人生、転職、やり直しゲーム

【鴨葱(かもねぎ)さん】



8時45分。

俺の会社、「パワハラパレス」の

朝礼は、唱和から始まる。





「取り組んだら放すなぁ、

殺されても放すなぁ、

目的完遂まではぁぁぁぁ!」



「声が小さい、やり直しぃー!」

課長が不機嫌そうに怒鳴る。



「取り組んだら放すなぁ、

殺されても放すなぁ

目的完遂まではぁぁぁぁ!」



「よぅし、それでは、本日の個別目標!

まずは、無能非才(むのうひさい)!」



俺は、声帯が破れんばかりの大声を張りあげた。

「はいっ、

本日中にリッチ

(立地審査、アパートを建てる見積もりを取る許可を貰うこと)

1件取ります!」



「お前は、

前の契約を取ってからもうすぐ2年になる。

今月中に2件取らないと、クビだからなっ!

契約取るまで帰ってくるな!」



「はいっ!」



勢いよく返事をしないと、

課長にドヤされるので

デカい声で返事をしたが、

1ヶ月以内にアパート建てる契約を2つ取るなんて、

そんな簡単に出来るかよ。



「パワハラパレス」の営業マンは、

ノルマがキツイため

1年ともたない。

俺は、4年も務めているベテラン社員だ。



しかし、ベテランだろうとなんだろうと、

後輩の前で、もうすぐ首だと罵倒されて、

俺のプライドはズタズタだ。



「菅四輝!」



「はいっ、家賃審査

(家賃がいくら取れるか、見積もりを取る許可を貰うこと)

1件取ります!」



「よしっ、

期待しているぞ!」





くそぅ、同僚の菅四輝(すがしてる)は

そこそこ

プロセスのノルマを達成しているから、

課長のお気に入りなんだよな。

でも、恐らく架空契約だろうなぁ。

(架空契約とは、ノルマクリアのため、契約だけして、

後にキャンセルする契約)



菅四輝は、

プロセスの契約を、地主に頼み込んでよく取ってくるが、

キャンセルばかりだ。

着工(工事すること)したとは聞かないものなぁ。

しかし、今月は人の事を偉そうに言ってられない。

俺は首がかかっている。







朝礼後の朝のラジオ体操を汗だくで済ませた。

営業課のオフィスはクーラーが効いているのに、

20人もの営業マンの熱気でムンムンした。



見かけはそこそこ綺麗だが、

パワハラパレスが建てたこの自社ビル、

安普請でペラペラの壁だから、

会社の他の課まで、

俺たちのバカみたいなでかい声は

響きわたっているのだろう



「それでは、出発だぁ!」



俺たち営業マンは、基本、飛び込み営業だ。

インターネットの時代に古臭いと言われようと、

人口減少の日本で、新築アパートを建てるバカの情報弱者は、

足を使ってしつこく営業するのが1番だ。





クループで公用車に乗り、

ターゲット地区まで一緒に向かった。



俺と、課長と、菅四輝は、

パワハラパレスの公用車に乗った。

俺の運転で、

今日の予定エリア「無法地帯地区」

へ向かった。

運転は、1番成績が悪い奴の仕事だ。

俺は、屈辱に耐えながら運転したが、

さらなる嫌がらせが待っていた。



「あれ?道を1本間違えていないか?」

課長の叱責が飛んだ。

そんなことで怒鳴らなくったっていいじゃないか。

「すいません」

「てめぇ!パワハラパレスの営業マンの時給がいくらだと

思っているんだぁぁぁー!

この、給料泥棒の役立たずがぁぁぁ!」

課長が俺の座っているシートを後ろから何度も蹴った。

ごっ、ごっ、

俺の背中に不愉快な振動が伝わる。

運転席の俺と、助手席の菅四輝は、

おし黙るしか出来なかった。

「お前は一事が万事そうなんだよォ!

この、死んでしまえ!」



俺達は、駐車場に公用車を止めて、

各自、地主達の元へと飛び込み営業に向かった。



俺は、この「無法地帯地区」の

土地持ちの小規模農家に

しつこく訪問を繰り返していた。



「鴨葱さん。こんにちは」

「ああっ、また、うちの土地に無断で入ってきた!

アパートなんて要らないから、

もう、来ないでって言ったべ!

俺は、畑仕事で忙しいんだ!

出て行ってけろ!

シッシッシッ!」



「鴨葱さん、そう仰らずに。

あっ、家の屋根にブルーシートがかかっていますね。」



「うぅん、だんだん

雨漏りするようになったんでなぁ」

「うちで屋根を直す業者紹介できますよ。

放置しておくと危険ですからねぇ」



「どおすっかなぁ…」



「大丈夫ですよぉ、

見積もりだけとらせて、

お値段の相談してから、

修理をするかしないかお返事ください。

見積もり取るのは、1円もかかりませんから」



「うぅん、じゃあ、任せてみようかな」



「写真取っていいですか?

業者に送るので」



「ああ、ええだよ。

屋根に登るなら、そこの脚立を使え」



「ありがとうございます。

おおっ、さくらんぼが実ってきましたねぇ。

今年の収穫はどうですかぁ?」



「んんっ、今年は、風で少しダメになっちまったからなぁ。

ンでも、味の方はまずまずだ。

ホレ、1つ、取って食ってみぃ」



「ありがとうございます。

うわぁ、美味しいですねぇ!

俺、朝ごはん食べてないんで、めちゃめちゃ美味しいです!」



「んだかぁ?

あっ、米と味噌汁ならあっペ。

大したもんないけれど、

食っていくかぁ?」

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このページは、下記のほんを参考に書きました。


大東建託の内幕 〝アパート経営商法〟の闇を追う

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