更なる厚みを加えたいならこのエリアで仕事できる選手がいて欲しいところ。(ちなみに右は新井,藤原がいるからOK。というか藤原右の新井左とか一回見てみたいけど)
ただ、左利きWGのダニーロゴメスが投入されてからは『左で作って右で仕留める』有効的に横幅全体を使うアタッキングの形が見えました。67:50~,77:35がまさにそれ。下記のように、密集を切り崩して中央を経由して薄い逆サイドへ得点機会をプレゼントする形は鉄板中の鉄板⇩。最後の仕留める所ではダニーロに加えて三戸も適任だと思われるので一つの方法論として持っておきたいところです。
密集を切り崩すには、相手を動かして出来たスペースに誰かが顔を出す、そこに寄せてきた相手を引き付けて次の味方を楽にする…という50:00~のような連鎖的なプレーが求められます。動きの連続性を外も内も使いながら行っていく。上記のシーンでは最初は大外にいた高が堀米のランによって広げた内側のスペースに侵入してシュートまで繋げていきました。
最初から内側に位置するのではなくスタート位置を大外にして、そこから内側に入っていく事で相手の対応は遅れますし、それだけプレーの余裕も生まれます。それに後半は小見でしたが、大外に立つ選手が中央だけでなくWGとしても仕事が出来ると相手SBが警戒する事により相手CBとのスペースが空きやすいですし、SBのスライドが間に合わないなら一気に仕掛けてチャンスを生み出せます。
神戸のように強度が抜群に高い選手達を揃える相手と戦う事で、新潟としてはチームだけでなく個人の成長も必須だと思いました。トレーニングや試合の中で適合できるならそれでいいし、(現時点で補強の話はあまりしたくありませんが)タイプ的に不足してるなら夏のウインドーで品定めをして欲しいところ。インサイドハーフとして仕事が出来る選手と、やはり良質なウインガー。後者ではそれが三戸なのか小見なのか、はたまたS.H.I.O.N…?
(ちなみにピポーテも欲しいしCBの平均年齢を下げたい)
辿り着く前に
プレスを剥がして一気に加速できれば『前向きに攻める新潟vs後ろ向きに守る神戸』という構図となり、今節は噛み合いませんでしたが余程の個人の差がなければ有利なのは新潟。シュートまで繋げられる可能性は十二分にあります。
しかし、神戸の中盤の底に君臨するのは山口蛍-齋藤未月というボール奪取能力に長けた二人。実際に75:55~や76:42~のように「ここを交わせば…」という所で尽く刈られてしまいました。
更に際立ったのがチーム全体の帰陣の速さ。⬆71:50~の新潟のカウンターでは伊藤涼太郎が前を向くと同時に素早く中央を埋める神戸の選手達、しかも武藤までプレスバックする徹底ぶり。終盤に差し掛かる頃でも質の高い選手達にここまで真面目に守備をされてしまうと中々に厳しいというのは一つありました。
ハードワークを求める吉田監督ですが、実力もネームバリューもある神戸のスカッドに対しても同様のアプローチを浸透させているのは見事の一言。「首位にいる理由をハードワークで示したい」という高徳のコメントもうなずけるチームパフォーマンスでした。
ただ、新潟としては彼らを打ち破らないと上位にいけるチームにはなれません。首位を相手に堂々の勝ち点1をもぎ取ったとはいえ、現状に満足せず更なる高みを目指して欲しいところです。そしてそれが出来る集団が松橋アルビ。ラスト30mを打ち破るために堅守・アビスパ福岡を相手にどんなフットボールを披露してくれるのか。来週も新潟のフットボールを楽しみたいと思います。ではでは