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てのひらの物語

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物語を綴るように、体験を通したエッセイ。
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#春馬くん

精霊になった、あなたへ

精霊になった、あなたへ

車ごと列車に乗り込み、南の街から1000km離れた北へと向かった。
車窓を流れる風景は、平原からなだらかな稜線を描く山々、白樺から針葉樹の森へと移り変わってゆく。
極北の大地は太陽の沈まない完全な白夜に包まれ、薄明の空の下を一晩中、夜行列車は走り続ける。

ガタンゴトン、ガタンゴトン、レールと車輪の軋みに揺られ、コンパートメントの三段ベッドに寝そべっていると、「大いなる鉄路」でナレーションを担当し

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あなただけがいない夏

あなただけがいない夏

私の住む海沿いの街は群島に囲まれている。
街の中心部からフェリーで10~30分も行けば大小様々な島に辿り着く。

息子はすでに6月の頭から夏休みに入り、友達は皆んなサマーハウスや田舎の祖父母の家などに行ってしまった。遊び相手もなく毎日ゲームばかりして時間をもてあましている息子を外へ連れ出すために、一緒にフェリーに乗船する。

このところの暑さで、涼を求めて島へ行く人々や自転車や連れの犬たちなどで船

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