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「元気ですか?」に表れる国民性

英語やフランス語でもそうだったが、イタリア語を勉強し始めたばかりの時に習う言い回しとして、「元気ですか?/(様子・体調・気分は)どうですか?」があり、それに対する返答の仕方もセットで習うものだ。だいたい、「こんにちは」「はじめまして」の次ぐらいに。

一方、日本語では、必ずしもそうではないようだ。
というのも、挨拶は大事とされていても、日本語会話においては、人に会う度に相手が元気かどうか尋ねることまでは、必ずしも起こりえないからだろう。それは、日本人が他人の心身の状態に頓着しないわけではなくて、普段はそこまで立ち入って尋ねるのは憚られるからだろうか?

相手の健康(気分も含めて)を気にするという行為は、キリスト教の教えと繋がっていると耳にしたことがある。

イタリア人は、信心の深さに関わらず、おそらく子どもの頃から相手が元気かどうかを尋ねることは挨拶の一部としてしつけられているのだと思われる。それを聞かないことは、基本的に無礼だと見なされる節もある。
あまりにも挨拶の一部になりすぎて、「こんにちは/やあ、元気?」と尋ねても、相手の返答を待たずに次の言葉を続けて来る人もいるぐらいに。そういう人は、本当に相手が元気かどうか知りたいわけではなく、挨拶とセットだから口をついて出てくるのだろう。

かと思えば、「元気?」と尋ねて、相手が「元気だよ」と応えても、応える声のトーンやそう言っている時の表情で、本当に元気かどうかに疑問があれば、返事は聞こえていなかったかのように「元気?」と再度繰り返して尋ねる人も少なくはない。そういう人は、家族であったり、友人であったり、その人のことをより親身に思っている関係の人だろう。「元気だよ」ととりあえず応えたものの、実は具合が良くない所があったり、悩みがあったり、落ち込んでいたり……という人は、この何度かの質問で、本音を言うことも多々あるものだ。
また、すぐに「あまり元気ではないんだ」とか「まあまあだね」と、「元気だよ」以外のネガティブな返答をした際には、相手は「どうしたの?」「どこが良くないの?」「どうして?」と尋ねるものとして、教育されているか、自然に心配モードにスイッチが入っているようになっている。
ちなみに、イタリア語の「まあまあ」は、日本語の「まあまあ」よりも悪く取られることがあるので、要注意である。「絶好調というわけではないが悪くもない」という意味で「まあまあ」を使っても、イタリア人にはあまり良くないのか?と取られて心配されることも多い。

ビジネス上の関係だったり、自分の体調や心境まで打ち明ける必要がない相手でも、会話の形式上、挨拶として組み込まれていることが多いが、そういった場合には、イタリア人も本当の状況を言わなかったり、詳しく突っ込んで尋ねないこともよくあることだ。

日本語では、毎日、もしくは、頻繁に会ったり連絡を取る相手には、毎回「元気?」とは尋ねないものだ。たとえば、朝、「おはよう(ございます」」と家族や、通勤通学時に同僚やクラスメイトに挨拶はするだろうけれど、「元気(ですか)?」とはあまり続けないだろう。相手が具合が悪そうに見えたり、いつもより暗かったりしたら「元気?」「大丈夫ですか?」と尋ねるだろう。
また、メールや手紙、メッセージなどの書き言葉では、暫く連絡を取っていない相手だったら、様子を尋ねる一文をたいてい入れるものだ。毎日のように連絡を取っていたら、日本語では、あまり毎回「元気ですか?」とは記さないだろう。

このことに派生する言葉で、誰かがくしゃみをしたら、
その場にいる他の人は、イタリア語では「Salute!(サルーテ)」と言うものだ。Saluteとは「健康」の意味だが、この場合は「お大事に!」ぐらいの表現になる。これも、イタリアでは子どもの頃から言うようにしつけられているとのこと。イタリアのイタリア語講座に通いだした頃、何度となく講師の先生たちから、わたしたち大人の外国人生徒はしつけられた。先生がくしゃみをしたのにみんなが「Salute !」と言い忘れていると、自ら「Salute!」と言って、生徒たちにそのことを思い出させていたものだ。
「Salute!」は、場合によっては、公共の場所で知らない人がくしゃみをしても言われることもあり、そういう状況は心温まるものである。

日本に関心がある人からは、くしゃみをした機会に、日本ではその場合に何と言うか?と何度となく聞かれたことがある。しかし、日本語では、そういう時に言うきまった言葉はないかと思われる。一度だけではなく、何度もくしゃみをする人には「大丈夫(ですか)?」と尋ねるかもしれないが。

他人の健康状態に積極的に関わっていくイタリア人と、それはより個人的なことだから最初からは踏み込まない日本人、こういったところにも国民性が表れている。

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