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ウィーンでカフェインレスと名画を讃えオペラ・カルメンを観る【一人旅海外編①-3】

3日目。身体の調子はばっちり。
今日の夜はオペラ・カルメンを観に行く予定があるので、早めにホテルに帰ってきたうえ、オペラのドレスコードに耐えうる服に着替えないといけない。そうすると昼間の訪問先は、どこか美術館に行くくらいかな?

昨日買ってきたドライヤーのおかげで(前記事参照)髪の毛もばっちり。もうホテルのボロクソドライヤーには頼らないもんね。快適だもんね。
とりあえずホテルの朝食会場に降りると、今日は激混みの模様。昨日は7時に行ったから空いてたけど、今日は8時過ぎてるからか。日曜日なのもあるかも。なるほど、明日からは早めに来よう。

というわけで部屋に引き返してもろもろの荷物を携えて出発。

朝の街角

ならばどこかのカフェで朝ご飯にしようじゃないか! まだ朝なので、日中は混むような有名カフェにも入れるかもしれない。

ということで来たのがカフェ・モーツァルト。

写真奥にオペラ座も見える

名前とロゴに違わずどう見ても老舗の、ガイドブックでは必ず紹介されているような超有名カフェだ。並ばずに入れた。


【三日目 カフェ・モーツァルトで朝食】

ぱきっとしたスーツに身を包んだナイスミドルなウェイターが手際よく席に案内してくれる。流石に熟練の動き。内装はシックだけれど、シャンデリアや花で華やかさが添えられており、バランスが良く落ち着く。既に一日中居たくなってきた。
メニューはドイツ語表記のみで、併記されたQRコードから英語メニューが見られるようになっている。老舗といえど、そういうところはアップデートされてるんだな。

ウィーンのカフェで私が絶対食べたかったもの、それは、カイザーシュマーレンだ。

スイーツメニューのトップに居座る王者、カイザーシュマーレン

カイザーシュマーレンは、日本でもたまに食べる。とても好きなお菓子なので、是非とも本場の味を知っておきたかった。
それと、珈琲アレンジのメランジェ。ウィーンに来たら絶対飲みたかったものだ。事前に調べたところによると、ウィーンのカフェはどの店も、必ずと言っていいほど、全ての珈琲アレンジでカフェインレスに変更が可能、という情報があった。ほんとぉ? そんなわけある?(半信半疑) だってだって、カフェインが苦手なせいで、日本のカフェで珈琲を頼みたくてもカフェインレス珈琲を出してくれるお店がほぼないので(特にチェーンじゃないお店)結局レモネード頼んだりジュース頼んだりハーブティー頼んだりして苦渋を飲まされ続けてきた、いやむしろ苦渋(珈琲)を飲みたいんだが、というカフェインレス過激派の私を満足させてくれる天国のような街がここウィーンだとでもいうのだろうか。ちなみに私は紅茶党ですが同じくらい珈琲も好きです。紅茶もカフェインレス流行れ(圧)

読める……! このくらいなら読めるぞ……!

あーーーーー!! 丁寧に書いてある!! ドイツ語だけど、大昔のかすかな記憶(第二外国語ドイツ語)と雰囲気でなんとなく読める!!! カフェインフリー(コフェインフライ)にできるって言ってる!!!! 噂はほんとうだったんだ!!!!

勇気を出して、注文時にドイツ語で“メランゲ コフェインフライ ビッテ”と言ってみる。するとナイスミドルウェイターが「もちろんでございます」と、とんでもなく華麗にしかしフレンドリーに頷く。一発で通じたっぽい。すごい。こいつらコフェインフライに慣れてやがる。あれれ、おっかしいなあ。日本のカフェだと、日本人が日本語で「カフェインレスにできますか?」って尋ねても、「え?」って聞き返されることがざらなのになあ。想定してないカタカナ語を客がいきなり喋るからかなあ。日本のカフェも見習ってどうぞ。(カフェインレス過激派) ウィーンでドイツ語でカフェインフリーをお願いしたら一発で通じた、という体験に、ちょっとした感動すらある。あまりにも嬉しくなったので、ついでに“カイゼルシュメレン ビッテ”もドイツ語で言った。第二外国語でドイツ語取っててよかった、と人生で最も感じた瞬間であった。

メランジェはすぐに来た。

カップもカフェ・モーツァルト

泡立てたミルクと珈琲を半々で作る、やさしい味。口当たりがふんわりとしていて、とても好き。ミルクを混ぜているのに、カフェインレスなのに、珈琲の味が損なわれておらず、香り高い。これは、老舗だからやっぱり豆と腕がいいのかな。こんなにおいしい珈琲久しぶりに飲んだよ。ちょっと涙が出そうですらある。

と、そこで、隣の席にいた私と同じ観光客っぽい西洋人夫婦のおじちゃんの方が、私のテーブルの上のメニューにスマホを向けてきた。!? 何事!? 何奴!? 私は今カフェインレスメランジェとアツアツな時間を過ごしていますが何か!? と訝しんでふと思い至る。英語のメニューはQRコードからしか見れない。隣のご夫婦のメニューは先ほど、しごできウェイターによってそそくさと回収されていた。そうか、このおじちゃんは英語のメニューが見たいんだ!

私「英語のメニュー?」
おじちゃん「"((^^ )」
私「"((^^ )」
おじちゃん「失礼」
私「ノープロブレム」

どうぞどうぞ。こころゆくまで私のQRを読み取ってください。
それから隣のご夫婦は、これから来るであろうブレックファストセットの詳細についてスマホの英語メニューを見ながら想像を膨らませる会話を始めた。反対隣の席のビジネスマンは、新聞を広げてブラック珈琲に砂糖をたっぷり入れたやつをすすりながらウェイターと世間話をしている。向かいの席の観光客家族には、アインシュペナーとケーキが運ばれてきて嬉しそうだ。何故か私のメランジェも一層おいしい。

そんなこんなしていると、私のカイザーシュマーレンも来た。

でかい! 朝食としても丁度よさそうなボリュームである。
それでは一口……

おおぅ。ふわっ。ふわっと感が強い。味はパンケーキなのだが限りなくシフォンケーキに近いふわふわとしっとり感。でも、日本で食べたやつとなんか違うな……ふわふわ度が少し高め……いやそれよりも顕著なのは……レーズンか? レーズンがなんか違う! これは、レーズンを大胆にぐしゃりと潰し、しっとりとした目立たない食感に仕上げることで、生地のふわふわ感を邪魔しないようになってるんだ! すごい! 添えられてるベリーソースとアプリコットソースも試してみよう。ん、ベリーソースは酸っぱめで生地の甘さを中和してくれる。逆にアプリコットは甘めでレーズンによく合うな。どちらも、気取らずナチュラルな味がして安心する。混ぜてみよう。ソースを混ぜると、酸味と甘味が引き立てあって一気に複雑な味に。これもあり。 おいしい。どう食べても隙がない。これは文句なし老舗の味! おいしい〜〜!

あ、なんか私、今ちゃんとウィーンにいる気がする。

昨日までは、なんとなくまだ心がふわふわしていて、非日常の心地の中にずっといて、自分が海外にいるという実感がなかったように思う。けど、ウィーン3日目にして、ここのメランジェを飲んでカイザーシュマーレンを食べたら、一気に現実感が出てきた。自分の足がユーラシア大陸を踏みしめている感覚。吸っている空気はからりとしたオーストリアの空気。今ここは朝だけれど故郷は夕方なのだという実感。おいしい食べ物は、いつだって人間に現実感を与えてくれるんだ。

けど、カイザーシュマーレン、これ、だんだん甘くなってきたな……!?!? ジャパニーズ・オクユカシキ・センサイ・ワガシに慣れきった舌にはやっぱり流石に甘い。味覚系統がしめやかにバクハツシサン! これは、飲み物をメランジェじゃなくてカプチーノとかブラックにするべきだったのだ。ということでカプチーノのコフェインフライを追加注文。

カプチーノももちろんおいしい!

カフェ・モーツァルトは思ったより余りにも居心地がよく、2時間以上も居座ってしまった。現在時刻11時。
カフェに後ろ髪を引かれつつ、とりあえずなんか美術館行こう、と思って、ベルヴェデーレ宮殿を目指すことに。


【ベルヴェデーレ宮殿】

ヴェルヴェデーレ宮殿は、今は美術館として使われていて、クリムトの絵とかがある。ウィーンの中心街からちょっと外れた所にあり、トラム(路面電車)で行くのが便利なので、トラム乗車に初挑戦。

オペラ座のアーケードの下を通って、トラムの停車場に向かう。

トラムの停車場から見たオペラ座

海外の、特にトラムのような細かい路線図については、いまだにグーグルマップよりも紙のガイドブックの方が見やすい。なんとかしろグーグルマップ。トラムは一つの停車場に複数の路線電車がばんばんやって来るので、間違えないように細心の注意が必要だ。
トラムは地下鉄と違って移り行く車窓が楽しい!

ということでヴェルヴェデーレ宮殿に着いたものの、当日券が売り切れ。日曜だからか〜。いくら気ままな旅とはいえ、これは事前に想定して調べておくべきだったかも。反省。
それならと、チケットボックスで明日の朝9時の時間指定チケットを買う。これなら余裕で明日入れるね。また明日ね。


【美術史美術館】

なら今日目指すべきは、ということでまたトラムに乗って、美術史美術館にとんぼ返り。

マリア・テレジア広場

美術史美術館は時間指定がないので、事前に買ったネットチケットで入れるはず。意気揚々とエントランスをくぐり入口のもぎりナイスミドルにQRコードを見せるものの、あーこれはね、一度ここを出てチケット発券してこないといけないんだよ、と優しく言われ、そっかー、とエントランスを出てチケットボックスへ戻る。しかしチケットボックスのめっちゃ怖そうな顔のオジチャンは私のスマホの文面を読むなり「このチケットは使えない! 出直してこい! %*#+℃℉№⁈⁉†§※℃¢€」と早口でまくしたてられ、どうすればいいのか分からず、「なら使い方を教えてください」とお願いするが全く聞き取れない。オジチャンなんかめっちゃ怒ってるし。そんな言わんでも(´·ω·`)
5分ほど粘ってしまって諦め(後ろの人の迷惑だったのでもうちょっと早く諦めるべきだった)、入口のナイスミドルのところへ戻って泣きつくことに。

私「エクスキューズミー(´;ω;`)」
ナイスミドル「Σ(´∀`;)(あっ君ね、分からなかったのね) オーケーオーケーあのね、そこから出てね、ターンレフトして、レフトにあるからね。レフトだよ!」
私「ダンケ〜〜(´;ω;`)」

ナイスミドルは私の肩に手を添え、身振り手振りを交え超紳士的に送り出してくれる。大好き。

さっき行ったのは建物から見てライトのチケットボックスだったが、レフトを見るとそっちにもチケットボックスが。人が並んでないから気付かなかったのだ。そっちに行くと、すんなりチケットを発券できた。おそらく当日買うボックスとネットで買ったのを発券するボックスが違うのかもしれない。じゃあライトのボックスにいたオジチャンもあんな怒らんでそう言ってくれたらよかろうもん!!!! 三たび入口に戻る。

私「ハロー!」(発券できたチケットを見せる)
ナイスミドル「……!(^^)(あっ君かぁ) はいどうぞ、こっちにいらっしゃい、荷物はあっちに預けてね(^^) いってらっしゃい」
私「ダンケシェ〜ン(´;ω;`)」

ありがとう入口のナイスミドル。大好き。
時刻は13:00。だいぶ手間取ってしまった。
しかしエントランスホールを見上げれば、たちまちその疲労も吹き飛ぶ。

来てよかったな!
数あるウィーンの美術館の中でも、美術史美術館は絶対来たかったところだ。日本語のオーディオガイドを借りると、日本語で書かれた案内図ペラも貰えた。しかも特に有名な絵画をピックアップし、この絵はここにあるよ!と図示までしてくれている。素晴らしい。

鉱山を模した狂気のミニチュア彫刻。

一階の古代エリアを少し鑑賞したところで、手元の地図を見ると、全然進んでいない。あれ、この美術館、もしかしなくてもめちゃくちゃ広いな???と気付いたので、作戦を変更し、見たい絵画があるエリアを優先して回ることに。

えっ…………展示室そものもがかわいい…………………………

アルチンボルド『夏』
アルチンボルド『冬』

アルチンボルド! いいですね〜。四季シリーズは夏と冬がここウィーンにあります。

ベラスケスのマルガリータ王女! ちゃんと年齢順に並んでいます。圧巻です。

ベラスケス『白いドレスの王女マルガリータ』

実物のマルガリータ王女を見る前は、きっと、細かく描き込まれた繊細な絵なんだろうな……という先入観がありました。しかし実際に近付いてよく見ると……

ドレスの皺や装飾のリボンなど、かなりの箇所において、ザッ、ザッ、とした筆使いで大胆に色が乗せられています。実物を見るまでこんな塗り方だとは思いもしませんでした。この筆遣いしておきながら、教科書とかだとあんなに繊細に見える絵になってんの? え……天才じゃん……。思ってたのと違う天才じゃん。ベラスケスのイメージが変わりました。

ベラスケスのマルガリータ王女のグッズがほしいなあと思い、二階の展示室の狭間にある小さなグッズショップを覗くが見当たらず、レジのお姉さんに聞いてみることにしたのだが、このお姉さん……どう見ても日系の方だよな……?

私「すみません、マルガリータのグッズはどこですか?(クソ下手英語)」
お姉さん「ベラスケスの作品なら、向こうの展示室にあるわよ(英語)」
私「(絵じゃないんだよ〜) グッズ! グッズ!」

グッズは英語で“グッズ”とは言いませんが、そんなことも忘れて身振り手振りを駆使する私。ふとお姉さんが、私の手元の案内図を覗き込んで言語を確認する。

お姉さん「あっ日本語ですね(突然の日本語)。何をお探しですか?(日本語)」

!?

!?!?!?

私「!? あのあの、ベラスケスのグッズがほしいんですけど……(日本語)」
お姉さん「それならここにはないんですよ〜。一階の総合ショップにならあったかなぁ〜と思います(日本語)」
私「ありがとうございます! ありがとうございます! ……日本語上手いですね(クソデカ失礼)」
お姉さん「出身が[某都道府県]なんです」
私「えぇ〜〜すご〜〜い(謎ハイテンション)」

異国で聞く日本語がこんなに安心できるなんて。すごい方もいらっしゃるものです。あのときのお姉さん、本当にありがとうございました。

ブリューゲル『バベルの塔』
フェルメール『絵画芸術の寓意』


そして、ここも、今回絶対に来たかった場所。

美術史美術館の中にある、”世界一美しいカフェ”と言われるカフェ。
すげーーーーーーーーーーーーーーーーー

ボロスマホ広角レンズの限界

美しい円と放射。床と壁面が繋がるデザイン。中央の吹き抜けはまるで大地の根で、そこから生えた枝にお客さんが座っているかのよう。圧倒的な計算美にうちのめされます。好き。好きです。うつくし建築告白ネキと化す私。ぜひここでお茶したい!ところなのですが、今日はそれほど時間に余裕がありません! だってもう鑑賞始めて2時間も経ってるのに、まだ2/3しか見れてないのや。

ダチョウの卵でできているらしい…?
狂気の金ピカ帆船模型。
とても好きな時計。
ジーニー住んでる?

気持ち早足で、気に入ったとこだけをじっくり見る、という鑑賞スタイルをとっても、全部で3時間かかりました。恐るべし美術史美術館。ガチの美術好きは半日〜一日用意したほうがいいです。

結構足がくたくたになりながら、一度ホテルに戻ります。帰り道でスーパーに寄ると、

デリコーナーに美味しそうなおかずがたくさん並んでいたので、晩御飯にいろいろ買ってみる。ほんとはレストランに入りたかったけど、オペラの時間もあるし、これはこれでウィーンに住んでる感があってすこぶるいい。やっぱ私、ウィーンで暮らしてますね。(幻覚)

マッシュルームカレー、ラム肉のハンバーグ、南瓜のスイート煮、緑のなんかニョッキみたいなやつ(グリーンピース味?)、水菜サラダ、キヌアサラダ、本格派チーズ、の晩御飯が完成。これがどれもめちゃくちゃ美味い。え? ただのスーパーの惣菜だよな? もしかして、ウィーンの飯って、美味い……? ウィーンっ子はこういうのを日常的に食べてるのか。特にラム肉のハンバーグ。このあと何度かこうしたお惣菜を食べたが、ラインナップの中には必ずラム肉のハンバーグがあった。ということはウィーンではラムハンバーグがスタンダードなのだろう。むしろ牛や豚はハンバーグにいない。ラム肉のハンバーグは匂いの癖が強いため、ハーブがかなり強めに使われていて、でもそれが歯ごたえのあるコリコリとした触感と合わさってとても美味しい。是非、日本に帰った後も時々食べたい。どこなら売ってるんだろう。(こうして記事を書いてる今も味を思い出して涎が出そうです。)

そうこうしているうちにオペラの時間が迫る。シャワーを浴びて、化粧をやり直し、冬物のワンピースを来てヒールを履いて、小さなお高いハンドバッグを持つ。およそ旅行者とは思えないスタイルに、気持ちが浮き立つ。石畳でひときわ高らかに鳴る踵をコツコツと鳴らし、私は再び夜のウィーンへと繰り出した。


【オペラ座・カルメン】

夜に見るオペラ座は、昼間となんだか違う。

エントランスからもうなんかセレブな感じがする。
服装は、大抵の人が私と同じスマートカジュアル。割とカジュアル寄りの人もいる。ほとんど見かけないけど、がっちり正装の人もいるにはいる。がっちり正装の人はきっとお高いボックス席に座るのだろう。座る席のグレードによってドレスコードに暗黙のグラデーションがあるというのは予習済みだ。

コートや大きな荷物は必ずクロークに預けなければならないので、まずクロークに向かう。

職員がめちゃくちゃ手際よく荷物を預かってくれる。(この時は開演前なのでまだ緩やかなものだが、終演後の大混雑の華麗な捌き様はもはや職人芸だった。)
コンサート会場では荷物をクロークに預けなければならない、というのが法律で決まっているらしい。昔とあるコンサートホールで火災があって皆の持つコートがよく燃えたからだとかなんとか。

キャスト一覧

席によって入口が違うので色々と混乱しつつも、無事に入場。早めに来てよかった。ホールの入口にプログラムを売る係の人がいるのでそちらを買う。おつりはもらわずチップとして渡す。これも予習済み。いざホールへ。

自分の座席からの眺め

わぁ!

ボックス席の高さが高すぎる。ガイドブックの写真とかで見ると嘘だろみたいな高さに見えるけど、本物を見てもやっぱり嘘だろと思った。高所恐怖症の人はあそこからステージ見下ろすの無理じゃね? しかも、なだからな傾斜じゃなくて、断崖絶壁なのが更に怖いんだよな。

自席から後方を振り返る
ホールの天井

それと、もうひとつ確かめておきたかった光景がありました。

これが!!! オケピ(オーケストラピット)ですか!!!!!!
ほんとだ! 奏者の頭だけ見える!!!!

たぶん生まれて初めてオケピを見たと思います。音楽を齧ってた身として、存在だけは知ってたものを見れて感動。

ボックス席最前を除けば、なんだかんだで平場の席が一番見やすいと聞いていたので、平場の中央くらいの席を買ってありました。まあまあ近く、演者の表情もよく見えて良かったです。
両隣を上品なマダムに挾まれ、オペラ開演。

ウィーンで見るカルメンは…………………………

めっちゃ官能的でした。これどうみても〇〇〇じゃん(童貞脳)、みたいな場面や演技が3回くらいあって割と困惑した。特にカルメンのアリアの「ハバネラ」。あらすじを知ってればまあそういう話なのでそうではあるのですが、なんというかこのオペラ座を使って湾曲的とはいえそこまで表現するんだ?みたいな。こんな高級な場所でこんな俗なものを……?という気持ち。これを、一般人のわたくし達が、セレブの方々と一緒に、同じ空間で見ていい、これがウィーンの文化なのですね……?(???)

言語が分からない土地で見るオペラとして、知ってる曲が多いカルメンを選択したのは大正解でした。純粋に楽しい。
それにしてもこのカルメンつよそう。役者さんは、力強さの中から妖艶さが滲み出てくるような方でした。(後で調べたらめちゃくちゃ若い人でびっくりした)
演出面では、三階建てほどの高さがある闘牛を模した板張りのセットをバタン!と倒して場面転換をするという、ものすごく大掛かりな演出があって大興奮。更に「闘牛士の歌」で100人くらいのコーラスが一斉にステージに並び高らかに歌うシーンは、人数の圧もあり凄まじかった。
後半、ホセとカルメンが破滅に向かっていく流れは、あらすじを知っていても、オーケストラの音色によって緊迫感と寂寥感、焦燥感、もう後戻りできないのだという緊張感をひしひしと感じさせてくるので、本当にハラハラしました。特にホセの役者さんの鬼気迫る表情と飾らない歌声が素晴らしかった。(後で調べた所、CDや円盤も流通してる割と有名な人っぽい) カーテンコールで私は、ホセの役者さんにひときわ大きい拍手を贈りました。

世間一般的なカルメンのあらすじ解説では、カルメンとホセは愛し合っていた、しかしホセは狂ってしまった、とされていることが多いですが、今回のステージを見て私は、それは本当にそうなのかな?と疑問を抱くような、複雑な印象を受けました。
カルメンからホセに向けられたものは、もっと違うもの、例えば人の愛し方がわからない人のそれではなかっただろうか? そして、ホセは狂ってなんかいないのではないだろうか? 仕事のこと、母親のこと、感情を殺し最善を選びずっと真面目に生きてきて、抑圧に耐え自ら不自由を選択してきた、とても真面目な人が、ほんのひととき自分の心に素直になってあげられた結果が、あの話なのだと、悲しくて滑稽だけれど、共感もするなあと思いました。

各座席には、飛行機の座席のように小さな画面がついていて、そこに英語字幕が表示できるのですが、頑張って英語を読むと舞台に集中できなさそうだったので、今回私はほとんど歌詞を見ていません。なので、ストーリーはあらすじの知識のみで追いました。今回のステージが表現したかったことをどこまで汲み取れたか自信はないですが、それでも、このステージから、今まで頭の中にあったカルメン像を覆すような感情をもらいました。カルメンみたいになりたいけどなれないし、ホセみたいになりたくないけどなってしまいそうで共感もする、そういう複雑な感情を、受け取ったと思います。

終演後のカーテン。開演前と色が違う

オペラ座からの帰り道。昼間も通った道がなんだかひときわ物憂げに艶めかしく見えます。
あぁ、今夜もまたホセの脳が破壊されてしまった……

盛り沢山で濃い一日で流石に疲れました。おやすみなさい。
4日目に続く。

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