自分はいつでも取り戻せる。決意は下心からで良いと思う。
「ねぇ。あなたの変化を私は認める事が出来ないの。あなたにその自覚がない事があなたを元の道に戻している事に気付いて欲しいの。それは、私があなたに伝えるまでもなく、本当ならあなた自身が気付いて私にこんな事を言わせるべきではないことなのよ」
2ヶ月振りに会う彼女は、明らかに僕に対して怒りの感情を抑えるのを隠し切れないようだった。僕はどうして彼女が怒っているのか理解しかねていた。
僕はこの2ヶ月必死だった。一瞬足りとも気が抜けない状況の毎日で精神はすり減っていたし、一生懸命毎日を駆け抜けた。彼女に褒められる事はあっても怒られる事は流石にないと思っていた。
「なぁ、君を蔑ろにしていた事は謝るよ。だけど僕が最近忙しかったのを君も理解しているだろ?それにほら、僕は何も変わってなんかいないんだ。寧ろ良い方向に変化すらしていると思うよ」
彼女と彼女を取り巻く周りの人達は僕を見て、ため息をつくような視線を僕に浴びせた。彼女は僕に子供でも分かるような精一杯穏やかな口調で囁いた。
「ねぇ。あなたが頑張ったか頑張っていないかは、私にとってどうでもいい事なのよ。世の中には結果でしか判断出来ない事の方が多いの。あなたは気付いてないだけなの。私はあなたに裏切られたと思っているわ」
「ちょっと待ってくれ。そんな言われ方をするような生き方をしてきたつもりはない、確かに2ヶ月君をほったらかしにしてきたのは謝るよ。だけどね、その間君の事を忘れた事もないし僕なりに細心の注意を払って生きてきた。」
僕は、忙しいながらも精一杯注意を払って生きてきた自信があった。それはこの一年の努力を自ら無駄にするようなものだし、何より最高の自分で40歳を迎えると誓ったからだ。
「もういいわ。人の話を真面目に聞かないあなたとは話す気にもなれない」
彼女はそういうと仲間と去っていった。僕は自分を疑うという事をしていなかったが、好みのタイプの彼女にそこまで言われてようやく自分を見つめ直す事にした。
震えたよ。
体重計に乗らなくなった3ヶ月で見事に回復した。これを超回復と言わずしてなんというか。
僕は自分をこの時初めて振り返った。イベントという事を成し遂げるにあたり、あまりの忙しさにジムに通えなくなる。胃も痛くなり食事はそんなにしていないと思っていた。
が、よく考えると。
チョコレート。チョコレート。チョコレート。
毎日チョコレート。
少し頭が疲れてるから必要だとチョコレート。
夜は、お酒を呑みながら会議という名の会合、会合、会合、たまに合コン←これは楽しかった🍺
今思い返せば、全国から色々な方にイベントに来てもらったが誰一人として、
「痩せてるね」
とは、言ってもらっていない。
僕はそもそも、このイベント本番に自分史上最高のカラダでステージに上がって挨拶すると誓ったはずだ。
こんなことになっているなんて。
こんなカラダになっていたなんて。
赤面を通り越して、青面だ。僕は生まれて初めて自分で自分を思い気持ち悪くて鳥肌がたった。
有言実行を騙った詐欺をしてしまった。僕はこの企画を実行する時、最終的に痩せたイケメンをアピールしてモテるという筈だった。
最高のカラダどころか中年代表そのもので上がってしまっていた。
なんてこった。
想像を簡単に越えてくる体重に、現実から目を背けたくなる。彼女が怒るのも無理がない。僕は好みのタイプの彼女に精一杯謝罪した。
「ねぇ。僕はたまに周りを見れなくなる時があるんだ。大事な事を言ってくれている人を蔑ろにして自分に酔うクセがあるみたいだ。君の言う通りだった。君の前で変化していった筈の僕は、君の前に現れた時の僕に戻ってしまっていたんだ。これが簡単に許される事ではないと理解している。でも、僕にもう一度君の前で変われるチャンスが欲しいんだ」
彼女は、優しく微笑み僕に語った。
「私は、努力する人に手を差し伸べるのが仕事なのよ。私もあなたにもう裏切られる事のないように寄り添うわ」
一段と好みのタイプの女性になった彼女に目標達成したらデートどうですかと尋ねたが、それには微笑むだけで返事はなかった。僕はまずもう一度彼女の信用を取り戻す事からはじめないといけないみたいだ。
最後にこう言ってみた、
「ねぇ。僕にはもう一度痩せなきゃならない理由がある。それはもちろん君とデートすることも理由だけど、夏に脱毛したツルツルの足を見せながらハーフパンツで会う約束をしている彼女と、年が明けたら上京してくる少し関西訛りのある彼女に会って最高のカラダを見せなくてはならないんだ。だから頑張るよ」
ありったけの嫌悪感のある眼差しを僕に向け彼女はこう言った。
「なんのはなしですか」
ランニングマシーンで揺れる自分のおっぱいを見ながら新たなる決意をしたはなし。
思い返せば私はこうだった。あまりに真面目に行動した一年半の反動がようやくリフレッシュされてきて、真面目なキャラでまさかの好感度が上がってしまったInstagramとお別れをして、やっと自分を取り戻しはじめている気がする。
私はモテたい。
自分に何が書けるか、何を求めているか、探している途中ですが、サポートいただいたお気持ちは、忘れずに活かしたいと思っています。