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生きるための問題 (原案)

生きるための問題/人類の自覚
人間の幸福感と認知に関する洞察(仮説)

目次:
 
-目的
-公理
-補足
-結論
-注
 
1.幸福感(より良い自分、より良い世界、より良い未来のために)
1.1.人間の行動原理
  1.1.1. 共同体意識/同質性と異質性
  1.1.2. 自己有能性の度合い
  1.1.3. 協調性の度合い
1.2.幸福感を持続させる提案
 
2.人間の認知(苦しみを克服する方法)
2.1.物理的メカニズムの仮説
2.2.認知機能の発現と発達
  2.2.1. 胎児から幼児期までのタグ付け
  2.2.2. アイデンティティ、社会的意義のタグ付け
  2.2.3.人間の認知力の無限の可能性と限界
2.3.表象の不正確さ
2.4 自他システム
2.5.自我と社会的問題
 
-参照





-目的


・私の目的は、人間の本質に関する私の哲学を伝えることで、より良い自身、より良い世界、より良い未来に貢献することである。

-公理


公理1)
素粒子レベルから天体という集合体に至るまで、万物は刺激と反応の相互作用によって成り立つ。
 
つまり反応はまた刺激となる。
 
• 刺激の変化率 (刺激の質が変化するスピード 例:気圧の変化)
• 一貫性 (定期的に来る刺激 例:地球や月の公転)
• 刺激の作用時間 (一瞬から永遠まで)
• 刺激の強さ(圧力、重力など)
• 刺激の構成の複雑さ
• 刺激を受ける範囲
 
などの刺激の要素があるが、刺激を受ける側には反応速度や応答速度があり、刺激が安定しているほど、反応もまた一貫する。
 
刺激が受ける側にとって未知であったり、ランダムであったり一度切りなど、元の状態に戻ったり、適応/順応が間に合わず破壊されたりするが、許容範囲内であった場合、刺激を受ける側も反応の産物としてその形態やシステムを変化させていく。(例:パブロフの犬、宇宙飛行士の筋力、脳の可逆性、人の場合の軽度のストレス(=緩やかな刺激の変化はよい成長をもたらす。)化石燃料から代替エネルギーへの移行。) 人の社会において問題に解決力が追いつかない場合、生存に困難な状態に追いやられる。
 
つまり進化とは長期的な一貫刺激の世代を超えた相互作用(遺伝や文化)であり、種や生体自体が変化に反応し、環境と相互作用してきた結果である。(例: 免疫システム、神経伝達物質と受容体、共生や擬態、蚕の退化、刺激による遺伝子発現の変化) 人間の脳の一番外側、つまり大脳新皮質はまさしく今この瞬間の不安定な刺激に対して反応をしている最前線であり、深部に行くほど、古代からの安定した刺激に対応している。人類の文明が発達し、農耕が始まり、共同体が複雑になり、利害関係に基づく意見の相違(協調性の度合い)が増すと、自己有能性のニーズやストレスという刺激に適応する形で新皮質が急速に発達した。
 地球環境が一定なら進化は進まず、激変しているなら変化に対応できないものは死滅するが、進化のスピードも早まる。(例: 大量絶滅後の適応放散。)
 
公理2)
-知性とは「存在(または情報、刺激)の違いを識別する能力」の総和である(「識別能力単位」の総和である)。
-認知とは「識別能力単位」と「生存に関わる内生的感覚=主観(快・不快など)」、を結びつける能力の総和である。(「繋合能力単位」の総和である)。
-識別された違いは新たな存在(または概念)となりうる。
-繋合能力単位の総和が高い認知主体は、生存に効率的なシステム(または器官)を発達させ、自分自身を認知することができる。
つまり、自我を持つ。

-補足


※「能力」とは以下の3つの力の総和である。
 
インプット力→解釈力→アウトプット力
 
・「インプット力」とは必要な情報に目星をつけて探索し収集していく活動。
・「解釈力」とは得た情報から必要なものとそうでないものを選り分けていく活動
・「アウトプット力」とは高度なコミュニケーション能力を使い問題解決していく活動。
 
※「言葉」とは必要性から生まれたコミュニケーションの道具であるから、意思疎通が「ある程度」図れていれば、その役割を果たしている事になる。
幼児の言葉の発達が外言から内言へと進むように、進化においてもコミュニケーションから思考の道具へと発達していった。コミュニケーションには精度のスペクトルがある。精度が低いのは全く伝わらない、身振り手振りから予測するといったことである。科学のコミュニケーション精度は高い。数字や文字、プログラム言語を明確に定義することで(「精密な道具」を持つことで)科学は発展した。

-結論


・あらゆる規模の共同体において、生存欲求に基づく個の有能性と建設的な協調性が相互に依存することで、より良い共存社会が形成されていく。
・人間の認知メカニズムを知ることで、人間の本質を知り、今をよりよく生きることがでる。

-注


認知:細胞レベル・無意識での刺激の識別の結果を含む
認識 : 意識下での再認知                               

1.幸福感
(より良い自分、より良い世界、より良い未来のために)

1.1.人間の行動原理


このエッセイの前提となるのは、存在の肯定と、人間が生来持っている生存への方向性です。それは、すべての生物の本質です。このようにして生命は存在しています。私が人間の幸福やその心の平安について考えるとき、根底には生物としての生存・繁殖の本能が流れているという前提から出発します。健康な人間は、その生存率を最大化するために、生存本能に従って最良の選択をします。サバイバルからクオリティ・オブ・ライフまで、すべての感情は生存に有利か不利かを示す本能的な身体反応です。つまり、損得の計算は常に無意識のうちについている可能性が高いのです。人は快楽や美徳を求め、不快感や損失を避けようとします。
感覚器官は、物理的世界からの無限の刺激の中から特定の刺激を認知し、脳は生存に必要なものを選択・処理し、内的感情をもって参照し、意識的・主観的に解釈します。人は、意識するしないにかかわらず、まず自分の生存とアイデンティティを守るために選択し、次に利潤を得るために自己中心的に行動します。
 
今回は、人間の行動原理の3つの指標について説明したいと思います。この3つの指標は、人がなぜそのような行動をとるのかを説明するときに、すべて考慮されます。幸福感が個人の主観的なものであるように、これらの行動指標も個人の主観的なものであり、遺伝や母体要因(栄養、体調、薬の使用など)、生育環境などの影響を受けます。人は、幼児期には本能によって無意識に、成長とともに環境から学んで意識的に変化させ続けています。

1.1.1. 共同体意識/同質性と異質性


1つ目の指標は、「個人の共同体意識の次元」です。ここでの共同体の定義は、広義に共通するものがある人々の集まりとしています。人は一度に複数の共同体に所属し、それぞれの共同体にどれだけ積極的に関わっているかが異なります。 共同体の例としては、家族、性別、都市、会社、趣味、宗教、国家、人類・地球・宇宙などがあります。人はそれぞれの共同体に共同体意識を持っています。 共同体意識の度合いが高ければ、人はそこに自分の時間や人生を捧げることができます。逆に共同体意識が低ければ、その共同体の存在に関心を持たないでしょう。また、特定の共同体に敵意を持っている場合には、さらに指標がネガティブになります。 共同体意識は個人のアイデンティティと密接な関係があります。
人間の脳には、取り巻く環境の中の同質性と異質性を区別するメカニズムがあり、人はそれを繊細に感じ取っています。これは、共通するものが多いほど理解しやすく、安心感を得やすいからです。人が共同体に積極的に関わり、自分がその一員であると感じているとき、その人はその共同体が自分の味方であり、自己の一部であると感じています。

1.1.2. 自己有能性の度合い

自己有能性=人(や他の生命も含めて)が本来持っている生存へ向かう、生存の確立を高める性質。徳を積む、自己肯定感を高める、能力を上げる、お金を稼ぐ、他人を蹴落とす、妬むなど。無意識的、意識的、本能的、理性的に関わらず、個体がそれを自覚、理解している必要はない。 

2つ目の指標は、「自己有能性の度合い」です。自分の能力を向上させて、生存に有利な状態にしようとすることです(あるいは、人類の生存可能性を拡大しようとすることです)。数値化された指標がマイナスの場合、自身の力では自己有能性を高められない環境にあります。その人は低い自尊心や「傷ついた」心、ストレスと戦っていることになります。また、「自己防衛本能」が働いている状態です。数値化された指数がニュートラル(0付近)であれば、人は自分の生きるための欲求を満たそうとしています。満足している人は、情報収集、探索、財テク、美徳の実践などの活動に移ります。ポジティブであれば、いわゆる自己実現を果たし、理想的な自己像と同一視している人のことです。本来持っている能力を最大限に発揮している状態で、他人に褒めてもらう必要がありません。他人に合わせることなく、自分のやりたいこと、できることをやっている状態です。自分のありのままの姿に存在意義を見出すこともできます。他人を批判することで自己有能感を得ようとする人もいます。独善的な活動も含め、自己満足で完結します。
人はストレスから身を守るため本能的な心理防衛機能(抑圧、逃避、合理化など)を持ち合わせます。そのストレスと向き合い克服することで、自己有能性の指標はプラスに移行していきます。
自己有能性の度合いは、共同体そのもの全体に適用されます。共同体自体が自己有能性の指標を持っており、その中で積極的に交流する人々は、その有能性を高めるために貢献します。個人の貢献度は、 その人の共同体の意識の度合いによって異なります。守備範囲を広げるように、自分を含めた共同体の生存の可能性を高めます。
自己有能的な活動が社会的に求められたり、好まれたりすると、生存への相乗効果があります。

1.1.3.協調性の度合い

3つ目の指標は「協調性」です。これは、人が他人と協力しようとする意思があるかどうかということです。この指標は、社会的な善悪とは区別されるべきであり、また、生まれつきの気質に加えて、選択行動の積み重ねとして性格が示されるように、それぞれの行動の選択に焦点が当てられます。これは、意見の対立や相違があったときに、自分の考えを採用するか、他人の考えを採用するかの行動としての結果を示しています。つまり、歓迎されない選択になるかもしれないのですが、ここでは、人が自分の意見を貫くか、他の意見を選ぶかということです。状況に応じて、人は他の人と歩調を合わせるか、他の人とは違う独自性を持つことで生き延びることができます。また、社会的な生き物である人間には、承認欲求が本能的に備わっており、社会の原動力となっています。承認欲求を満たすことは、自分の幸福感にもつながります。
さて、ここで本来の自己有能性の追求との矛盾が生じます。人は可能であれば完全に自分のやり方で行動しますが、そうすることで自分が不利になり、社会的地位を悪化させるので、そうしないことを選びます。この指標は、その人の能力や立場によって変わります。また、共同体意識や、共同体との価値観の違いによっても変わってきます。

再考中。

1.2.幸福感を持続させる提案


幸福感とは、他の感情と同じように湧いては消える泡のようなものです。それは、私たちが生きる環境や立場が常に変化し、有利もあれば不利もあるからです。幸福感が長く続くには、個人が次のようなニーズを追求し、また提供することを提案します。
 
·      体調を整えること。気分は体の中の状態に左右されます。
·      自分の存在にとって不利な状況で生じるネガティブな感情を認識し、それに対処する能力を持つこと。考え、学び、本人の行動や認識を変えることで成長すること。
·      自己効力感を持つこと。本人が自分で決めて、状況をコントロールできる環境を選ぶこと。
·      有効なコミュニケーション法、人間関係の築き方を学ぶこと。(トマス・ゴードン博士)
·      教育やコミュニケーションを通じて、正しい情報を得て、学び、知恵を得て、権力や資本の思い通りにならないように、犠牲にならないように、社会の中で自分を高めていくこと。
·      自分のポジティブな共同体を作り、広げていくこと。人々の反応やその他の社会現象から、自分が属する共同体に感謝、尊敬、思いやりを持って貢献していることを実感できること。
 
他者貢献とは多様性や違いを尊重する精神を持ち、そして思いやりのある行動をとる事から始まります。それは、各々の置かれた状況を理解し、忍耐をもって共に成長しようとする謙虚な姿勢から始まります。助け合って生きていることへの感謝の気持ちがなければ難しいでしょう。自己有能性とポジティブな協調性の相互依存のバランスが個人の幸福感につながり、個人の存在が脅かされない、より住みやすい共同体を作り出します。
自分の生きたいという欲求を認識して受け入れ、自分が信じる最善の道を選択することがとても大切です。人は他人の幸せを測ることはできません。しかし、より多くの人の幸福感、つまり生存本能が満たされれば、より多くの人が一つの共同体として地球に還元するようになるでしょう。

2.人間の認知  
(苦しみをどう乗り越えるか)

2.1.物理的メカニズムの想定


私たちは物理学の法則に従っているので、まず物理的な世界を見ることから始めます。母親の胎内で、感覚器官や脳が形成されてから死ぬまでの間、身体は想像を絶する量の素粒子や力にさらされ続けます。私たちを構成する体の細胞は、恒常性を保つために様々な刺激に対して常に化学反応を起こしています。刺激には大きく分けて2種類あります。一つは感覚器や神経系によって脳にもたらされる外的刺激、もう一つは血液やリンパ系、ホルモン等によってもたらされ、気分や体調に影響を与える内的刺激です。また内的刺激には、自分の遺伝子が作り出すものと、体内に侵入した細菌やウイルスが作り出すものとに分けられます。月の重力のように、身体が物理的に受け取っていながら、感じることのできないものもたくさんあります。
感覚器官は特定の体外刺激を受け、脳はそれを情報として処理します。すべての感覚器官から同時に、膨大な量の刺激が脳内の神経に受動的に伝達されます。同時に興奮した近くの神経細胞同士が引き合ってシナプスを形成します。この時点では、刺激が伝達されているだけで、本人はまだその刺激を認知していません。
同じ、あるいは同質の刺激を受け続けると、刺激の違いを認知するメカニズムがあると推測されます。機械学習分野のDeep Neural Networkにも共通する部分があると思います。これらの違いはグリア細胞によって認知・選択され、遺伝的に発現された生存に重要な内部反応や内部刺激を参照してミエリン鞘を形成します。また、グリア細胞は、扁桃体や視床下部からのシグナル(A10神経からのドーパミンなど)を参照し、快・不快などの「主観的な意味」を与えます。
インパルスが繰り返されることで、受容体の数が増え、シナプスの感度が高まります。(ヘッブ則)また、同じ刺激に反応した有髄神経細胞は、同時に興奮した関連する神経細胞を再び接続して神経回路を作り、ミエリンを厚く強くすることで認知機能を高めます。同時に不要なシナプスの刈り込みも起こります。パペッツの回路、ヤコブレフの回路、眼窩前頭皮質の研究がヒントになるかもしれません。直感は瞬間的ですが、思考(知覚)は後から発生します。これは神経細胞とグリア細胞間の伝達速度に関係していると思われます。脳内の言語における思考速度は、聴覚で得た言語速度の知覚がベースになっています。
また、すでに認知されている刺激に対しては、有髄神経細胞も順応し、「跳躍伝導」と呼ばれる時間短縮が行われます。節約された時間は、新しい刺激の獲得に使われます。個人は、異質な刺激や新しい種類の刺激に対してより多くの反応を示します。脳はエネルギーを効率的に使います。脳は、すでに認知されている刺激の繰り返しには余分なエネルギーを使いません。毎回、すべての情報を処理するには、多くのエネルギーを消費します。脳は、新たにやってくる情報に似たものがないか、すでに脳内に保存されているコピーを参照します。(James Kozloskiによるグランドループモデル?)逆に、全く新しい刺激にエネルギーを注ぎ、それを認知しようとします。人がユニークなアートに興味を持ち、新しいことにチャレンジしたりするのは、脳がそのような刺激を求めているからです。
人間は環境からの刺激に応じて、生存に必要な刺激をキャッチし、処理する能力を進化させてきましたが、すべての刺激に対応することはできません。その代わり、必要な刺激には強く反応し、生存を最大化するために認知能力を向上させるという進化を遂げています。

2.2 .認知機能の発現と発達


前述のように、外部からの刺激は人間の感覚器官を介して受け取られ、化学反応は活動電位の形で現れ、神経細胞を介して脳に入ります。単なる物理的な事実であり、そこに「意味」はありません。認知は、刺激のパターンを他とは異なるものとして識別する能力から始まります。似た刺激はオリゴデンドロサイトの髄鞘化によってまとめられ、同期され、同じ刺激として認識されます。このように感覚として認知された刺激の違いを識別することで、これらの要素が組み合わされて概念となります。これらの認知には、神経伝達物質とグリア細胞の働きによって主観的な意味のタグが付けられます(シナプスにおける神経伝達物質の受容体の数、強い刺激の認識?(例:ノルアドレナリンによるアストロサイトの活性化)これらのタグは、人が自分を守り、生きていくために重要なものです。このタグは、過去の「記憶」を呼び起こすための鍵となります。タグ付けには発達段階があります。Paul Flechsigの研究は、髄鞘形成とタグ付けの順序について関係があるように思われます。
刺激を受けること自体が脳の受動的な状態(インプット)であり、乳児はこの時間の大半を過ごします。意識や自我が芽生えると、認知によって蓄積された概念で思考することで、脳の活動状態が高まります(前頭葉によるアウトプット)。また、認知の構成要素が発達すればするほど、その構成は人間社会の機能や役割のように複雑になっていきます。認知と概念の発展についての考えを以下に説明します。

2.2.1.胎児期から幼児期までのタグ付け


胎児は、母親の胎内で受けた刺激以外のものを認知することはできません。胎児の精神世界は空であり、無限の可能性を秘めています。生まれた瞬間から、この体外世界のあらゆる刺激を受け、遺伝や体調、環境などの影響を受けながら、必要な刺激を神経系で処理し始めます。
繰り返し入ってくる刺激から、グリア細胞はそれぞれのパターンの違いを認知し、空間、色、音、匂い、形、質感などの存在を見出します。また、それぞれの刺激パターンの類似性や役割を認知します。パターンの中には、感情や獲得された言語と関連づけられた(タグ付けされた)ものもあります。
そこからの認知の発達は、感覚要素をベースに、4~5歳頃までに様々な刺激を物体、概念、感情、言語、エピソード、経験などとして認識できるようになります。構成要素の組み合わせを学習して組み立てることで、組み合わせの数が増え、人の持つ概念はより複雑になっていきます。無限の組み合わせにより、子供たちは自由にユニークなイメージやアイデアを生み出していきます。
そしてついに、人は自分が生まれ育った環境を認識し、それに合った自己、そして自我を獲得します。この時期には人間に対する安心感のタグづけ、親の価値観を参照にしたタグづけも行われます。

2.2.2.アイデンティティ、社会的意義のためのタグ付け

 
自己を獲得した後は、個人にとって刺激がより一層意味を持ち始めます。身近な人間の価値観に大きく影響を受けます。論理が働き始め、過去に付けられたタグで未来を予測し、生きている世界に働きかけることができるようになります。そこからの反応によって、自分自身を学び、向上させることができます。また、メタ認知によって、自分の個性を見つめ、評価することができるようになります。
このように、個人が成長して認知が複雑になると、そのすべてが自分の自我や主観となり、それらは不可分なものとなります。人は矛盾や葛藤を抱えながら、自分の選択、行動、主張、存在の正当性を求めます。自分の信念を否定することは、生きることを拒否することに他なりません。信念を変えることは、個人の脳が作り出した自我を再構築する作業であり、個人はこれまでに蓄積してきたタグ付けや主観的な構成を見直さなければなりません。人は年齢を重ねごとに、価値観や人生観が強くなっていきます。
個人が成長するにつれ客観的認識が発達します。個人は同時に主観的な見方と客観的な見方の両方を持つことが可能です。信用できる情報とできない情報にもタグづけがなされます。人は、共同体における自分の立場を認識し、自分を取り巻く社会にとって意味のある刺激を受け、共同体や環境に働きかけます。あらゆるアイデアが生み出され、試され、共有され、洗練され、人類は個人と種の生存可能性を拡大していきます。

2.2.3.人間の認知の無限の可能性と限界


このようにして、認知は生まれ、無限に発展していきます。その起源をたどると、感覚器官から得られる刺激で構成されています。自我(意思と思考システムからなる)は、個体が受け止めたあらゆる刺激の認知とその構成並びに解釈だと定義します(認知の創発)。
ここに人間の想像力の限界があります。つまり、人は自分が受けた刺激の要素から思考するのであって、受けたことのない刺激を使って想像することはできないのです。刺激が認知できなければ、それに反応して感情が起こることもなく、初めて受ける刺激は意味を未だなさないものです。洗練された違う感覚器を持つ他の生物を感覚的に理解することは不可能でしょう。

2.3.表象の不正確さ


ここで重要なのは、表象(脳内の物理的世界のコピー)は精密でも正確でもないということです。表象は、すべての感覚器官からの情報分析の重ね合わせとして映し出されています。神経による情報の伝達には個人差があり、投影される表象も人によって異なります。人は多くの同じ刺激を共有していますが、無意識の主観的なタグや意識的な解釈は、人によって異なります。例えば、ある人がリンゴについて知っている事実のリストを持っていて、そのリストが多ければ、それが真実であろうとなかろうと、その人はリンゴを深く認識していることになります。事実のリストが人によって異なる場合、その人たちは異なる認識を持っていることになります。
前述の通り、強い認知は必ずしも正確な認知ではありません。同じ反応が一貫して返ってくるほど、脳はその情報を信頼します。人は、他人と意見が違っても、自分の経験的な認知が真実であることを疑わないものです。何か説明のつかない、ありえないことが起こると、人は混乱し、パニックになり、恐怖感を伴います。脳内の秩序とのズレが強い刺激となって現れます。映画やゲームのような非現実を楽しむことで、そのような障害に備える人もいます。
人は、現在重要でない刺激にはあまり気づかないものです。人は、いつもの風景は気になりませんが、何か違うものがあれば、それに気づく傾向があります。脳は周囲の環境を認識するためにもエネルギーを使います。人は過去に経験したことを識別できますし、目の前にあるものを詳細に描写できますが、後に正確に再現することは困難です。
人は、習慣的に脳に蓄積された認知を参照して、現在の刺激を判断しています。通常、脳(有髄神経細胞)は瞬時に要点を把握し、真の意味での現在の刺激を再検討をしません。例えば、私たちは「毎日会う人は、昨日と同じ人だ」という前提で活動しています。他人のちょっとした言動を過去の認知と結びつけることで人はその人のことを何となく知っているように思ってしまうのです(偏見と差別)。
脳に映し出された人物は、現在の物理的世界に存在する全く同じ人物ではありません。脳内の表現や記憶は、現在の現実世界には全く存在しません。見た目は同じでも、人や物は外界の影響を受けて少しずつ変化していきます。実際に人が相手から受ける刺激は、その相手の人生の取るに足らない量です。どんなに長く付き合っていても、本当の人のすべてを知ることはできません。
しかし、脳は情報の不正確さや不整合性をも認知することもできます。そして、人や環境に働きかけ、その反応を見ることで、間違った認知を常に書き換えているのです。
認知の正確さや強さは、スペクトルになっています。気圧や月の重力などの微妙な刺激や認知は、脳の奥深くに広がっています。感覚的な記憶も含めて、そのほとんどが潜在意識に残っています。強い認知が繰り返されるほど、それは意識として現れ、記憶されていきます。記憶とは潜在意識にある認知を、意識下に呼び起こすことができることです。意識とは、自我の闇を照らすスポットライトのようなものです。人は、常にどこかの瞬間に意識のスポットライトを当てていますが、たいていは自分の外の世界(体の外)と内の世界(自分の存在や考え)を交互に見ています。外の世界にスポットライトを当てているときは、無我夢中で集中し、夢中になっているでしょう。脳を含めた身体は現在の刺激に忙しく反応しています。認知が刻々と上書きされていく中で、刺激が繰り返されなかった強い認知は弱まっていきます(ヘッブ則)。

2.4 自他システム


ここでは、コントロールという観点から、自他システムの概念を紹介したいと思います。円心状のシステムの中心には“意思”があります。もっとも外側の層は“未知の世界”です。これらのシステムの層は互いに影響しあっています。
 
↓自
・ 意思(=超自我、脳の最も活動的な部分、意識の中心にあり、随意運動を含む)
・思考(=自我、脳の活動的な部分、意識の中にあり、随意運動を含む)
・ 脳(=グリア細胞による認知、記憶、概念、無意識、自律神経、覚醒と睡眠、直感、気分)
・ 身体(=シュワン細胞による認知、随意運動、自律神経、自身の遺伝子を持つ細胞)
・ 体内生物(最近やバクテリア、あるいはそれらの産物)
・ 体外(身体に直接影響を与える空間、同質から異質へ)
・ 外界(過去の体験から脳内に存在する情報、物理的に隔離された存在)
・ 未知の世界(個人に認知されていない存在)
↑他
 
自の最も中心的な部分である意思(=超自我)は、アウトプットを目的とした脳の部分(主に前頭葉)にあり、人の最もコントロールが及ぶ部分です。また意識を意図的に向けるために最もエネルギーを消費する脳内の活動です。
次の外側の層は思考(=エゴ)です。これは自然な脳の活動で、人はコントロールできているようでいて、あまりコントロールできていません。何も考えないようにしようとする意思に反して、湧き上がってくる考えのことです。思考は意思(=超自我)によって統合、調整、抑制されます。
グリア細胞(またはシュワン細胞)は、超自我から身体まで、必要な部位で認知のスペクトルを構成しています。脳の各部位にそれぞれの活動が見られるように、脳は無意識のうちに多くの作業を同時に行っています。(例:ラジオでニュースを聞きながら車を運転し、歩行者を確認し、今日の夕食のメニューを考えているなど。)
意識は、脳の活動部位により、覚醒と睡眠のスペクトルとして示されます。脳の各部位のエネルギー消費量が覚醒度と同義であると仮定すると、消費するエネルギーが多いほど、意識レベルも上がると考えます。認知のスペクトルと意識のスペクトルは異なる次元のスペクトルです。
人がコントロールできるのは(体内からの刺激も含めて)直接触れている物理的な環境に働きかけることでのみです。もちろん、それは時空を超えて伝播していきます。見聞きし、触れ感じることの全てが、個人に影響を与え、逆に個人の反応の全てが多かれ少なかれ環境に影響を与えます。行動の全ての要素に環境を変える力があります。どのように影響するかは計り知れませんが、その行動が繰り返されることで、周りはその刺激に順応、もしくは崩壊していきます。
中心の意志から離れれば離れるほど、個のコントロールは及びにくくなります。思考は刺激に対する自発的な脳の活動ですが、私たちは自由な意志の力で取り巻くシステムを変えることもできるのです。意志の力は生きるための欲求と強く結びついています。
人類は認知力を高め、超自我を獲得することにより、自由な意志の力と情報を持って学習し、環境をコントロールしてきました。認知力の差はありますが、生命は生存(首尾一貫した目的)のために環境に応じて、自己コントロールするよう物理法則によって方向付けられています。

2.5.自我と社会的問題


過去からの認知の構築そのものが、その人の主観、価値観、世界観、アイデンティティであるため、人は簡単には変われません。思い込みや信念を前にして科学的な真実や理論はなかなか通用しません。言語の音が一度獲得した意味を常に持っていることからもわかるように、脳の部位によっては神経細胞レベルの認知を元に戻す、または変えることは容易ではありません。人は過去の認知にとらわれ、現実の刺激と内的な認知との違いから、日々ストレスを感じます。時には不安障害やパニック障害などの精神疾患に発展することもあります。私たちは、不確かな過去の認知を参照し、そこから学び、未来に応用していかなければ生きていけません。個人の認知によって生み出されたアイデアは、言語や映像などの媒介ツールによって時空を超え、人類の過去の認知に基づいて、人類の共同体は発展し続けています。
 
結局、人が物理的な世界に接するのはこの瞬間だけで、そこには過去も未来も存在しません。記憶は、過去の刺激によって作られた「コピー」としてそれぞれの脳に存在し、新しい刺激によってより深く埋まっていきます。もし、過去の認知が現在の自分を苦しめているのであれば、その過去への意識を減らし、今の体外刺激と体調に集中するスキルを身につけ、そして今の自分がどうありたいのかを考え直すことで、いつの瞬間もよりよく生きることができるのです。「この世界は素晴らしい」と思える認識は不安や恐れを軽減させます。だからこそ、一人一人が、どんな困難に直面しても、自然や自分の存在の奇跡を感じ、素晴らしいと思える世界を築いていかなければならないのです。

-参照


自然との調和を  Last Update 2023.05.06




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