モリタサユウ
オリジナルの短編小説をまとめています。 お題を使用している場合は、作品の末尾に提供元を記載しています。 <更新頻度> 毎週日曜に定期更新。 加えて、気が向いたら不定期で投稿します。 <文字数> 作品の文字数を目安に、読むのにかかる大まかな時間を記載しています。 【1分小説】・・・600字以内 【5分小説】・・・600~3000字 【10分小説】・・・3000~6000字 【20分小説】・・・6000字~12,000字
これまで投稿した自作小説およびエッセイの中から、おすすめしたい作品をまとめました。
随時更新。 なんてことない、ほっと息抜きできるようなひとときを。
<あらすじ> 死の床を迎えた老人が、ひとひらの詩を思いつく。しかし彼には、もう筆を執る力がなかった。 ========================== ほんものの詩が、言葉が、今、ひらいたのだ。 ああ、このひとひらの言葉が生まれる瞬間を、生涯、どれほど待ちわびていたことか。 それはまるで、花のつぼみが、血色の花弁をひらくように。そしてその内側から、あたたかな薫香を立ち昇らせるように。 死の床で、彼は目をひらいた。その息づかいは、彼のいのちよりも一足早く、口元
お題:愛があれば何でもできる? ----------------------------------------------- 「アヤちゃん、そいつは無理だ」 「いやいや」 「いやいやじゃなくて」 なんてことを言っている間に、手際の良い現地スタッフにより、俺の体には次々にベルトが装着されていく。 アヤちゃんは天使のように笑って、 「私のこと好き?」 「好きだよ」 「大好き?」 「大好きだよ」 「じゃあできるよね」 「なんで!?」 高い高い吊り橋の上。 「言っ
お題:愛を叫ぶ。 ----------------------------------------------- めちゃめちゃ足が痛い。歩き疲れた。夜通し歩いていた。 なんでそんなことをしたのか。 終電を逃したからか。否。 誰かを探していたのか。否。 忘れたい恋があったのか。否。 理由はもっと簡単だ。歩きたくなった。それだけだ。なのに人には理解してもらえない。人はどこまで歩くことができるのか。試したくなったのだ。 これがマラソン大会なら沿道で声援もあった
お題:耳を澄ますと ----------------------------------------------- 耳を澄ますと、スマホの中からすすり泣く声が聞こえてきた。 「助けてください、出られないんです」 その声はスマホのスピーカーのあたりから聞こえてきて、耳に当てるとまるでスマホで通話しているみたいな格好になる。 「なんでそんなところに? っていうかあんた誰?」 スマホの中にいるこいつを救出するには、スマホを分解しないといけない。なんで身も知らないやつ
お題:桜散る ----------------------------------------------- 地面に落ちていた桜の花びらが上へ吸い寄せられ、枝へ戻る。散っていたはずの桜が、みるみる満開へ戻っていく。 「いいのかなあ、こんなことして」 「うるさいな。ちゃんと話せば分かってくれるって 「ふうん」 使い魔の猫のマコマコは、どうせ怒られるよ、とでも言いたげに私を見上げる。 空を見上げる。上弦の月は静かに私の所業を見ている。 時間を戻しているのはこの学
お題:夢見る心 ----------------------------------------------- 例えば「夢見る乙女」というと、窓辺で頬杖をついている少女。その目線は斜め上である。そんなイメージ、だよね? 例えば漫画で登場人物が何かを想像、あるいは妄想をするときも、その吹き出しは斜め上に出ることが多い。 極め付けは、「夢に向かって頑張ろう!」って言う時に指差すのは? 斜め上、だよね? つまり、ええと何が言いたいかって。自分と夢との立ち位置って、斜
お題:快晴 ----------------------------------------------- どうせ楽しくない。分かっている。外に出たって何もいいことはない。 窓の外は快晴。憎らしいくらい。隣の公園は桜が見頃で、なんとも楽しげな笑い声が聞こえる。 卒業式に出られず、入学式へ出る予定もなく、宙ぶらりんのまま親と目を合わせることもできない私には、遮るもののない春の日差しはまぶしすぎる。 風が吹く。桜吹雪が舞い上がる。 開けていた窓の隙間から、花びら
お題:大好きな君に ----------------------------------------------- 大好きな君に、贈るものがない。 実はあったんだけど食べちゃって、ケーキ。 ケーキは美味しい。抗えなかった。 だからそもそも贈り物なんてなかったことにして、週末ちょっといいレストランでご馳走してごまかそう、と思っていたけれど。 「食べたでしょ」 なぜだ。包装紙は見えないように捨ててお皿も片付けて、もちろん口元に生クリームなんてつけてないか確認し
お題:なし ----------------------------------------------- お母さんが雲で月を洗っている。 キッチンの椅子の上に立つと、それが良く見える。 「駄目だよルリ、降りなさい」 お母さんは洗い物をしながらそう言った。 いつもは「こら!」ってこちらに飛んでくるのに、今日はこちらを見ようともしない。 くしゅくしゅと揉みこんだスポンジから白い入道雲がわき立つ。キッチンの明かりの下で、カレーのお皿が白い月になる。さっき私が
お題:平穏な日常 お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より ----------------------------------------------- 平穏な日々だと思っていた。 編み物の途中でふと顔を上げると、シャボン玉がひとつ、リビングに浮かんでいた。 庭でフーコが遊んだものが紛れ込んだのだろう。 違う。フーコはもう成人して家を出て行った。 雪雄さんが庭で洗車した泡が入ったのか。 それも違う。雪雄さんは今病院に行っていて。 近所の保育園から、で
お題:星が溢れる お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より ----------------------------------------------- 星が溢れる。君の瞳から。 「なんかねえ、昨日から止まらないのよ」 「はあ」 スパンコールみたいなキラキラが、左目から右目から、ぽろぽろ、ぽろぽろ落ちてくる。 「なんでだろうね」 「やめなよ、目に傷がつくよ」 「だって」 目をこすると、星はパチパチと火花のように弾けて消えていく。 昨日夜通し泣いてたんでし
お題:たった1つの希望 お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より ----------------------------------------------- ラーメンが食いたい。 アルコールで朦朧とした頭でぼんやり思った。 街路樹にもたれて夜風を感じていると、居酒屋から聞こえる喧騒も、雑居ビルの光る看板も、どこか他人事というか、別世界で起こっていることのように感じられた。 その世界の表層に、落ちきれないかさぶたみたいに、俺の存在がぺらりと乗っている。そんな感
※微GL お題:ブランコ お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より ----------------------------------------------- 「酔っ払ってブランコ漕いでるとさ、自分が揺らしているのか、世界に揺られているのか分からなくなるよね」と言っていた君はもういない。 児童公園のブランコ、二つ並んだブランコ。行きつけの居酒屋で飲んだ後、いつもそこで女二人でN次会をしていて。 そうして二人で並んで座っていると、まるで子供の頃から親友だったみた
お題:この場所で お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より ----------------------------------------------- 荷造りが終わり、がらんとした部屋に寝転ぶ。 思えばここに引っ越してきた日も、こうして何もない床で寝転がったっけ。 大学から徒歩15分の、静かな6畳のワンルーム。ちっぽけな部屋だけど、実家を出て一人暮らしを始めた私にとっては初めて手に入れた自分だけの城で。 初めて自分でご飯を炊いた日。炊飯器の蓋を開けた時の喜
お題:伝えたい お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より ----------------------------------------------- 「ズボンのチャック開いてるよ」って伝えたい。 平日昼間、春の公園はのどかであたたかく、ブランコでは幼児がキャッキャして遊んでいる。 だからこそ彼に伝えたい。でも。 彼はまっすぐ私の目を見てこう言った。 「やっぱり俺たち、別れた方が良いと思う」 こんな別れ話の最中に言うのもなあ。 でも早く言わないと、恥ず
お題:タイムマシーン お題提供元:スマホアプリ「書く習慣」より ----------------------------------------------- タイムマシーン、と手書きで書かれた段ボールが居間に転がっていた。 窓がくり抜かれており、箱の中にはこれまた手書きの操作盤がある。覗き込めば、優斗が体操座りで中にいた。 「出てきなさい。ご飯だよ」 「父さん」 父さん? いつもはパパって呼ぶのに。 優斗は顔をあげて俺の方を見た。いつもより妙に大人びて見