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【1分小説】春風さん

お題:「スポーツのお尻」
お題提供元:即興小説トレーニング(http://sokkyo-shosetsu.com/)
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 誰にも言えないのだが、起立する時の彼女が一番美しいと感じている。

 「春風さん」と名前を呼ばれて「はい」と返事する声もハリがあって良いが、何より椅子から立ち上がる瞬間だ。

 机に手をつくことなく、まるでバネが跳ねるように、空気を鋭く裂くように、まっすぐ立ち上がる。その瞬間、後ろの席にいる私は、どきりとするのだ。

 しなやかな筋肉。その全身の筋肉が、晴天の下並んだレーンでスタートの合図を待っている様子を、私は想像する。全身の躍動。緊張。美しい獣のように、今まさに走り出そうとしている彼女を。

 先週行われた陸上の県大会で、一位になったと聞いた。マラソン大会でお尻を走っていた私とは、まるで違う世界に住んでいる生き物。
 なのに。

「春風さん?」

 前の席の彼女に名前を呼ばれて、私ははっとする。

「ご、ごめんなさい」

 差し出されたプリントをあわてて受け取る。

 なんで彼女と私は、同じ名前なんだろう。