見出し画像

【5分で読める小説】思い出のサブスク

お題:グラタン、浴衣、サブスクリプション
お題提供元:お題bot*(https://twitter.com/0daib0t)
--------------------------------------

 余命1年を宣告された時、俺には家族も友達も、恋人もいなかった。両親は幼い頃事故で亡くし、俺はその遺産で学校に通っていた。

 悲しい、というより、やっと解放される。そんな気持ちが強かった。たった13年生きていただけでこんなにくたびれてしまうのだから、人生100年時代だなんて言われたら、まるで終身刑じゃないか。

「それなら、あたしとサブスク契約しない?」
「……はあ?」

 病院内の食堂で、およそ体に良くなさそうな色のメロンソーダをずずずとストローで吸い尽くして、彼女はにやりと笑った。その口元にはさっき食べたナポリタンのケチャップソースがついている。
 クラスメートである花屋敷は、ちょっと奇抜な、というより割と不良。底辺ネクラの俺とまるで縁のない人物だった。
 たまたま同じ病院で鉢合わせして、俺の余命の秘密がバレるまでは。

 不謹慎なやつだ。それまでつまらなそうに病院を歩いていた彼女は、俺の余命を知るやいなや、顔を輝かせてランチに誘い、サブスクの提案をしてきたというわけである。

「一ヶ月に一回、思い出を作るサブスク。夏は浴衣着て花火見に行ったりしてさ。そういうのってロマンじゃない? あっそうそうあたし作りたいものがあって、それもつきあってほしい」
「作りたいもの?」
「グラタン。昔食べたのが忘れられないんだな」
「それ、俺のっていうより、あんたの思い出作りなんじゃないの」
「鮭が入っててさ」
「……いくら?」
「はあ? いくらなんか乗せたら生臭くなるじゃん」
「そうじゃなくて、月いくらだよ。そのサブスク」

 彼女は五本の指を広げて見せた。

「五百円か」
「五千だよ」

 遺産のない学生は常に金欠なの、と彼女は笑う。