人生、転職、やり直しゲーム 第1章

【駐車場】

「本日はぁぁ、
輪仁(りんじん)さんにぃ、庭をぉぉ、
優順さんにぃぃ、売ってくれるようぅぅ、
死ぬ気でぇぇ、交渉しますぅぅ!」

俺は目標を叫んだ。
毎朝の軍隊式朝礼の、
営業課の部屋の20人ものセールスマンの前で、
近隣から苦情がきそうなほど無駄にデカい声で。

「無能非才(むのうひさい)、
あと一本、今月中に本契約取れないと、首だからなぁぁ!」

「はい、課長!」

「よし、次は菅四輝!」

「はいっ、
死ぬ気でぇぇ、お客様にぃぃぃ、
アパート建設のぉぉ、必要性を訴えてきますぅぅ」

「菅四輝(すがしてる)、昨日もそんなことを言ったなぁぁ!
お客様の名前も具体的に出てこないのか!」

「はいっ、課長、すみませぇぇん!
私のぉ、不徳の致すところですぅぅ!
今日こそ、死ぬ気でぇ、見込み客をぉ、つかみます!」

「お前は、いつも調子のいいことばっかり言って、
架空契約ばっかりなんだよぉ!
いつまでも本店をごまかせないぞぉぉ!」

「はい、課長!」

「お前のそういう嘘が、
俺は大嫌いなんだよぉぉ!
毎朝、嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘、嘘はうんざりだ!
この、最低野郎!
お前は子供のころから先天的の嘘つきなのかぁ?
それとも、親も嘘つきだから、
虚言癖は治らないのかぁ?
この、ダメ人間が!」

ここが我慢の限界だったのだろう。
菅四輝は課長の顔面に拳をお見舞いした。
油断していた課長の鼻の穴から、血がほとばしった。

「ぎゃぁぁぁ!」

かっときた課長がやりかえそうとよろけた体制を整え、
菅四輝につかみかかったところで、
部屋にいた20人近い営業マンで2人を取り押さえた。

この事件の後も、
部長が出てきて、2人を説得して、
何事もなかったかのように無理やり握手させたあと、
「もう、鼻血も止まっただろう。
お客さんが待っている」と、
いつも通り、俺と課長と菅四輝を1つの車に同乗させ、
営業に行かせた。

車内で2人は一言も口をきかなく、
俺もどうしていいかわからず無言だった。

この日も発揮された、
パワハラパレスの異常な体質は、
何があってもノルマ優先、営業を中断させないことだった。

俺は、飛び込み営業の後、
鴨葱さんの施行計画表を建設課と作り上げながら、
優順さんの隣の家の輪仁(りんじん)さんに、
庭の土地を、優順さんが買いたいと言っていることを伝えた。

「無能さんとやら、無理だ。
土地を売って、お金が貰えるのは悪くないけれど、
庭を売ると、車を置くところがなくなってしまう」

「輪仁さん、
それでしたら、庭を売ったお金で
近くにもっと安い駐車場を買ったらいいですよ。
なんなら私が探してもいいですよ」

「無能さん、そんな、家から駐車場が遠くなる上に
新しい土地を買うなら、
得しない。損するから売るのは嫌だ」

「それでは、どういう条件なら売ってもらえますか?」

「新しく、うちの近くの土地を、
優順さんがうちの駐車場の為に買ってくれるなら、
庭は売ってもいいかな」

やはりそうきたか。

「輪仁さん、
新しい駐車場を買ってくれるかは
優順さんに聞いてみます
他に気になる点はありますか?」

「優順さんの土地にアパートが出来るなら、
2階の窓から、うちの窓が丸見えにならないか?」

「窓の横に柵を作ると見えませんよ」

「柵は、優順さんが作ってくれないと」

「輪仁さん、それも、優順さんに相談しますね」

「無能さん、
ウチとしては…庭を80万円で買ってくれて、
近くに新しく駐車場を買ってくれるなら
いいけど、
この庭に、優順さんは80万円出すかなぁ?」

80万円か。
優順さんの希望は60万円。

「輪仁さん、
ちょっとお高いですね、
優順さんは代わりの駐車場を用意するんですよ
安くなりませんか?」

「無能さん、駐車場が庭より遠くなると、不便だから、
このくらい貰えないと。
そもそも、新しい駐車場はどこになるの?」

「今、調べているところです」

近所で代わりの駐車場に使う土地を売ってくれる所はないか
俺は調べなくてはならない。
いくらだろうか?
優順さんのアパートと輪仁さんの家の間の塀の工事代も追加で必要だ。

…優順さんの土地にアパートを建てるのは、
予算よりかかりそうだ。
何とか安く出来ないか
高いと、
優順さんは銀行から融資を断られるかもしれない。
そうすると、本契約は取れない。

会社で住宅詳細地図から近くの土地を調べていたら、
乱子(らんこ)ちゃんからLINEがきた。

「寂しいわー。
無能(むのう)さんに会へんと
寂しくて死んじゃうわ。
乱子、うさぎみたいやけど、
そうさせたのは
無能さんやからな」

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