見出し画像

【掌編小説】島で生きる

「わしは島で生きる!」

 都会に生まれて、都会に育ち、都会暮らしが染みついた、シティボーイなクソ親父!

 同居している、そんな都会のクソ親父が、突然、島での田舎暮らしを言い出した!

「テレビでよくやってる、緑豊かな田舎暮らしに影響されたのかもしんねえけどさ~」

「うるせぇっ!」

「生まれてこのかた、都会の便利な暮らしに、どっぷりホルマリン漬けみたいな親父がだよ」

「だから、うるせぇっつってんだろっ!」

「今から、田舎で暮らすなんて、出来っこねぇだろッ!」

「わしは島で生きる!」

「もう、勝手にしろッ!」

 ここしばらく、親父と、そんなやりとりが続いた日々。しかし、一向に、親父が田舎へ移住する気配すらない。

 そんな矢先、嫁と娘が、おもしろ半分で応募した、『元気な頑固親父』という、テレビ番組の取材を受けることになった。

 嫁と娘は、インタビュアーに、親父と俺の、ここしばらくのやりとりを、何だか、おもしろおかしく話している。

『こっちの気も知らねえで、ペラペラ、ペラペラ、腹立つわ~』って思いながらも、怒れない。

 すると、親父までも、嫁と娘の受け答えを見て、ニコニコ、ヘラヘラ笑ってやがる。

 そして、俺に、インタビューが回って来た。

「息子さんとしては、どうですか?」

「もう~、こっちは、都会暮らししかしたことのない、親父のことを思って、言い聞かせてるんですが、なかなかこの通り頑固親父でして~、アハハハハ……」

 テレビの取材という手前、俺もあからさまにも怒れず、愛想笑いの苦笑い。

「それでは、最後に、お父さん! 頑固一徹、元気に生きる、その秘訣、その信念を、色紙にお書き頂けますか?」

「はい、かしこまりました!」

 親父は、インタビュアーから色紙を受け取ると、太筆ふとふでで、さらっと、書き上げた。

「それでは、お披露目頂きましょう! お父さん、お願いします!」

「『死まで生きる!』、これが私の生きる道!」

 その達筆な太文字で書かれた、人生のシンプルな真理に、親父の力強さを感じ、俺は少し感動した……。

 がッ!

 んっ?

 ふと気づくと、インタビュアーさん、親父、嫁、娘が横一列に並んでいた。

 そして、みんなニタニタ笑いながら、右手で自分の口を隠し、親父が左手に持っている看板を、それぞれ左人差し指で指差していた!

 えっ?

 あっ?!

 出たッ!

 素人参加型ドッキリ番組ッッッ!!!

 く~~~ッッッ!!!

 俺だって、島で生きてやる~~~ッッッ!!!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?