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【「雨や雨」の新曲『濁水に浮かぶ』】の与えた衝撃

「雨や雨(あめやさめ)」について

「雨や雨」というアーティスト、ボーカルとキーボード2人組のユニットをご存じだろうか?確かに、そこまで世の中に浸透してはいないかもしれないが、おそらく、ヴィジュアル系が好きな方や、「アーバンギャルド」、という男女ツインヴォーカルのバンドが好きな方などはご存じかもしれない。

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ここで「雨や雨」の歴史などに触れてしまうと大変なことになってしまうので、今は、2021年2月20日(土)に行われた「雨や雨」の配信ライブで初披露された新曲「濁水に浮かぶ」が与えた衝撃について触れたい。

「雨溢れ、雨溺れ」

2021年2月20日20時~、その配信ライブは始まった。
タイトルは、「雨溢れ、雨溺れ」
これまで、数多くのライブ、そしてこの状況下で配信ライブを行ってきた彼らが、2021年の初ライブに選んだタイトルがこの「雨溢れ、雨溺れ」だ。
恐らく、ボーカルのHitomiさんが命名したと考える。彼は、「雨や雨」においての「歌詞」「言葉」のほぼ全てを担っているからだ。作詞をするのもHitomiさんで、作曲は、キーボードのおおくぼけいさんが担当している。

「雨に沈む」

この配信ライブで、最初に演奏されたのが、「雨に沈む」という曲だ。演奏が始まった時、まさかこの始まりに、凄まじい衝撃が謀られているなど、考えもしなかった。個人的に、この「雨に沈む」という曲はとても好きで、ほとんど全ての曲が好みという「雨や雨」の楽曲の中でも、良く聴く曲だ。直近でリリースされた「雨や雨」の作品のタイトルにもなっている。ジャケットのデザインもとても興味深い。大寺史紗さんという方が描かれた墨絵が原画になっている。

雨に沈むジャケット


「雨に沈む」の後の物語として描かれた「濁水に浮かぶ」

この「濁水に浮かぶ」は、「雨に沈む」に続くその後の物語と紹介され、アンコールの1曲目として初披露された曲である。まだ「プロトタイプ」の状態で、これから改良をして完成形に向けていく、その状態で披露された曲だ。「実は今日初めて合わせた」とキーボードのおおくぼけいさんが仰っている。しかし、私にとってはもう、「完成形」と言われてもおかしくないくらいの衝撃だった。
「雨や雨」のライブは、「ボーカルとキーボード」のみのシンプルな編成で行われたり、少し複雑に同期を入れて行われたりするが、「濁水に浮かぶ」は、アレンジとしては打ち込み的なビートを入れた、少し複雑なサウンドで、早口で畳み掛けるように歌われるのが主な特徴と言えるかもしれない。そして、私が思うに、今までの「雨や雨」にはない、オフィシャルツイッターで告知されていた通り、かなり「新機軸」な曲であった。

「濁水に浮かぶ」のサウンドの衝撃

まず、衝撃を受けたのはそのサウンドである。作曲をされたのは、キーボードのおおくぼけいさんだが、私は、「雨や雨」のおおくぼけいさんと、少し、彼が所属している「アーバンギャルド」の楽曲で知っている程度で、幅広く活動をされているが、その多くを知らない。なので、おおくぼけいさんにとって、これが「新しい」タイプの曲なのかが判断できないのだが、少なくとも「雨や雨」の楽曲の中では、新しいタイプの曲であった。スタッカートを多用した疾走感が特徴で、ノってしまえば勢いで曲の最後まで走れるような、そんな曲である。そしてメロディは、細かく刻まれ、流れるような演奏が魅力的なおおくぼけいさんの魅力が全て詰まったような、そんなサウンドであった。
私はコード進行などには正直知識があまりない。子供の頃から音楽は嗜んできた(ピアノやチェロなどを演奏する)が、師事していた先生の所属するスズキ・メソードという音楽教室は、とにかく「聴く」ことを重要視する指導法で、正直、楽譜を読むのすら今でもあまり得意ではない。演奏する時は、「聴く」ことで「コピー」をするような、教育方法だったと思う。ピアノでは、私は研究科まで卒業し、そこそこ認められたのか、オーケストラをバックにピアノ交響曲を演奏する機会を与えられたこともあった。だが、とにかく楽譜、コード進行の決まり、そう言うものを一切指導されなかった為か、音楽に関する大切な知識は欠如している傾向にある。
そんな私の乏しい知識でも、この「濁水に浮かぶ」が何やら複雑な進行をしていることくらいは感じとることができた。とにかく、まず「耳」に入る「メロディ」と構成する「サウンド」は衝撃的であった。

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「濁水に浮かぶ」の歌詞の衝撃

この「濁水に浮かぶ」のメロディは、展開が早く、先程も書いたように、畳み掛けるように歌われる。なので、一度聴いただけでは、歌詞の理解へは程遠かったが、ただ一度聴いた時「衝撃的」だった為、私はどの楽曲よりも、アーカイブでこの「濁水に浮かぶ」をまず聴くことにした。そして、演奏後、作詞をされたボーカルのHitomiさんが、「かなり意外な歌詞だと思います。ちょっともしかしたら歌詞の内容に多少驚くのではないか」と仰っているのだ。先程紹介した「雨に沈む」の後にどう繋いだかが意外な感じではないか?と。私は正直ワクワクした。元々好奇心は強い方だし、そして何より私は、Hitomiさんの描かれる世界観で人格が形成された、と言っても過言ではないくらい、彼の描き出す世界に傾倒しているところがあるためだ。
(彼の世界に初めて触れたのはもう20年以上前で、その時とはもちろん、彼も年を重ね、世界観はかなり変化していると思うが、私は初めて彼のパフォーマンス、描く世界を感じた時からもう彼の世界を愛してやまなかった。そして私も彼の描く世界と共に年を重ね、その彼の世界観と共に自らを形成してきた。)
そして、どうしてもこの歌詞の「書き起こし」をしたくなった。配信ライブの良い所はこういうところだ。普通のライブでは、「初披露」された曲は、その時はその時、1回しか聴くことができないが、配信ライブは、アーカイブが残っている限り、何回でも繰り返し聴ける。そして私は、1時間以上の時間をかけて、この歌詞を書き起こした。先程も紹介した通り、早口で畳み掛けるように歌われる曲なので、とにかく書き起こしは困難だった。結局最後まで全てを解読することはできなかったが、この「濁水に浮かぶ」の全貌を理解できるくらいには書き起こすことができた。だが、まだこの楽曲の段階は、あくまで「プロトタイプ」であり、今後、改良、変化、進化を遂げると考えられるので、少し躊躇われるが、この「濁水に浮かぶ」の全貌の、私に出来得る限りの紹介をしたい。

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「濁水に浮かぶ」/雨や雨(歌詞)

「濁水に浮かぶ」/雨や雨   

氾濫(で荒れた地下を)覗いたって       
濁った水で何も見えないな
だからって飛び込む勇気もないなって
追えない程度の(膠質)なのか

どうして 震えてんだろ
どうせ 永らえたとて
どうして しがみつく手に
こんなに 力がはいる
鍵のかかかったアルミ缶と 中に詰まった(缶ビールの??)と
そこにひしめいた言葉と
夢のような詭弁も 胸が躍った記憶も
泥水の中見失った

凪は待っていた 激しくうねる思考の先へ
生かされたなら わかる形の理由を添えて
一人待っていた 雨風にまだ晒されながら
透き通ってたら なんて

清浄を取り戻すよう向かいあって
受け止める為の対象がないな
だからって(残留)にも限界あって
どっちつかずの憶病みたいだ
どうして 薄れるんだろ
あんなに 焦がれた日々も
どうして 希望もない未来に手を伸ばした

凪を待っていた ただ穏やかな情緒の元へ
進む為には わかる形の終わりを添えて
一人待っていた 雨風が通り過ぎた後も
透き通ってたら なんて

口ずさめた前奏 胸が踊った伴奏
そこに犇めいた言葉も
横目で見た額から鼻先への曲線も
泥水の中見失い
他愛なかったやり取りに 許せなかったあの嘘に か細い糸が結びつき
全て(束ね)愛であった (迷う)ことなく信じていた
だから共に沈むべきだって

凪を待っていた 激しくうねる思考の先で
君も待っていた わかる形の終わりがなくて
一人待っていた 雨風が通り過ぎた後に
虹がかっていた

光射してきた 曖昧だった水底は透け
僕を待っていた 残酷すぎた現実浮かべ
少しほっとして 首から落ちた唾を浮かべ
透き通ったから もう行くね

これはあくまで私の歌詞の書き起こしであり、全てHitomiさんが表現されたものであるという自信は正直ない。私の耳の限界で、全ての言葉を紐解くことはできなかったと思う。しかし、だいたい全貌は書き起こせたと考えている。( )で括られているところは歌詞そのもの、そして漢字にした時の表現に自信はない。Hitomiさんの表現というものは、意表をついてくることが多いこともあり、まだまだ私は彼の描く世界を理解するには未熟なであるからだ。彼の表現は、単純という言葉を知らないので、まず理解に時間がかかる。
だが改めてこの書き起こしを読み返した私は、再びの衝撃を受けた。

確かに、「意外」であり「驚いた」。過去、膨大な量の彼の作品を読んで来たし、歌詞解説のイベント等があった場合は、赤ペンを持ち込み、暗い手元に必死に目を凝らしてノートにメモをした。それは実は今私の創作の基本となっている。その歌詞の解説をメモした3冊のノートは、命の次くらいに大切なものかもしれない。(まだ解説をされていない楽曲の歌詞の解説を心待ちにしている状態だ。)それにしても、この「濁水に浮かぶ」の歌詞は、今まで私が彼の世界として経験をしたことのない内容であった。まずこの「歌唱の仕方」もショックだった。私はHitomiさんの「歌声」と言うものに少し盲目的なところはあると理解しているが、それを踏まえても、彼のこの「濁水に浮かぶ」の歌は、流れるようなメロディに良くノっていた。とても心地いいのだ。「まだ全然歌い込みが足りていない」とHitomiさんは仰っていたが、とても信じられない。そしてその「心地よさ」と反する「不穏」「不安」などを掻き立てる歌詞の内容。彼の表現力には恐れ入るところだ。

「雨に沈む」は、バラードであり、そして「悲しみ」に溢れた作品だ。歌詞の一節を紹介する。

「あれはもう、悲しみに、翻る空と海」

そして、「雨に沈む」の物語は、

「あの話、あの結末を もうなぞるくらいしか…」

という絶望で終わる。とても暗く重苦しい曲だ。
だからこそ、この「雨に沈む」から繋がった「濁水に浮かぶ」の疾走感、ダンサブルなサウンドと、それに反した歌詞の内容は、衝撃だった。

「濁水に浮かぶ」が表現したかった世界、その考察

ここから先は、主に「歌詞」の話になる。
私はこの世界に、「僕」という主人公がいると捉えている。唯一表現されるのは、最後のフレーズにだけ、「僕」という表現がある。そして「君」も存在する。(歌詞の書き起こしを参照)歌詞には「僕」より先に「君」の存在が明かされるが、主人公は恐らく「僕」だ。)
「雨に沈む」に続く物語であることからも理解できるが、とにかく歌詞の初めの「僕」は絶望している。「濁流に浮かぶ」は、絶望のままひた走る。ひたすら「凪」を待つ「僕」は泥水の中にいる。

「だから共に沈むべきだって」

そう、「僕」は「雨に沈む」べきなんだと。

「わかる形の理由を添えて」
「わかる形の終わりを添えて」
「わかる形の終わりがなくて」

と繰り返されるのは、何への理解を求めているのだろう?何への「わかる形」を求めているのだろうか?私にはまだ理解ができていない。
だが、「雨風が通り過ぎた後」に、突然・・・。

「虹がかる」

のである。「虹」とは総じて雨上がりに現れるものである。要は、「雨は上がった」のだ。そして「光射してきた」、そう、ここでこの物語で初めて、「光」が射す。だがこの希望的な感覚はあまりにも儚い。「浮かぶ」ものは結局、「残酷過ぎた現実」なのだ。雨は上がっても、恐らく「濁水」は止まらない。この辺りの言葉選びは非常にHitomiさんらしいとは思う。「唾」が何を意味するのか、私はまだ理解できていない。「首から落ちた唾」とは何かが、どうしてもわからない。だが、「僕」はほっとしてしまうのだ。「透き通ってたら なんて」「透き通ってたら なんて」と、ひたすら「清浄」を願っていたのに、おそらく「僕」の見た「透き通った」ものは、ただの「濁水」なのではないか?そしてそれを確認した「僕」は「もう行くね」と、そこを去るのだ。何から去ったのか?それは、「君」ではないかと私は考えている。

「清浄を取り戻すよう向かいあって」いたのも、
「横目で見た額から鼻先への曲線」も、
「共に沈むべき」であったのも、
おそらく全て「君」なのではないかと思えてならない。

今現在、私はこの「濁水に浮かぶ」の世界を理解できていないのが事実だ。そもそも、Hitomiさんの描かれる世界を、解説なしに理解するのが、私には少し困難で、Hitomiさんの描く世界と私が理解できる世界には、大きな隔たりが存在するのは確かなのだ。だがそんな私が書き起こして考察した「濁水に浮かぶ」の世界のほんの一部は、こんなところである。

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「伝えられる」か?

私の受けた「濁水に浮かぶ」への衝撃を表現するには、正直私には何もかもが足りていない。
だが、もし少しでも「伝える」ことができていたら、
「2021年2月27日23:59まで」配信ライブのアーカイブが視聴できるので、この「雨や雨」が描く世界、ライブを体感してみて欲しいと願ってやまない。1人でも多くの方に、この「雨や雨」の描き出す世界の素晴らしさに身を委ねてみて欲しい。

そして、「雨や雨」にもし興味がわいた方がいらっしゃったら、
残念なことに今現在「雨に沈む」や、未音源化の「濁水に浮かぶ」は購入できないのだが、「切り雨」という、2019年8月にリリースされたアルバムが購入できるようだ。

「雨や雨」の「切り雨」は、いくつかのサブスクなどにも展開されている。



※この記事は、あくまで私の個人的考察などであり、この考えが「雨や雨」のメンバーお2人の想いと合致することはないと思う。「表現者」の手を離れた音楽は、それぞれ聴き手の中で物語が展開されていくものだし、もちろんこれを誰かに押し付ける考えもない。そして「濁水に浮かぶ」の歌詞も、私が自分の耳を頼りに書き起こしたもの。ご理解いただければ幸いです。そしてこの楽曲が音源化された日には、また改めてこの世界に浸ろうか・・・と思っている。
※この記事の掲載や、書き起こした歌詞の掲載、画像の使用については公式のご許可を頂いております。


<<2021年9月12日追記>>
「濁水に浮かぶ」2021.9.7リリース
レコ発ライブとして行われた「透過の過程」についての記事はこちら。


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