樺太と、アニバーサリーオブグランパ。
"×0"という作品を創ろうとしたことがある。厳密に言えば、これは写真集なのだが、諸事情があって叶わず仕舞いとなってしまった。×0、つまり、なにをかけても0にしかならないという意味合いを込めた作品であった。0は何もないという意味もあるが、それと同時に、もともとそこに存在していると見えているものは、実は存在していなかった、というようないわば哲学的な思いも込められていた。あの作品は、またいつか違うところで形となって現れるのだろうか。わからない。こればっかりは、わからない。思えば今日は、祖父の命日だ。スッカリ忘れてしまっていたが、ギリギリ日付が変わる前に思い出した。祖父は建国記念日に亡くなり、バレンタインデーに焼かれた。祖父を家族で焼く日、祖母は祖父の柩にお気に入りのチョコレートをいれていた。「ほら、好きだったでしょう。」と言いながら、涙を流していた。美しい情景だと思った。わたしの祖母は、美しい人だった。見た目も年齢不詳で、天真爛漫な、少女のような人だった。チェロを弾くのが大好きで、90を過ぎても毎日マニュキュアを塗ってお化粧をして、お洒落をして颯爽と出掛けていた。祖父と歩いていると、親子に間違われるような、そんな不思議な夫婦だった。ブラジルに住んでいたことも影響しているのだろう、いわゆる、"日本のおばあちゃん"とは程遠い感覚の人だった。週末はよく出掛けていた。どこに出掛けていったのか、誰も知りはしないが、そんな祖母を祖父はずっと家で待っていた。祖父は家にいるとき、いつもリンゴの形をしたまな板でリンゴやカキの皮を剥いて食べさせてくれた。器用に果物ナイフを使って、リンゴを剥く。わたしはそのリンゴを食べる。弟とわけあって、美味しいね、と言いながらシャリシャリと貪る。ただひたすらに果物の皮を剥く祖父をみて、淋しくはないのかと尋ねたことがある。祖父の答えはいつも、こうだった。「みーちゃんね、淋しい、と思うことは悪いことばっかりじゃないんだよ。だってねぇ、そう思う度に、その人のことを、ああ、好きなんだなぁ、と思うんだから。そうしないと人間は、大切なものを失くしてしまうよ。」祖父は樺太で育った。出生については謎が多く、家族間でも聞くことはタブーとされていた。肌が抜けるように白く、瞳はオホーツクを思わせる、深いネイビーブルーだった。彼は幼い頃に母を病気で亡くしている。5人兄弟の4番目で、その頃の楽しみといえば花札をすることだったらしい。樺太には何もない。言葉も日本語ではなく、ロシア語が殆どだ。真っ白で平坦な世界に、鮮やかな色彩の花札が浮かび上がる。その美しさが酷く恋しくて、兄弟でよく取り合ったらしい。祖父の父は大学教授だった。なかなか家には帰ってこず、兄弟は淋しい思いをしたらしい。そのうちに、昔ではよくあることだが、祖父は養子に出された。親戚の家だったそうだが、新しい父は肖像画家であったため、意思の疎通を図るのになかなか苦労したそうだ。東北や雪国の人間は、辛抱強い。本当に本当に、驚くほど辛抱強い。西の人間とは(というと語弊があるが)比べ物にならない程に、辛抱強いと思う。ちょっとやそっとでは弱音を吐かないし、文句も言わない。わたしは岡山の血が強いのですぐズケズケとモノを言ってしまったり、意地汚さが出てしまうが、それでも根底に流れる雪国魂のようなものは感じることがある。それを感じるとき、なんとはなしに、祖父との繋がりを感じる。人間としての淋しさを感じるとき、祖父の温もりを感じる。淋しさを感じられない人生は嫌だ。これはいつも、思っていることだ。病を患うと、どうしてもひとりきりになる。それは悪いことではなく、生き物として当然のことであるのだと感じる。怪我も、同じだ。人間は、生き物は、どこか負傷すると必ずと言っていいほど、自分の命がひとつであるということを自覚する。痛みを知ることで、自らの輪郭を描き出す。だからこそ同時に、他人の輪郭をも描き出すことができる。わたしは手術をしたあと、優しくなった。それまでは色々なことを、ひとを、切り捨てていたところがあった。わたしはこうしてるんだから、あなたもこうして欲しい。やればできるはずだと、どこかで強要していたように思う。簡単にいえば、その感覚がパッタリとなくなった。もちろん、ホルモンバランスでイライラしているときなどは難しいが、それでも殆どその感覚とは距離を置くようになった。みんな、言わないだけで、様々なものを抱えている。わたしのように言ってしまう人間もいれば、言わずにじっと耐えているひともいる。その優しさを理解すべきであり、感ずるべきであるのだと、いまになってようやくわかったような気がする。人間として生まれた醍醐味は、こういった機微を感じ入ることにある。祖父の剥いてくれたリンゴを食べたい衝動に駆られる日もあるが、わたしにはもう少し、この淋しさを感じる時間が必要だ。
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レストランショーやります!!!
日にち 2/16(木)、2/23(木•祝)
3月からは、毎月第3木曜日に踊ります🎵遊びに来てね!
時間 20:00から
チャージ ¥500+ご飲食代
場所 高円寺Rumi
杉並区高円寺北3-2-15
BOLBOL2号店 Rumi 1階
⭐ご予約はわたしか、直接お店にお電話ください。
電話番号 03-5356-6640
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MINAMI
ベリーダンサー/写真家。
キャッチコピーは"砂漠のSlow Dancer" 10代の頃、ドバイの砂漠でベリーダンスに出逢い、帰国後、独学で踊り始める。その後、トルコに何度も渡り研鑽を積み、2015年、韓国ベリーダンス大会FIDにて総合優勝を果たす。レストランショーやイベントなどで活躍する傍ら、現在は自身のベリーダンススクール"THE LIQUID HAREM"を主宰し、後進の育成に努める。中東音楽だけでなく日本の歌謡曲や演歌、どんな音楽でもボーダーレスに踊ることで、ベリーダンスの美しさや素晴らしさを伝えている。
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💃砂漠のSlow Dancer MINAMI
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