第1橋 鶴の舞橋 前編 (青森県北津軽郡鶴田町)|吉田友和「橋に恋して♡ニッポンめぐり旅」
渡れば長生きできる?
日本一長い木の橋
日本一なが〜いきのはし、である。
長いではなく、なが〜いと書いたのは別にふざけたわけではなく、公式でそのように謳っているからだ。
さらに念のため補足すると、「きのはし」というのは、木の橋のことである。こちらも公式表記に準じる形であえて平仮名で書いた。
つまり、日本一長い木の橋、というわけだ。
日本一などと言われると途端に羨望の眼差しを送ってしまう。それだけでもう途轍もなくありがたいものに思えてくる。根がミーハーな人間なのだろう。
橋の名称は「鶴の舞橋」という。名前からしてもう相当素敵ではないか。
橋の良し悪しを評価するうえで、何ていう名前の橋なのかは案外重要だったりする。その場所の地名を元に適当に付けたような名前(よくあるパターンだ)よりも、情緒にあふれたネーミングの橋のほうが想像力をかき立てられる。旅人としては常にロマンを求めてしまうものだ。
日本一の木の橋を、ぜひとも一度この目にしたい。
さらには、まさに鶴が舞うかのように華麗に渡ってみたい。
——衝動を抑えられず、向かうことにしたのである、青森へ。
そう、橋は青森にあるのだ。住所でいえば北津軽郡。
思いつきでフラッと渡りに行くにはいささか遠い気がしないでもない。
でも、まあいいのだ。
橋は渡りたいときが渡りどきである。
距離こそ結構あるものの、東京から青森へは意外と簡単にアクセスできる。東京駅から新青森駅まで、新幹線のはやぶさ号で約3時間。複雑な乗り換えなどもないから、ボーッと車窓を眺めたり、本を読んだり、スマホをポチポチしたり、居眠りしたりしているうちに、あっという間に着いてしまう。
羽田空港から青森空港までJALの便があるので、空路で訪れることも可能だ。こちらは約1時間15分と移動時間はさらに短い。
電車か、飛行機か。好みで選べばいいのだが、今回は電車にしてみた。「津軽海峡・冬景色」の有名な歌詞が頭をもたげたから——ではなく(それも多少はあるのだけれど)、旅のきっかけが駅で目にしたポスターだったからだ。
駅へ行くと、各地の絶景写真が貼られているのを見たことがないだろうか。観光客誘致のために地域をピーアールする広告である。どこの駅で見たのかは忘れたが、その種のポスターで鶴の舞橋が紹介されていたのだ。
駅なんて普段は足早に通り過ぎるだけなのだが、そのときは橋の写真が視界に入った瞬間、思わず足を止めてしまった。あまりにも美しかったからだ。
そうして、ポスターの隅に橋の名前が書かれていたのをメモした。いつの日か行ってみたいと夢見つつ。
念願叶って青森へやって来たのは、8月後半のことだった。蝉の鳴き声も控えめになってきたタイミングを見計らい、少し遅い夏休みを取って「橋旅」に出発したのだ。
新青森駅で列車を降りると、改札のそばに「青函トンネルのご案内」が表示されていたのが気になった。東北新幹線は、津軽海峡を渡ると北海道新幹線に変わる。函館までは1時間もかからないという。
「いやはや、ずいぶん遠くへ来たのだなぁ……」
この先はもう北海道なのだ。橋を渡るために遙々こんなところまでやって来たと思うと、我ながら酔狂だなあと自嘲してしまう。
ここからはレンタカーで移動する。在来線へ乗り継ぐ手もあるが、本数が極端に少ないし、遠回りになってしまう。最寄駅から橋までも距離があるから、正直現実的ではない。
青森に限らず、こういった地方の旅では、実質レンタカー一択だろう。行き先にもよるが、公共交通手段だけだと不便で、どうしても限界がある。
新青森駅前の道沿いに、レンタカー各社が軒を連ねていた。新幹線を降りたらここで車を借りて各地へ向かうのが個人旅行者のセオリーなのだろう。
車に乗り込み、スマホ・ホルダーをセットする。レンタカーにはナビが付いているが、地図アプリのほうが断然便利だ。さっそく橋までの経路を検索すると、約50分と表示された。
その際、驚いたのが有料道路よりも、無料道路で行くほうが近そうなこと。確かに有料道路だと若干迂回する形となるようだが、それでも自分の感覚ではノンストップで走行できる高速道路の方が早く着きそうに思えた。
半信半疑ながら、素直にアプリに従い一般道で行くことにする。国道七号を五所川原方面へと走っていく。すると、間もなくして、なぜ高速よりもこちらのほうが早いのかを理解した。
広々とした道は、ほぼずっと真っ直ぐで、信号がほとんどないのだ。スイスイ走れるから、まるで高速道路のよう。わざわざ迂回してまで有料道路から行く必要はない、というわけだ。
普段から車に乗る生活をしているせいか、こうして見知らぬ土地でハンドルを握っていると、人々の交通マナーや文化の違いのようなものに敏感になる。一般道だというのに、みんな結構なスピードで飛ばしていて、ノロノロ走っているとすぐに後ろを詰められる。
国道七号から国道一〇一号へ右折すると、景色はもっと山深いものに変わった。木々が鬱蒼としており、緑色が濃い。
やがて五所川原市に入ると、大きなトンネルが現れた。スノーシェルターなのだと書かれている。これまた東京にはないものだ。冬はこの辺りは豪雪地帯なのだろうなあ、と想像を膨らませた。
山道を走っていると、古びたラブホテルが現れた。昭和な薫りが漂う、昔ながらの外観が妙にシュールで、つい車を停めてカメラを向けたくなる。
ただ車を走らせているだけでも、次々と発見があって飽きない。孤独な一人旅とはいえ、話相手がいないからこそ、目の前の景色とより真剣に向き合える。田舎道の一人ドライブは病みつきになるのだ。(後編へ続く)
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