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【ご報告】企画展関連イベント「いせひでこ講演会~絵本を描く いのちを描く」

2022年7月23日(土)と、8月27日(土)、「いせひでこ絵本原画展~「生きる」をみつめる」(2022.7.8金~10.4火)の関連イベントとして画家・絵本作家いせひでこさんの講演会を開催しました(講演会の内容は両日とも同じで参加者完全入替で開催)。
展示のこと、講演会様子をご報告します。

2022年7月23日(土)の講演会の様子

絵本原画展の作品たち

今年のいせひでこ絵本原画展のメイン作品は絵本『たぬき』(いせひでこ/作、平凡社、2021年11月初版)の原画全点。

ひと、どうぶつ、木(植物)などとの出会いを大切にし、スケッチと記録を重ねて作品を創り上げる、いせさんは、2011年に自身の家に現れた、たぬきの親子をスケッチしていました。これまでにも、短いエッセイなどで他の作品(『わたしの木、こころの木』『見えない蝶をさがして』、以上平凡社、など)にも登場することもあった“たぬき”たちは、近年の大きなテーマ“いのち”を描く中で、「生きる」ことを純粋に見つめたいとの思いから、絵本『たぬき』として昇華されました。

『たぬき』 いせひでこ/作・絵  (平凡社)

また、いせさんは、原画展の会期が近づくと、現在の社会情勢の中で「生きなおす」を、もうひとつのテーマにかかげたいと打ち出しました。
そのテーマにぴったりなのが、『あの路』 (いせひでこ/絵、山本けんぞう/文、平凡社)です。

『あの路』山本けんぞう/文 いせひでこ/絵 (平凡社)

『あの路』の原画は、昨年も当館企画展にて展示をしましたが、孤独な少年と3本足の犬とがであい、厳しい現実を共に生きる中で成長し、懸命にそれぞれの路をみつけ出していく、魂の絆の物語は、やはりこのテーマには欠かせない作品として、展示をすることとなりました。

そして、この夏に発刊された『愛蔵版 グレイがまってるから』 (いせひでこ/著、平凡社)も、いせさん自身が飼い犬との暮らしの中で受け取ってきた“いのち”のメッセージであり、生と死をみつめて「生きる」よりどころとなるヒントが沢山詰まった一冊です。

『愛蔵版 グレイがまってるから』いせひでこ/作・絵  (平凡社)


画家の“生い立ち”や“出会い”を盛り込んだ講演会

今年の講演会は、いせひでこさんが「私はたぬきじゃないから、化けることはできません。」と冗談をいいながら、「今までの流れを総括しながらお話させていただきます。」と前置いてスタート。自身の生まれた時の状況までを話題にする内容でした。

スマートフォンなどデジタルでの記録があたりまえになっている昨今、「気づかずに人の感性がにぶっている」とし、「私は、人に伝えようとするとき、自分の中で納得しようとするとき、自分の手で描かないと流れてしまって確認ができない。」と作品の創作が記録から始まっていることを紹介。

「自分の前に現れた“たぬき(イヌ科)” 、 “犬(三本足)” 、 “犬(グレイ)” 、 (共通の言葉を持たないという意味で)もの言わぬものたちが、なぜ私と出会わなければならなかったのか、何で私の家に来たのか、何を伝えようとしたのか、それぞれを見続け、その瞬間を見落とさないように記録し続けた」と作品について語りました。

2022年8月27日(土)の講演会の様子

講演内では、ホワイトボードにスケッチや、2009年から担当している岳俳句会(主宰・宮坂静生)発行の俳句誌の表紙絵コピーなどを張り出して、参加者を引きつけました。

また、マリオ・ジャコメッリの写真や、アンドリュー・ワイエスの絵画、金子兜太、宮坂静生、細谷亮太などの俳句も紹介しながら、自身の感性に触れた要因や自身の作品とのつながりを伝え、「頭の中がしびれ、静かに興奮する、こうゆうものを絵で表現したい」と話しました。

今年のいせひでこ展は10月4日まで

『たぬき』の原画が掛かる展示室

ここでは、展示のこと、イベントの内容をすべてご紹介仕切れませんが、多様な不安や不信、悲しみを抱えながら今の社会を「生きる」私たちに、いせひでこさんが表現してくれた絵や言葉は、大きな励ましであると感じます。

今年のいせひでこ展は間もなく終わろうとしていますが、1998年よりいせさんの原画を掛け続けている当館では、常にいせひでこさんの絵本を書店に揃え、「いのち」に真摯に向き合う心を大切に皆様のご来館をお待ちしております。

(学芸員*米山裕美)

「いせひでこ絵本原画展~「生きる」をみつめる」
2022年7月8日(金)~2022年10月4日(火)
【展示作品】
『たぬき』 いせひでこ/作・絵 (平凡社)
『愛蔵版 グレイがまってるから』(平凡社) ※2022年6月刊行
『あの路』山本けんぞう/文 いせひでこ/絵 (平凡社)
以上、各全点
・タブロー「ポプラ、聞く樹よ」
・習作「もみの木」
・各作品スケッチ、エスキースなど

絵本美術館&コテージ 森のおうち
開館時間●9:30~17:00(最終入館は閉館30分前まで、最終日15:00閉館)
休館日●木曜(お盆の週は無休、祝日振り替え有り)
入館料●大人800円 小・中学生500円 3歳以上250円 3歳未満無料
〒399-8301 長野県安曇野市穂高有明2215-9
TEL 0263-83-5670 、 FAX0263-83-5885

最後までお読みいただきありがとうございます。 当館“絵本美術館 森のおうち”は、「児童文化の世界を通じて多くの人々と心豊かに集いあい、交流しあい、未来に私たちの夢をつないでゆきたい」という願いで開館をしております。 これからも、どうぞよろしくおねがいいたします。