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谷崎潤一郎と江戸川乱歩の関係に嫉妬を積み重ねる文学中年

「あなたは、知っているのかしら。知らないにしても知っているにしても、あなたと私に続きがあるのかは知らないけどね」

なぜ私の周りにはこういう女性が集まるのか。それに答えを見つけるのはあと10年後くらいでいい。そもそもこんな誘われ方をして、誘いに乗らないならば、それは私が私を辞めなければならない時だ。

何のきっかけだったのかは覚えていない。
きっかけを探るその言葉より、その後告げられた話の方が私を釣り上げるのに充分過ぎるほどの物語だった。

谷崎潤一郎の「金色の死」に影響されて江戸川乱歩は、「パノラマ島奇譚」を誕生させた。

谷崎潤一郎1886年~1965年
江戸川乱歩1894年~1965年

同じ時代に生きた作家が他人のその作品に影響を受けて自分も作品を書いていたという事実が、今の時代にもきちんと伝わっている。

こういう所が涙腺に来る。それは時間と共に歪曲された事実かも知れないが、残って洗練された短文としての事実が本当に伝えたかった事だと思う。

歴史に残るのは背景を削った結果だけだ。
せめて、興味ある事には掘り進めていきたい。知るも知らないも自由だが、その道の続きを作るのも自分だろう。

書くことは当然のように自由だったと教えてくれているように思う。

私はそれこそ彼女の誘いに乗ったが、それは寧ろ進んで自分から入り込む事にしたと。彼女に言われたからではないんだと言い聞かせる事にしたのは間違いなく正解だったように思う。

だってすぐ好きになっちゃうから🎊

「金色の死」「パノラマ島奇譚」を両方味わう事にした。

その前に、ふと目にした明智小五郎の初登場作品「D坂の殺人事件」で

「例えば、谷崎潤一郎の『途上』ですね。ああした犯罪は先ず発見されることはありませんよ。」

と、明智小五郎に言わせている台詞を見つけた。

江戸川乱歩の、谷崎潤一郎への愛を感じる。

この時代、批判批評が当たり前のように感じていたが、こうして愛ある登場のさせ方もしていた事実に触れて、またしても熱くなった。

私みたいな人間は、まず嫉妬が先にくるので人を認めるにあたるまでの道程が極めて長い。こういう表現の仕方を読むと、自分の小ささを知りながらも、もしかしたらこれも嫉妬からのリスペクトだったのではと考えるようにしている。そう思えば、自分もそういう風に書けていけそうでなんとなく自分の小ささから救われるので不思議なものだ。

コニシ木ノ子著
「嫉妬の迷宮進んでサンキュー著者は三級」より。

金色の死。この物語の筋を知りつつパノラマ島奇譚を読める楽しさ。

読書のまた面白味を知れる。

描く理想郷と死に方の美しさ。

元々は、別々の作家がそれぞれ描いているのだから違う作品なのだが、私はその背景を考えて読むのでこれは2冊で一つの作品のように思えてしまう。それがまた面白い。

谷崎潤一郎に触発された江戸川乱歩の作品は、谷崎潤一郎の話しの筋を大事にしつつ、しっかりと自分の色を伝え自分の思想も残している。

どちらがどう美しいのか。そういう美術的な感性が備わっていない自分が少し悔しくもある。おそらく、美術鑑賞に長けていて彫刻などの西洋美術の造形美などに詳しい方が読むのなら、さらに奥深く楽しめるのだと思う。

羨ましい。

私が感じるのは、思い描く理想の美しさを追求していくと自分の死までを作品にしたくなるという追求の果ての芸術を知るような感覚なのだろうか。

三島由紀夫が谷崎潤一郎のこの作品について語っているらしい話をどこかで読んだ。繋がりは繋がりを生む。私はそれもいずれ調べるだろう。

繋がりとは自分自身体験している事なので理解しているが、昔の先人達も大事にしていてしっかり形に残している事を知れて楽しく思う。

しかし、人は自分の器からはその一歩をなかなか出せない。そこに多分に含まれる嫉妬が生まれるからだ。

自分にないものを妬む。
当たり前の感情だが、妬んだ上で認める。

認めて自分に取り入れる。それを表現する。

江戸川乱歩が谷崎潤一郎にそれを感じたのかは、私は知らない。

自分に置き換えただけだ。

認める。その行為の難しさは挫折をかなり含む。
自己の否定も入るからだ。だから人は争うのかなとも思う。

折られたくないから。

蟲が脱皮を繰り返してカラダという器を大きくするならば、人間もその器を大きくする事を学ばなければならない。武器じゃだめだと思う。

作家が作家を認めてさらに文章で昇華させる。その一端を読めて心地よい。

ところでこの傑作選に掲載されている江戸川乱歩の「陰獣」は、私に江戸川乱歩の凄さを伝えてきた。

自分自身の過去作品をパロディにしてトリックを考えつつ見事に完結させている。鳥肌もんの構成だった。

(最近、ムダ毛が無くなったので鳥肌を体感で感じられます)

自分自身をネタに出来る器の持ち主だから、愛されるのだろう。ええ。私もそこを目指します↓

そして、江戸川乱歩死後、二日後に谷崎潤一郎も逝去しているとはね。

なんのはなしですか

「あなたは、知っているのかしら」

その質問に答えるならば、

「私は知らない事を認める事を知っているということで、君との道が続くと思っている」

と、邪な下心を残して交渉していく事にする。

セットで読むと嫉妬出来てお得です。


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