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ニッポンの稲作事情〜稲刈り編〜

秋。
それは生きとし生けるものにとっての実りの季節。
春から夏にかけて沢山の栄養を大地からもらい、田んぼには黄金色の絨毯が一面にかかっている。

そんな黄金色の絨毯の上では命のやり取りが行われていた。
稲が刈られた衝撃で飛び出てきたイナゴをすかさずキャッチする燕たちと、その端で交尾をする赤とんぼたち。

田んぼは生き物たちの生命の源であり無くてはならないモノである。
それは人間にとっても同じことである。

春に田植えを取材した大阪府能勢町に住む農家の家族を覚えているだろうか?
5月から約4ヶ月。
あの時は緑色でまだ小さかった稲はどれほど成長したのだろうか。
この夏、手塩にかけ育てた稲たち。期待で胸が騒ぐ‥。

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9月13日

今年は異例の夏の断続的な大雨により稲が十分に陽を浴びていない。
それは全国どの農家にとって同じ悩みであり、不安と期待が入り混じった稲刈りシーズンを迎えているだろう。
近年は異常気象により思ったように稲が育たないケースが多い。

まず稲刈りと言うのは単にコンバイン(稲刈り機)で刈れば終了!と言う訳ではなく、私たちに見えているのはほんの一部の作業なのだ。

ざっくり説明すると
①コンバイン(稲刈り機)で稲の刈り取りと脱穀(稲から籾だけとる事)作業を行う。
②乾燥作業を行う。刈り取った直後の籾は水分量が24%ほどあり、乾燥機で8〜9時間かけて15%前後まで乾燥させる。
③籾すり作業をし、籾から殻を剥いで玄米にする。
④計量後、30キロずつ袋詰めする。

このように4つの手順をふみ、私たちがスーパーや米屋で手にするお米となる。
今まで知らなかった事を知れば、当たり前のように毎日の食卓に並ぶ「ご飯」がもっともっと美味しくなるはず。

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一つ目の稲刈り作業と脱穀作業では、コンバインに乗り稲を刈る人、周りの雑草などを抜き機械が田んぼに入りやすいようにしておく人、脱穀した籾を袋に詰めてライスセンター(籾の荷受から乾燥、籾すり、選別、出荷の4段階を行う収穫施設)又は家の乾燥機に運ぶ人、最低でも3人は必要になる。

またこの時、ヒエも稲に混ざって刈り取られる事が多い。

ヒエとは昔から穀物として米と同様、主食として食べられてきたのだが、これがまた厄介なのである。
ヒエが稲にもたらす悪影響は2つあり、ヒエは稲より成長が早い為、土壌の養分を取りすぎてしまい稲に十分な栄養がまわらず、ヒエの近くにある稲は通常の半分以下しか穂をつけない。
結果として稲の収穫量が減り品質も低下してしまうのだ。

二つ目はカメムシの大量発生を促してしまう事だ。
ヒエは稲よりも早く出穂するのでカメムシがヒエの穂に産卵し、そこで繁殖。
カメムシにとっては居心地の良い寝床といったところか。
少し遅れて出穂した稲に移動し、カメムシが移動しお米となる穂を噛み、栄養をとるのだ。

カメムシに一度噛まれた穂は、籾摺り工程を終え精米すると白い米に黒い斑点が出来てしまう。
食べても健康上問題はないが嫌がる人も少なくない。

このような事からヒエは、米農家にとって頭を抱える穀物なのである。
J.Mさんの田んぼでも毎年ヒエに悩まされている。
ヒエ対策には田植え前の「代掻き」と言う工程の時に水田をしっかりとかき混ぜ、雑草や害虫を除去する必要がある。
ただJ.Mさんの水田地帯はいくつもの家の田んぼが集まっている為、他の田んぼのヒエ対策がしっかりと為されていなければ、風に乗ってヒエの種子が飛んできてJ.Mさんの田んぼに入ってきてしまうのだ。

農家にとってヒエは死活問題である。

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全ての稲が刈り取れたら、次は乾燥→籾すり→袋詰め作業に移る。
地味なこの作業が一番時間がかかり、身体に疲れが出てくる時なので大変だ。

ライスセンターなどの収穫施設がなかった時代はこの行程だけで1週間はかかっていたが今は家で食べる分と個別で売っている分だけになるので、2・3日で終えるようになった。
だが身のいる作業に違いはない。

お米は捨てるところがなく乾燥機から出てきたお米は籾すり機によって玄米と籾殻に分けられ、形の悪い未熟米は煎餅の材料として使われ、大量の籾殻は田んぼに戻り土壌改良の材料となる。
そしてまた来年の春に植えられる苗の養分として生まれ変わるのだ。

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今年は日照不足とヒエ問題により『満足』のいく出来ではなかったそうだが、頂いた新米はみずみずしく甘く、とても美味しかった。
また来年も丹精込めて美味しいお米を育ててもらいたい。

お米を作る農家の人がいて、その米を卸す商店やスーパーがあり、その米を仕入れ商売する飲食店があり、最後にそのご飯を食べる消費者がいる。
この世の全ては、モノ作りの原点にいる人々が汗水垂らし働いているおかげで成り立っていると言う事を忘れてはいけない。

J.Mさんが育てているお米の品種は「キヌヒカリ」と言い、炊き上がりが絹のように輝いている事からその名が付けられた。
コシヒカリと違って粘り気が少なくあっさりしていて食べやすい為、子供からお年寄りまで幅広い年齢層に親しまれている。
いろんな料理にも使いやすい品種「キヌヒカリ」。
是非一度食べてみてほしい。

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文章:ボタ餅 写真:てんぐ

→モノノベ公式サイト



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