犬を囮に私を刺す蚊は、何をやってもうまくいく蚊。


初夏の朝の犬との散歩は、朝日がまぶしすぎて歩きにくい。

朝日を照り返して金色に輝く犬は、私の目を眩ましては隙をついて、しないで欲しい事をする。

例えば、歩道の植え込みに、深く鼻を突っ込む。
この季節、そういう所は蚊の寝床なので、私は慎んで欲しいのだが。

強い朝日のなかを蚊が、超高性能ドローンのように犬を捕捉する。

振り払おうと足を速めてもばっちり追尾されてしまう。


蚊の存在を気づがず怖れぬ犬に対して執拗につきまとう数匹が、上京したての娘さんを毒牙にかけんとする腐れチンピラのように見えてきて、犬の金色の輪郭に沿って荒々しく手を振るっては追い払う。

(なに癇癪おこしてるの?びっくりするよ)という目をした犬に言い訳せず、なお、犬の周りの空気を攪拌しながら蚊を追い払った事を確認する。


犬を魔の手から守った高揚感に鼻を膨らませて散歩を続けていると、ふくらはぎが痒い。左手の薬指も痒い。

犬の追っ手チームは、囮だったのだ。
単純な連携プレイだが、シーズンの始めには私はこの手によくひっかかる。
ナイスなフォーメーションだ。


薬指の付け根が妙に白んで膨れるてくるのを、布製マスクでごしごしとこすったら、痒みがひいて気持ちよかった。布製マスクの甲斐があった。




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