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映画「愛がなんだ」~恋愛の重さ

山田テルコ(岸井ゆきのさん)は、5ヶ月付き合ってもマモちゃん(成田凌くん)の彼女にはなれず、それでも何事もマモちゃん第一で、いつ呼び出されてもすぐ駆けつけるし、それなのに夜中に部屋から追い出されたり…頼まれてもいないのに勝手にお風呂場のカビ掃除をしたり、引き出しの靴下を仕分けしたり…。ついにはマモちゃんにのめり込み過ぎて仕事がおろそかになり、会社もクビになってしまう。

最初は、マモちゃんって都合のいい時だけテルコを呼び出し振り回してるくせに、”山田さん” 呼ばわりで彼女じゃないから!と線引きしたり、まぁクズだな…と思って観ていたが、話が進むにつれて、おかしいのはむしろテルコの方じゃね?と感じ始めた。
ごめんだけど、自分が男だったらテルコみたいな子は正直苦手なタイプ。ドン引きしてすぐに連絡を断つかも。世話女房気取りで自分の生活領域にどんどん侵入してくる感じがムリ…。尽くしてるというよりは、"好き"の圧が強過ぎる。
好きな人以外は全員興味がない人になり、自分のことさえどうでもよくなってしまう恋愛依存症といっても過言ではないテルコ。嫌がりながらも楽だからとズルズル付き合い続けるマモちゃん。こういう関係は腐れ縁になりやすい。

しかしスミレ(江口のりこさん)の登場で、グズグズの二人の関係にも変化が起こる。スミレを好きになったものの全く相手にされず、今度は自分がいつも相手の顔色を伺い尽くす側になってしまうマモちゃん。少しはテルコの気持ちも理解できたのだろうか。
テルコの親友・葉子(深川麻衣さん)と、忠犬のように付き従っている仲原(若葉竜也さん)の関係もしかり、一方通行の恋がいっぱい。


なんて散々書いてますが、自分の気持ちを素直に伝えられないとか、自分の好きより相手の好きの熱量は少ないなと感じたり、自分を見失うくらい好きになり過ぎて自爆…とか、そういう痛い経験は私にもあるので、テルコや仲原の気持ちが全く分からない訳でもない。
むしろ恋愛において、自分と相手の思いが同じくらいの量っていう事の方が、実は稀有なのではないかと思う。付き合う相手によって、シーソーに乗っているみたいにどっちかの気持ちの方が少しだけ重かったり軽かったり、恋愛っていつもなんとなく不平等なのかもしれない。

「幸せになりたいっスねぇ」「オレが(尽くし過ぎて)葉子さんをダメにしてるんっスよ…」都合のいい男・仲原の葛藤はすごくリアルで切なかったが、なぜか同類のテルコのことはいじらしくは思わなかった。
どうしてそんな立場に甘んじているの。おかしいでしょ!と仲原に真正面から意見するスミレは、ただのパリピーかと思っていたら実は一番真っ直ぐな人だった。カッコいいぞ、スミレ。案外マモちゃんは女を見る目はあるのかもしれない。

マモちゃんへの叶わない恋ゆえにどんどん深みにハマってゆくテルコ。だけどもしマモちゃんと晴れて恋人同士になっていたら、案外テルコはスーッと冷めてしまったかもしれない。
今までテルコの気持ちも考えず酷い付き合い方でごめん、だからもう会うのやめよう、お互いちゃんとしようとマモちゃんが別れを告げに来ると、ずっと側にいたいから、マモちゃんの事なんてとっくに冷めてるような振りをして、マモちゃんの親友と付き合うそぶりで友達でもいいからマモちゃんと繋がっていようとするテルコはかなり屈折している。これは恋なのか執着なのか。
"33歳になったら動物園の飼育係になりたい" いつかマモちゃんが言っていた夢(?)を叶えるため自分が飼育係になるテルコ。もう本人さえそんな事は忘れているというのに…。最終的にマモちゃんになりたいっていうのも、どういうことなのかな…。もう自分が全部なくなってもいいから100%マモちゃんと同化してしまいたい、ということなのか?

観終わって、監督は誰なのかと確認したら、「アイネクライネナハトムジーク」の今泉力哉さんではないですか…。まったく事前情報なく観たもので知らなかったわ。春馬くんもだけど、この作品の成田凌くんもすっかりイケメンオーラが消えていた。俺ってカッコ良くないじゃん?とマモちゃんがテルコに言う場面でもけっこう現実味があった。
ともすれば、ドロドロの色恋沙汰にもなりそうなところを、小ちゃくて童顔の岸井ゆきのさんがテルコを演じたことにより、ある種メルヘンのような不思議な雰囲気の物語になっているようにも感じた。




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