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ティンカー・ベルの妖精


風船を蹴飛ばしながら彼女に駆け寄ってゆく。

君と初めて逢った日のことを覚えているよ。

赤、青、黄、オレンジ、ピンク、緑、むらさき、
その他のきれいな色。

僕はやっとほっとした。

30年以上、40年未満の中、
やっとやるべきことが見つかったのだから。

アスファルトの熱で裸足の裏が焼けようとも
彼女は悲鳴などあげない。
どんな高熱が出ようと心配してもらうための
胡散臭い手段を持ち合わせていない。


サックス•ブルーのぴんと張った生地のワンピース。
上手に風となびかせれば、
指に付いた杏ジャムを猫のように舐める。



とても良い天気の日だったね、
僕らは何もすることがなかったんだ。


こんなしあわせなことってあるかい?




赤い風船が電線に引っかかり、


あの頃の、他人という僕らはこんな感じだった。


沸点のひくい液体が沸騰するような、
つまりは、長い時間お互いが「ふたり」
に向き合い過ぎた融点、
ヒステリシスが無い場合には、
液体が固体になる時の温度と一致...などなど。

つまり、よくある、ありがちの、愚にもつかない、
まだ結婚をしていた頃の、いわゆる、よくある、、

「夫婦の関係は破たんしている状態であった」
そう言い、偉そうなフリで他の女と性的な関係を持った
遠距離恋愛。

性的な方の女は具合いが悪くなる度に
「わたし死にそうかも」と発信し、
バ○な男どもが心配をしてコメントを
大量に残してゆくような偽ロマンスを掛け持ち、
「みんな心配ありがとう♡元気になったよ」
平熱体温計の写真、女の古風な夜ドラ幕を閉じる。

そういった女と男の祭りの中にいた。

冷静さと聡明さを保つことが幸福であることの条件を知らずに40年未満を生きてきた。

不在の人に激しい非難を向けはしないのだが、
所在があり過ぎて退屈してる男女みたいに。





青い風船がやがて舞い降りれば、

太陽はチョコレートを溶かしはじめた。

愛する人を待機する苦悩、
この苦悩はいかに?

君のことをなにも知らないうちから
ノック・ダウンされたのさ。
君の強さが僕の気分を
やわらかく温かいものにしたのさ。


こちらと言えば、僕の匂いと光と囁きによる。

黄、オレンジの風船がアスファルトに着地、

「泣いているの?」

その涙を僕以外の誰かに見せない君、
特別な涙にキスをするよ。

愛してる。

愛おしい。

僕と君の温度は38.2°

ピンク、緑、
その他のきれいな色の虹と彼女の彩り。
僕と君とチョコレートは溶け切った。




もうお終いにするけれど、つまりはこういうこと。

自分の誕生日に星形クッキーを焼こうとして、自分の前髪を燃やしちゃって、魚を焼こうとしたら右まつ毛を燃やしちゃって、バナナの皮をフローリングに落としたら滑って転んじゃって、もう大変だったんだ。

「まるでおさるのジョージね」

そう言って笑ったキレイな女のコの話し。

彼女の名前?
ティンカー・ベルの妖精だよ。
みんなは、「四月ばか」って言ってるけどね。

かわいいんだよ、まったく。


むらさき色の空が風船を追いかけるように
遠い夜空の向こうまで浮かんでから消えたのさ。









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