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Cocteau Twinsと鳩山郁子 〜詩的な幽玄の世界

コクトー・ツインズ / Cocteau Twinsをご存知の方はnoteにいるだろうか?

コクトー・ツインズは1979~1997年まで活動していたスコットランドのバンドで、独自な音楽性を持っていた。
彼らは1982年にイギリスの4ADというインディーズレーベルからデビューし、初期の4ADには耽美派なアーティストが多く、アルバムジャケットのアートワークもそのカラーを昂めるようなデザインだった。

私が彼らを知ったのは80年代の中頃で、アルバムを聴き込んだとか大ファンというわけではなかったが、印象に残っているバンドだった。
先日、彼らのアルバムが配信もされているのを発見して、十数年ぶりに聴いてみたのだけど、今も惹かれるものがあったので、今回は記事にしてみようと思った。

Cocteau Twins

Sugar Hicup

80年代に私が初めて聴いた曲だった。
シュガーヒカップ(砂糖のしゃっくり)という何とも奇妙なタイトルだけれど、エリザベス・フレイザーの高揚感のある歌声、リバーブが深く少し歪んだようなギターの音色、当時まだ走りだったシーケンサーを使いループするドラムが相まって独特の浮遊感を生んでいる。彼らの曲の中ではわりと聴きやすく不思議な明るさと開放感がある。
2枚目のアルバム「Head over Heels」1983年収録。

Pandra(For Cindy)

さらにその世界が深まったのが3枚目のアルバム「Treasure」1984年収録。
エリザベス・フレイザーの澄んだファルセットと気怠げな地声の対比も独特の雰囲気を醸し、ディレイ系のエフェクターがかかったギターと重めのドラムの残響も水に揺蕩たゆたうようで心地良く、どこか幽玄の世界へいざなわれるような気持ちになる。

Blue Bell Knoll

冒頭の緊張感を孕んだシンセのリフ、重層的に響くギターと後半に向かうにつれ激しさを増すドラムはバンド色が強くなった印象の曲だけれど、エリザベス・フレイザーの美しい歌声はオペラのような発声も感じさせ、さらに深みを増している。
アルバム「Blue Bell Knoll」1988年収録。
ブルーベルとはヨーロッパの森林などに春に自生するベルのような形の青い花。

コクトー・ツインズはポストパンク、シューゲイザー(久々に聴いたらなんとなく初期のキノコ帝国が思い浮かんだ)、ドリームポップの元祖と言われていたようだけれど、その音楽を形作っていたのは、天使の歌声とも評された表情豊かなエリザベス・フレイザーの声と、電子工学を学んでいたというロビン・ガスリーのエフェクトの効いたギターと打ち込みによるドラムであり、楽曲は同じメロディーや言葉の繰り返しが多く、歌詞は意味をなさなかったりよく聞き取れなかったりする箇所も多いけれど、ただ音を体感し味わうというアンビエント的な聴き方がしっくりくると思う。
コクトー・ツインズにはもっとダークで退廃的な曲も多いが、私はメロディアスでゆったりした曲の方が当時も好みだったので、この選曲はかなり偏っている。
1990年以降のアルバムはほとんど聴いていないので、機会があったら聴いてみようと思った。

若かりし頃は、音楽もファッションもUKから影響を受けることが多かった。
周りで留学する友人もいたり、私も憧れていたなあ。

鳩山郁子

ここからは漫画家の鳩山郁子さんについて。
アングラでエログロナンセンスな作風の作家を多数抱えていた漫画雑誌・ガロには似つかわしくなく(でも私はガロファンだった)、泥の中に咲く蓮のような(それだけガロでは異色だった)耽美的で高い美意識が伺える作品を発表していた鳩山郁子さん。
稲垣足穂や長野まゆみの文学世界を、漫画で表現したような印象もあり、いや、漫画というより鳩山さんの作品は映像的といった方がいいような気もする。
鳩山さんの単行本の帯に長野さんがコメントを寄せているので、お二人は交流があったと思われる。



鳩山さんの作品のタイトルには数多くコクトー・ツインズの曲名が使われていて、相当なファンだったのではないかと推察している。
コクトー・ツインズとリンクするような幻想的な世界は、儚く優美で、時に妖しく、鉱石・時計草・ランタン・幻燈会・角砂糖・万華鏡・ボビンレース・古い陶磁器など登場するモチーフも美しく、どこの国を舞台にしているのかも分からないような、少年たちの物語が描かれている。
この国へ移住の際に涙を飲んで「スパングル」他数冊は人に譲ったが、初めての単行本である「月にひらく襟」は今も手元に残してある。
陰影のある繊細なタッチは時に銅版画を思わせ、詩的なストーリーも魅力的だ。
今は青林堂を離れたが、変わらす活躍されている。

コクトー・ツインズを聴きながら、鳩山郁子さんの漫画を堪能するというのも、なかなか乙なものだと思う。



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