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「あの子は貴族」を観た感想

この映画は随分前に視聴したのですが、育児で忙しくレビューを書くのを忘れてしまっていました。この映画は何回も観たくなる映画で3〜4回観ています。日本社会では一般的には語られることのない上流階級、身分制度、そしてその階層を超えたシスターフッドの映画でした。以下はネタバレを含む感想です。

主人公の榛原華子は松濤育ちのお嬢様。父親は開業医、母親は専業主婦です。お正月は親族集合して帝国ホテルで食事、学生時代の友人とはホテルのラウンジでアフターヌーンティー、出かける時は常にタクシーに乗っています。

タクシーの運転手から話しかけられてもガン無視の華子


ところが正月の親族の集まり前に婚約者と別れてしまい、「お嬢様の幸せな人生」から外れそうになります。仕事も辞めてしまっているため婚活に必死になります。家族の紹介や知り合いなど様々な人と婚活します。父親の紹介で出逢う医師の変わり者の男、姉の知り合いの感じの悪いサラリーマン、関西弁の男。居酒屋の汚いトイレに愕然とし即座にタクシーで松濤へ逃げ帰るシーンはさすがお嬢様といった感じです。

そして、お見合いでイケメン弁護士の幸一郎と出会います。幸一郎は幼稚舎から慶應の根っからのお坊ちゃん。華子も一般人から見れば十分お嬢様ですが、幸一郎はトップクラスの上流階級でした。江戸時代から続く商家の末裔で、実家は都心に広大な敷地を持ち、叔父は政治家でした。良き家柄同士、誰も反対することはなく、めでたく二人は結婚します。

もう一人の主人公は時岡美紀。富山の田舎から出てきた女性です。幸一郎と同じく慶應大学に通っていました。猛勉強の末に合格したにも関わらず、実家が生活に困窮し、大学の学費を払うことができなくなります。実家からの支援がなくなったことで、美紀はホステスとなって学費を工面しようとしますが、退学することに。そこで幸一郎と出会います。社会人となってからも美紀と幸一郎の関係は続きます。聡明で、場の空気を読めて、経済的に自立している美紀。華子と対照的な女性として描かれています。美紀の地元の富山では、男たちは亭主関白で、真面目に働くこともなく、ぽんぽん車を買ったり、地元の女と寝たり、平気で不倫しようとしたり…と碌でもない感じに描かれています。

日本社会には大っぴらには語られませんが、いまだに階級が存在しています。そういう人たちのことを本来は富裕層ともいうべきかもしれません。江戸時代から続く豪商の末裔、元華族、元皇族。東京という土地に何十年何百年と住み続けています。そういった人たちは決まって小学校から慶應などの都心の名門私立に通っています。それが当たり前なのです。彼らはこの映画の中で「貴族」として描かれています。貴族たちは、自分より目下の身分の人とは関わることがない社会に住んでいます。

「東京って棲み分けされているから。違う階層の人とは出会わないようにできてるから。」

華子と親友の相良逸子のセリフです。東京都心は貧乏な人と貴族が交わらないようにできています。

「田舎から出てきて、搾取されまくって。私たちって東京の養分だよね」

これは美紀の親友の里英のセリフです。田舎から出てきた人たちにとって東京に住むということは「家賃」「光熱費」がかかります。東京で生きるということは生活コストが高いです。学生や特に仕事をし始めたばかりの若い世代には厳しいものがあります。

私自身、生まれも育ちも東京の人と出会ったことがあリます。父親が有名企業の社長、祖父母も教科書に載っているような人物でした。学校は代々親と同じ学校に行くことがその家のルールのようでした。その人にとって東京が人生の全てでアイデンティティ。親族の結婚式もかならず帝国ホテル、ニューオータニ、オークラのどこか。家族と同じ人生をなぞることが「幸せ」とインプットされていました。神奈川の田舎で生まれ育った私とは全く価値観が合わないのでお別れしました。その人と一緒にいるとコンプレックスが刺激されてすごく嫌だったので、それでよかったと思います。

日本人は、大多数は東京以外の生まれの人で構成されています。当たり前ですが。地方から東京に出てきて成功することを夢みて、それなりに努力して、東京にしがみついています。私も住んでいる場所こそ違いますが、東京にしがみついている一人です。

東京という街にいると、今まで見たこともないとんでもないお金持ちに出会うことがあります。家柄、資産、学歴、全てにおいて人と違う貴族と出会ってしまったときの絶望感を味わうかもしれません。この映画ではそれを描いていると思いました。大人になれば、「世の中、まあそういう人もいるよね」って開き直れます。苦しまないで済むのは、無理に貴族になろうとしないことです。

ちなみに、海外向けのポスター?がとても素敵でした。背景の壁画と高良健吾と門脇麦の雰囲気がいかにも貴族らしくて国内版ポスターより好きです。

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