【人生、転職やり直しゲーム 第二章 転職と地獄の研修の巻】

【叫び声のする男部屋に行く】

男用大部屋では喧嘩が始まっていた。
「ぶっ殺してやる!」
「やめろ!」
研修生の菅四輝(すがしてる)が、
大袈裟(おおげさ)さんの首を締めていた。
間に入った老耄(おいぼれ)さんが、
菅四輝の手を大袈裟さんの首から剥がそうとしたが、
剥がせない。
そこに、洗脳さんが入ってきて、
いきなり、菅四輝の顔面を思い切り殴った。
1発ではない。
2発、3発と連打した。
足を使って軽くフットワークを取りながら
ストレート、フック、アッパー、とパンチを使い分けた。
1発1発正確に打ち込み、
行動に迷いがなく、殴り慣れている。
格闘技経験者か?
菅四輝の鼻血が漫画のように派手に飛び散り、
菅四輝の手は大袈裟さんの首から離れ、ふらついて倒れた。

みんな、大袈裟さんの回りに集まった。
大袈裟さんは、真っ赤な顔で、
洗脳さんに殴られてダウンした菅四輝に向って怒鳴った。
「ゲフンゲフン、殺す気か!
お前、頭がおかしいんじゃないか?」

菅四輝は殴られ
鼻血がダラダラ出ている。
住職が救急箱とティッシュを持ってきて、
菅四輝の鼻の穴にティッシュを詰めた。
「菅くん、どうしたんだ?」
「いや、このおっさんがさっき
食事を大量に残したから、
具合が悪いのか聞いただけだよ。
そうしたら、
いきなり殴ってきたから、
こっちも頭にきて
首を締めてやった。」

これを聞いて
大袈裟さんは、寺中に響き渡る大声で菅四輝に言い返した。

「俺はぁ、ピーマンが嫌いなんだぁ!
さっきの研修で聞いただろう!」

すかさず、菅四輝が怒鳴り返す。
「ピーマン以外の野菜も大量に残したから、
心配しただけだろう!」
「…」
住職が大袈裟さんに聞いた。
「食べ物で何か辛い思い出があるのかね?」
「…」
住職はさっきの研修時とは別人のように優しい声で大袈裟さんに聞いた。
変わりすぎて気持ち悪い。
「研修の食事を見直したい。
それと、研修に合格しないと、内定取り消しだ。
キミを見捨てたくない。
頼むから、原因を教えてくれ。
言いにくくても話してくれ」

驚いたことに、住職は、
しっかり大袈裟さんを抱きしめ、
頭をヨシヨシ撫でている。
今日、会ったばかりの人間によくできるなぁ。

ここで俺は驚いた。
大袈裟さんは咳が落ち着いたところで、
ぽつりぽつりと身の上を語りだした。
「…俺は小さい頃、
母親が家を出ていって、
親父と二人暮しだった。
親父は、料理を全然しなかった。
買ってくる弁当は、
野菜がほとんど入っていなかった。
そのせいで、俺は、野菜の味がよく分からない。
野菜が苦手な俺は、
小学生になり、
給食も苦手で、
食べるのが遅くてみんなにバカにされた。
あの頃は、
給食残したら怒られる時代だったからな。

年齢が上がるにつれ、
苦手でも、少しずつ食べられるようになったけど、
今日は気分が悪く、
食欲があまりなかった。
だから、苦手な野菜を残した。
この男が変なこと言うから
頭に来てつい、殴った。」

つい?
菅四輝は心配して理由を聞いただけだろう。
そんなことで殴るな。

「大丈夫。大袈裟さんは、
研修に真剣に取り組みました。
だから、
日ごろ我慢していた感情が爆発したのです。
自分自身を見つめ直す事に成功しました。
あなたは、
生まれ変わったのです!」

大袈裟さんの目がとろんとしたかと思うと、
激しく泣き出した。

「俺は、俺自身を許して、もっと自由にすべきだったんだぁぁ!」

叫んでうるさい。
住職は、相変わらず大袈裟さんを抱きしめている。
俺は大の大人が人前で大声を上げて泣いているのに驚いた。
どうしたんだろう?

大袈裟さんが落ちついてきたから、
そろそろ寝ようという事になった。
ところが、布団は2人で1枚。
今日、会った人と同じ布団で寝ろという。
男と同じ布団に寝るなんて嫌だと言ったが、
住職が、研修の決まりと言うので仕方がなく、

俺は、大袈裟さんとペアになり、
一緒に寝た。
菅四輝は、老耄さんと寝た。

住職は、寺の横にくっついている自分の家、
洗脳さんは別の部屋で寝ると言って
引き上げた。

大袈裟さんはまるで子供がえりをしたかのように、
布団の中で俺に引っ付いてきた。
この人の精神は大丈夫なのか?
いつもなら気持ち悪かったんだろうが、
不思議なことに、
俺は、集団に溶け込みたい気持ちが芽生えていた。
さらに、
自分の弱さをさらけ出した
大袈裟さんのことが好きになって、
守ってあげたくなった。
俺は大袈裟さんと引っ付いて一緒に寝た。
いつもの俺だったら、
おっさんなんて気持ち悪いから、
絶対、拒否するはずなのに。
どうしたんだろう。

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