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【日本全国写真紀行】 29 岩手県一関市藤沢町大籠

取材で訪れた、日本全国津々浦々の心にしみる風景を紹介します。ページの都合上、書籍では使用できなかった写真も掲載。
日本の原風景に出会う旅をお楽しみいただけます。


岩手県一関市藤沢町大籠


自由と誇りを歴史に刻むキリシタンの里

 岩手県の最南端、宮城県との県境にある一関市藤沢町。その町に大籠という小さな集落がある。江戸時代、たたら製鉄の地として栄えた場所で、当時この地を領有していた仙台伊達藩の保護を受けていた。だが、鉄の生産量が思うように伸びなかったため、技術指導を乞うために備中国(現岡山県)からたたら製鉄の技術者を招いた。この技術者がキリシタンだった。鉄の生産量が順調に増えるとともに、村にはキリスト教信者が増え、最盛期には三万人にも達し、大籠は東北でも有数のキリシタンの里となった。
 しかし、江戸幕府の禁教令がこの村に悲劇をもたらす。禁教令の発布から遅れること10年以上、寛永十六(1639)年から仙台伊達藩による弾圧が始まり、3年ほどで大籠のキリシタンが300人以上処刑された。
 米どころ東北を絵に書いたような田園風景が続く中、時折不自然なかたちで石や石像が置かれているのが目につく。近くに寄って見てみると、それらはすべてキリシタン弾圧の史跡だった。例えば、178人もの殉教者を出した刑場跡である地蔵の辻、同じく94人の殉教者を出した上野刑場跡、そして、キリシタンの処刑を検視した役人が座っていたといわれる首実検石、そうした史跡が集落のあちこちに残っている。いかに、この地で激しい弾圧が行われたかを物語っている。
 集落のはずれに、大籠カトリック教会があった。昭和二十七年に建立されたとされるこの教会の前には、マリア像が佇む。教会の美観はもちろん、手入れの行き届いたマリア像を見ていると、今もなお敬虔なクリスチャンたちの拠り所になっていることがわかる。300人以上も処刑されたが、いかなる迫害にも屈せず、キリシタン信仰を守り抜き、生き抜いた人々もいた。そうした大籠の祖先の歴史と文化を継承するために、平成七年に大籠キリシタン殉教公園が開設され、県内のみならず全国から数多くの信者が訪れている。
 大籠の中心部へ向かう途中、大平という集落には今もなお茅葺の民家が点在していた。緑の田園に浮かぶ茅葺屋根を見ていると、かつてこの村で凄惨な弾圧が行われたことなど、にわかには信じられなくなる。
 目の前に広がるのどかな風景からは想像できない歴史が、大籠には秘められている。

※『ふるさと再発見の旅 東北』産業編集センター/編より一部抜粋


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