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人生の目標は、つわりが教えてくれた?

<はじめに>
ご覧いただき、ありがとうございます。
本投稿の中には、ご妊娠中の方にとっては、一部もやっとされる箇所がございます。
妊娠中にご覧の方は、お気をつけください。
(一応最後に、スッキリはできます!先に言ってしまいますが、そういうオチです!)





はじめてのつわりは、今からおよそ5年半くらい前だった。

毎日生きるのがやっとなくらいに、体力も心も落ちている。
ひどい頭痛と睡眠不足と貧血が永遠と続き、起き上がることができない。

そのため食事をとることもできず、食べづわりだったわたしは、ひたすら気持ち悪いのループだった。
(ここでの食べづわりは、空腹を感じると吐き気を感じることを指します。つわりは人により症状がさまざま!)

けれど、つわり中にほんとうに一番辛かったのは、心の動きだった。
ほんとうの自分の心は、どこへ行ってしまったのか?
心の動きは日々激しさが増し、コントロールなんて、できたものではなかった。

しかし、この辛かったつわりの日々の思い出は、今のわたしの生きる糧になっている。
今日はそのきっかけを、お話ししたいと思う。



不妊治療を経て授かった尊い命を、はじめてお腹の中に確認した次の日は、飲食店のホールのパートの出勤日。

つわりは、すでに始まっていた。

もうすぐ夏を迎えるというのに、冷たくシトシトと雨が降っている梅雨空。
足元も、かなり滑りやすくなっていた。

お腹を冷やさぬよう腹巻きをして、身体を温めて出勤した。

そしてなんとか一日を乗り越えた、帰り道のこと。
時刻は、17時を回ったところだった。

夕方に気分が悪くなることが多く、その日の帰り道も激しい貧血と頭痛に襲われていた。
帰りの電車は、申し訳ないと思いながら、唯一空いていた優先席に座らせてもらった。

電車は、乗り換え客の乗り降りが多くある、次の駅に到着した。
すると60代くらいの小柄な女性が、扉が開くと同時にわたしの目の前にやってきた。

わたしが一度体勢を整え直すため、少しおしりを持ち上げようとしたそのとき、雨で濡れていたため少し足元が滑ってしまい、わたしの靴が前の女性に当たってしまった。

「ちょっと、あんたそこまでして座ってたいの!?若いくせに、老人蹴ってまで優先席に座ってたいわけ!?」

かき消された。完全にかき消された。
わたしの「すみません!」という言葉は、車内にまばらにいたほとんどの人がこちらを見るほどに大きかった女性の言葉によって、完全にかき消された。

だから、女性の言葉が終わった後、もう一度謝罪をした。
「すみません、足が滑ってしまって。ごめんなさい。」

もうわたしの言葉たちは、女性にまったく届かなかった。

「情けない、それでもまだ立たないの?最近の若い子ってみんなそうね、気づかないふり。」

うーん。
もちろん、意図せずともそのように捉えられてしまうような行為をしてしまったのは、こちらである。でも、我慢の限界だった。

すると、隣に座っていた、品のあるご高齢のご婦人が、
「この方、妊娠されているみたいよ。」
と、マタニティマークに気がつき、助け舟を差し伸べてくれた。

「だからなんです?」

目の前の女性は、もう完全に戦闘モードだった。もうこの目の前の席に座るまでは、止まれないほどの勢い。

言わせてもらうしか、ないなぁ。普段こういう場面で言葉が出ることはあまりないのだけれど、あのときのわたしはなぜか、言葉を発することしか見えていなかった。

「足が当たってしまったことは、ほんとうにごめんなさい。でも、若くても、体調の優れない人はいます。それでも座ることは、できませんか?」

伝わるかはわからなかったけれど、わたしなりの気持ちを伝えた。

そして席を立とうとすると、少し遠くの方から、
「おばさん、ここ空いてるよ。」
スーツ姿のメガネの男性が、女性に声をかけてくれたのだ。

さすがに女性もバツが悪くなったようで、もうなにも言葉を発さず、少し距離のある座席に腰をかけた。

体調の悪さと、なんとも言えないこの気持ちからか、わたしのすっぴん隠しのマスクの下は、涙と鼻水でもうびしょびしょだった。

そんなわたしの姿に気がついた隣のご婦人は、下車するまでずっと、わたしの手を握ってくれていた。

あのときの温かさは、一生忘れられない。

このご婦人の手のシワのひとつひとつにはきっと、大変な苦労や、悲しい出来事や、美しい思い出や、そのすべてが刻まれているんだ。

わたしも、こんなふうに人生を生き抜けるような女性・母にならなければならないと思った。

ようやく到着した最寄りの駅で電車を降りると、1人の男性に声をかかられた。

先ほど目の前の女性に声をかけてくれた、男性だった。
おそらく年齢は、50代から60代くらいだったと思う。

「元気な赤ちゃん産んでね。」

そういうと男性は、お礼を言う間もなく立ち去ってしまった。
その背中に、「ありがとうございました!」というのが精一杯だった。




出産してから今日まで、いろんなことがあった。

現在は、転妻で2人の子どもをワンオペ育児中である。

もう何度も苦しい場面に出くわしてきたけれど、そのたびにこの嘘のような出来事が、心に浮かぶ。

そして改めて、心を奮い立たせ、わたしの人生の目標を思い返す。
あのご婦人と男性のように、しなやかで、正しく、強い人間であろうと。

そして改めて、心に誓う。
広い視野と、広い心を持った人間であろうと。



来年5歳になる息子。

あのときのこと、覚えているかな?

最近は辛く悲しい、心の痛むようなニュースも多くあるけれど、こんなにも心があたたかくなるような、素敵な出会いもあるんだよ。

そして、あなたが受け取ったあたたかさを、あなたも誰かに届けられたらいいね。

きっとそうやって、世界中のみんなに、あたたかい心が伝わっていくよ。

あなたにも、たくさんの素敵な出会いと、素晴らしい経験が訪れますように。

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