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ミヤネ屋と専門家の構造 誰が陰謀論を生み 誰がテロに賛同したのか

追記:2023.4.21 対策法と教会自身によるコンプライアンス強化策によって被害が減少していた点を補記した。

加藤文宏

反カルトから生まれたカルトなのか

 安倍元首相暗殺事件以来、暴力が連鎖する可能性を警告してきた。そして暗殺事件を発端にして展開された旧統一教会追及の異様さと弊害を、教会2世だけでなくオウム脱会信者などに取材し、さらにワイドショーとの関係をデータをもとに論考した。これらはnoteで公開しただけでなく、月刊「正論」に寄稿して世の中に問いかけたので、お読みになった方も多いことだろう。

 正論の『ワイドショーが善悪を決めていいのか』では、旧統一教会追及の論調をリードしたのが読売テレビ制作のワイドショー『ミヤネ屋』で、視聴率に換算して2%前後の小さな層の興奮だけで政局が影響を受けた事実を指摘した。

 『ワイドショーが善悪を決めていいのか』の主題は、旧統一教会追及と番組の関係を示すことにあったので、番組に登場して旧統一教会を語った“専門家”たちついては、それぞれの思惑で番組を利用したと簡単に触れるにとどめた。それでも「思惑というのは、安倍氏の暗殺を利用したことですか」と声をかけてくれた人がいるので、察してくれた読者も少なくなかったと思う。

 手短に説明するなら──鈴木エイト、紀藤正樹、有田芳生は番組で安倍晋三や自民党についての断片的な情報を、旧統一教会との関係という接着剤で連結して、継ぎはぎだらけの虚像を生み出したうえで、あたかも教会が自民党を支配して日本をも支配しているかのような言説を生んだのではないか。ここにそれぞれの思惑があったのだろう──と疑念がわく。

 まず旧統一教会・現家庭連合の信者数は公称56万人、アクティブな活動をしている人たちは2万人規模と見られている。私が取材した限りでも、他の宗教の信者同様に、あらゆる面で濃淡の幅が広く、同じ考えで一丸となって政治に関与するなどあり得ないのである。ロボットの群れではないのだ。

 そもそも56万票で、いったい何人の議員を当選させられるのか。2万人規模では? いずれにしても、自民党だけでなく日本を支配するには無理がある信者数だ。

 だが前述の専門家たちは、自民党が教会を集票装置とし、この影響力を教会が利用していると説明した。彼らが信者数とアクティブに活動をしている人の規模を知らないはずがないので、わかったうえで民主主義を破壊する信者の群れと、巨悪のイメージを教会に付加したことになるのではないか。

 また旧統一教会が抱える裁判件数は、国の対策と教会自身のコンプライアンス強化策によって激滅していた。専門家たちが語る被害の規模と実態は、おおむね20年から30年前の印象をもとにしたものであり、あえて現状を知らせず悪印象のみ吹聴していたと勘繰られてもしかたないありさまであった。

 世の中のできごとを前にして、邪悪で強力な組織が陰謀をめぐらしていると、偏見や不十分な証拠に基づいて語られるのが陰謀論である。それが意図的であろうと、なかろうと、ビジネスのためであろうと、義憤であろうと陰謀論だ。出来事の断片をつなぎ合わせて、データを用いることなく、印象論をもとに物語をつくりあげるのも陰謀論だ。こうなると鈴木エイト、紀藤正樹、有田芳生はワイドショー『ミヤネ屋』とともに陰謀論を生み出したことになってしまう。

 彼らは反カルトを標榜している正義の人たちだったはずだ。反カルトが、陰謀論を信じるカルト的な群衆を生じさせてしまうなんてことがあるのだろうか。


安倍悪魔化から岸田首相を狙ったテロへ

 旧統一教会と自民党の悪事の根拠とされたのが、安倍晋三が民主主義を破壊している(いた)、安倍晋三は独裁者であるとする説だ。この説が前提とされて、旧統一教会追及が自民党議員との関係暴露に偏っていても、左派・リベラル政党の議員が教会や信者と関係があっても関係が淡いとされても、政治家、専門家、メディア、大衆は当然のこととした。

 安倍晋三を民主主義を破壊した独裁者と決めつけ、彼に対してなら何をしてもかまわないとしたのが、いわゆる「安倍悪魔化」だった。安倍は暗殺されたあともなお、「妖怪の孫」とされ映画まで制作されている。首相在任中は持病を揶揄されるだけでなく、顔写真をドラムに貼って叩かれたり、ゴム製の似顔マスクを重機で踏み潰されている。こうした行為を実行したり支持したのは、極左、左派、自称リベラル層で、過激派、共産党、立憲民主党、労組、市民団体の人々であった。

 安倍悪魔化からの経緯を図示すると以下のようになる。

 安倍晋三が暗殺されると、当日の夜に毎日新聞は[長期政権が暗殺の原因]とする小沢一郎の談話と、[政権にも原因があったとする]青木理のどっちもどっち論をWEBサイトに掲載した。

 その後は暗殺犯を主人公にした映画が制作されたり、減刑を嘆願する動きがあったり、選挙で勝てなかったが暗殺成功で一矢を報いることができたとする発言があり、いずれも安倍悪魔化に基づいて犯行を肯定していたと言ってよい。

 統一教会追及では、安倍[自民]統一教会ズブズブ説とも呼べそうな鈴木エイトによる関係暴露がはじまる。この説を基調として前述の『ミヤネ屋』を中心として、さらに他の番組でも統一教会と自民党を一組にして糾弾会が行われた。

 糾弾は、安倍と自民による独裁によって民主主義が危機を迎えているとしたうえで、両者を支配しているのが旧統一教会であるとされた。このようにして陰謀論がかたちづくられたのは前述した通りだ。安倍悪魔化も陰謀論であったが、さらに統一教会日本支配説の陰謀論が増築されたのである。

 悪魔化の担い手であった共産党の志位和夫は『サンデー毎日』(11月6日号)で、田原総一朗から「共産党からすれば統一教会との最終戦争だ」と言われ、

今度は決着をつけるまでとことんやりますよ

と答えている。

 だが、最終戦争の意気込みを感じさせるほど共産党は表立って激烈な運動を行なっていない。こうなると、メディアで陰謀論がかたちづくられる過程がまるごと代理戦争であり、同時に最終戦争の最前線でなかったかと思わざるを得ない。今年になって共産党の党員をやめた人物は、党関係者からミヤネ屋を見ましょうと激しく勧められたほか、職場などのテレビを鈴木、紀藤、有田が出演するチャンネルに合わせる活動をしている人がいたと証言している。どこまで党の方針か判然としないが、共産党内に大きな期待感があったのはまちがいない。

 共産党にとって最終戦争の目標は、宗教法人解散命令と自民党を消耗させることだったろうが、十分な知識や見識を持たない素朴な人々に陰謀論が拡散され浸透する事態を引き起こし、信じきった人々が目標達成のため利用された。

 江川紹子はツイッターで、

きっかけは事件でしたが、多くの人に問題が伝わり、法規制したのは、「2世」などの勇気ある証言が相次いだこと。

と発言した。

 「きっかけの(暗殺)事件」を経て、多くの人に問題が伝わったのは確かだ。しかし、伝わったとされる問題やきわめて一部の2世による証言は、ワイドショーで生み出された陰謀論を背景にして人々に理解されたのである。しかも、陰謀論に影響された人々が法規制にむけて大合唱をはじめたのだから、これを成果とするのは楽天的すぎる。

 安倍悪魔化、暗殺事件、旧統一教会追及と連なる流れの異常さに気づく人は多かった。江川の発言が批判されたのは、暗殺事件が改善につながったと読み取られただけでなく、流れの異様さを肯定しているグロテスクさも批判されたのだ。

 また、旧統一教会の献金トラブルがほぼなくなるほど減少していて、完全でなかったとしてもコンプライアンス順守の取り組みが続けられていることは説明済みだが、これを知りうる立場の江川もまた無視している奇妙さが際立つ発言でもあった。

 暗殺事件と統一教会日本支配説(陰謀論)の芽生えから9ヶ月、江川の発言から9日後、岸田首相が爆発物を投げつけられるテロが発生すると、自民党の政治が民主主義を圧迫しているから、テロを起こさなければ主張が通らないとする肯定論が登場した。テロ犯や賛同者は、安倍悪魔化と統一教会日本支配説を信じたり、その論法を利用して、民主主義を破壊する暴力を肯定したのである。


安倍悪魔化の果てに左派リベラルの自死

 安倍悪魔化を前提とした統一教会日本支配説から、さっそく民主主義を否定して暴力を肯定する動きが登場したのは前述の通りだ。しかし、説を生み出した者からも、生み出す場となったメディアからも、陰謀論と陰謀論者は放置されたままになっている。

 統一教会日本支配説に熱心だったのは、視聴率2%くらいの層であるのは前述した。テロに賛同している層も、ことの経緯から同程度だろう。イデオロギーを背景にして安倍悪魔化を利用しようとする層を加えても、政党支持率に表れているように多数派ではない。

 では、このままでよいのか。しばらくすれば沈静化するのか。これだけで済むのか。

 先日マーケティングの観点から有料記事を書いたが、そこで紹介したのは従来からの左派右派の政治性を持たない人々が大半を占めている事実だ(2017、2020年読売早稲田世論調査)。この傾向は若年層になるほど高く、仕事をして成果を上げ社会を変えている政党を改革路線と見ていて、自民党や日本維新の会は革新的で、共産党と立憲民主党を革新的ではないとしていた。

 また国民民主党の玉木雄一郎は、憲法改正は革新的で、これに反対するのが保守的と見られる傾向があるとしている。

 さらに取材などで得た情報を合わせると、自分たちの為だけでなく社会をより良く変えようと試みるのが革新であって、性の多様性やフェミニズムについての改革も、自他ともに豊かな社会をつくるためなら賛成だが、イデオロギーと一部の利害関係者の為のものなら反対するのが多数派の感覚だった。大多数の人々のほうが、イデオロギーに拘泥する政党や支持者よりよほどリベラルなのだ。

 こうした真のリベラル層から、左派リベラルはイデオロギーと一部利害関係者の為だけに運動をして、これといった社会貢献をしない邪魔者と目されている。

 このうえ陰謀論を生み出し、消費する主体となっているのでは狂気の沙汰ではないか。暗殺を喜び、テロに賛同し、民主主義を否定した先にあるものは、反社会的集団と烙印を押される左派リベラルの姿だ。左派リベラルが妄想するネトウヨ以下に成り果てているのでは、お話にならない。もはや神真都Qと同類である。

(まだ触れなかった実情、知られていないできごとがある。機会をあらためて書こうと思う)

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