滑らかなロマンスは、ムダをなくす日々への始まりだった。
【やってみた大賞】
私は時に夢を見る。誰しもが平等に夢を見る権利はあると思う。
私は去年より12㎏の減量に成功した。
だが、それはもう過去だ。
「私は、過去には興味がないの」
数々の昔の彼女に言われてきた台詞だ。
その気持ちを理解出来ずにずっと未練がましく、もう一度を欲していた自分を恥ずかしく思う。
今なら私もこう言える。
「俺も、過去には興味がないんだ」
「目の前にあるのは更なる美なんだ」
私は、減量に成功してウフフだった。
それこそ、鏡を見る回数が増えていった。
ジムに通う日々も増え、どんどん美しくなる自分に酔いしれていた。
そして、更なる成功体験を得たいと筋トレ動画をそれは必然であるかのように見るようになる。
ある日、ジムであることに気付く。
彼らの筋肉は、まるで朝獲れしらすかのようにピチピチキラキラと彼らを輝かしく魅せていた。
※しらすは湘南名物。湘南ボーイをアピールしています。
「どうしてみんな、あんなにキレイに筋肉が見えるんだ」
私は、この答えを見つけるのに半年かかった。
筋トレ動画を日々探しているうちに、私のタイムラインや検索窓は、筋トレしている女子、蟲、本で埋まるようになる。
流れてくる広告に目を奪われた。
「メンズ脱毛」
私は、真剣に調べた。
「もしかしたら、ムダ毛がない方がキレイに筋肉が、見えるんじゃないのか」
私は、そこから、ジムにムダ毛を探す旅に出るようになる。
だがやはり、ジムにムダ毛は見つからなかった。
もしかしたらムダ毛を持っているのが私だけかもしれないと感じると、その恥ずかしさに赤面した。
ムダ毛の事を誰一人教えてくれない社会を哀しんだ。
「やるしかない」
世の中には、やるかやらないかの選択に駆られる事が往々にして起こり得る。
私は岐路に立たされた。
40年のムダ毛生活にサヨナラすべきかだ。
共に汗を流し、どんな時も一緒にいたのに、ムダなんて名前を付けられて40年も過ごしていた気持ちを思うと泣きたくなった。
私は漢になるかの試練に見舞われた。
その日、私は決心した。
私は、まずジャングル化しているムダ毛にお別れを告げる事にした。
どっから何をしたら良いかわからない。そして、誰にも言えない。とりあえず薬局に駆け込んだ。そして、これを購入した。
私は、今までのお礼をムダ毛に言いながら説明書に書いてある通り時間も厳守して使用した。
スポンジをそれこそ車にwaxをかけるように、円を描きながらクルクルクル。
「おいおいおい。オイオイオイ。」
あまりの感動にそれしか言葉が出なかったのを今でも覚えている。
そこには、描く円の下に今まで出会った事のない私の肌がいた。
私は、とりあえず腕と、脚をやってみた。
初めましてのその肌は、私も見たことがないホクロなどがあり徐毛しなければ出会うことはなかったと感慨深くなった。
クリームを洗い流し、完全に取りきれていないムダ毛は、カミソリでオサラバした。
私の腕と脚は美しく輝いた。
私は、そのまま湯船に浸かった。
ここで人生初体験の感覚に陥った。
「お湯が肌に沁みこむ」
今までの、温泉等での
あ~気持ちいい。沁みるわぁ。
とは一体何だったのだろうか。
私は、今までの自分を恥じた。
美しく滑らかなツルツルな私に訪れたのは、
それはそれは、味わった事のない感覚だった。
翌朝も、感動は訪れる。
洗面所にて洗顔していると、肘の先から水滴がポタポタ落ちる感覚を覚える。
今までムダ毛がせき止めてくれていた水流に彼らの役割を知り、また山に於ける毛、いや、木の大事な役割を知った。
君たちは、決してムダなんかじゃないよ。
失くなってから気付いた。
こうして、新しい世界を手に入れた私に訪れたのは、ここから始まる過酷なムダ毛と美容との戦いの日々だった。
私は、ツルツルになり、ウルウルしたとInstagramで報告した。
それを見た、1人の女性が私に声をかけて来た。
「コニシさん。ムダ毛との本当の戦いはこれからです」
私は、耳を疑った。
「何言ってるの?もうツルツルだよ」
私は、ツルツルを否定されたみたいに感じて、苛立った。
「コニシさん。そのツルツルは、あと2.3日もするとジョリジョリになります」
彼女は、こう断言した。私は私に限ってそんな事は起こり得ないと彼女の言うことを信じなかった。
三日後。ジョリジョリジョリーナに私の脚は戻った。
髭を剃った後みたいにジョリジョリジョリーナだった。
私は、彼女の事が頭に浮かび彼女を頼った。
「君に報告があるんだ。どうやら僕は君の言う通りジョリジョリジョリ-ナだったみたいだ。もうツルツルツルリーナには、戻れないのかな」
彼女は、落ち込む私にこう言った。
「コニシさん。ツルツルを維持するには、それなりに時間がかかるんです。コニシさんは、今女性が美に費やす時間に対して、初めてリスペクトしましたね。ツルツル維持したいですか?」
私は、彼女がもはや美容コーチに思えた。
「ええ。維持したいです。コーチ」
彼女は、私に自宅で出来るアドバイスとアイテムを紹介した。
「私、この商品の回し者じゃありません。ただのオススメです。私もツルツル男子嫌いじゃありませんので」
私は、購入することの条件として一つの提案をした。
「これを買って、私がツルツルツルリーナになった時に君と私は滑らかスイーツ巡りをするということだね」
彼女は、答えた。
「そうですね。まずは試してみてください😎そして保湿を忘れずに」
私と滑らか肌を巡る戦いが始まった。
そもそも、毛にも生える周期があるらしい。
「休止期」「成長期」「退行期」の3つの状態が混在している。
フラッシュがその力を発揮するのは、成長期のみらしい。
この機械を使うには、1~2週目は週に3回。3~4週目は週に2回。そして5~8週目と以降は、2週間~1ヵ月に一度というように使用していくらしい。
毛が1㎜程度の時にこの機械を使用してバチバチ光を照射するといいらしい。
私は、私の剛毛に早くオサラバしたい欲求を抑えられず6段階ある強さの6でいきなり試した。
バチッバチッと光が当たり、少し皮膚に熱さを感じながらどこか楽しく連射モードで試した。一回に付き、少しの面積しか当たらないので、連射しても全部で両手両足30分程度かかる。
これを週に3回続ける。すごい手間だ。
美肌は1日にして為らず。
私はまたしても、女性の美意識の高さに涙を浮かべた。
初めて試した次の日、事件は起きた。
私の脚は、照射したところがみみず腫れのようになっていた。まれに起こる皮膚トラブルに該当した。大事には至らないが、私はそれを読んでこう感じた。
俺って敏感肌やん。
何だか嬉しくなった。しかし、私の肌に必要なのはアフターケアだということを認識した。アフターケアが足りないばっかりに過去にフラれた事を思い出した。
それからというもの、ルーティンが出来た。
剃る日→保湿→魅せる日→保湿→バチバチする日→保湿→剃る日
これを繰り返していくうちに、腕は明らかに伸びるペースが遅くなり、ツルツルが維持される日が増えてきてテンションが上がった。
ちなみに保湿は、これ。しっとり滑らかになる。
このルーティンの中、魅せる日にハーフパンツで家族で公園に行った。
息子と、キャッチボールをしながら脚を魅せていたその時だった。
ゴロの処理を華麗に脚を魅せながらいつもより踏み出した。
ぎっくり腰条例が発令された。
天は、私に更なる試練を与えた。
ぎっくり腰にもかかわらず、そんな事情は知らないとムダ毛は伸びてくる。
曲がらない腰で涙を浮かべながら脚に照射し、ぎっくり腰じゃなければ見れなかった角度の世界から、一本の毛穴から二本可愛く生えているムダ毛を発見するに至り、笑いながら痛さで泣く。
それでも私には滑らか肌を約束した女性がいる。私は、屈めないが頑張って続けた。
私は少しでも褒めて欲しくて、報告した。
「やあ。僕はツルツルツルリーナになりたくてぎっくり腰でも続けているんだ。そろそろ若干滑らかになってきたから、滑らかスイーツ巡りでもどうだい?」
彼女は、私を諭すように優しく伝えた。それは、幼稚園の先生が生徒に言い聞かすような響きだった。
「コニシさん。その機械に残りの照射回数表示されていますよね。今1ヵ月続けて、残り何回ですか?読み上げてください」
私は、喜んで読み上げた。
「コーチ。残り98万回です」
彼女は、ゆっくりと伝えた。
「そうですよね。それは、約30年使えるんです。即ちコニシさんが、本当の意味でツルツルツルリーナになるには、まだ時間がかかると思うんです。私はコニシさんと滑らかスイーツ巡りをするのは嬉しく思います。だけどコニシさん今、その状態で私の前に本当にハーフパンツで来てくれますか?」
私は、黙った。後、98万回。それって、半永久的にムダ毛と戦うってことやん。
なんのはなしですか
美肌は1日にして為らず。
ムダ毛は一生無くならず。
彼女は、さらにこう付け加えた。
「それとですね。参考までに教えておきますね。意外と女性はツルツル過ぎる男性も苦手という統計もあるんです。私はツルツル男子嫌いじゃないですけど好きでもないんです。そもそも私の男性の判断は、ムダ毛にはありません」
これを読んでどなたか私に、全身脱毛体験とかさせてくれないだろうか。
「文学中年全力全身脱毛体験記」
書きたいわぁ。
以上、文学中年初めての脱毛をやってみた。
もうムダ毛前の私には戻れない。
以下合わせて、私の3作品。やってみた大賞へ
楽しかった。ありがとうございます💪
自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。