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旅芝居・大衆演劇の芝居考(を『孤狼の血』から)

映画『孤狼の血』1と2を観た、観返した。
なぜか昨年のクリスマスあたりのこと。
無駄にテンションがあがってずっと物真似したりしていた。
まさに「声に出して読みたい日本語」、いや、絶対に違う。
そして、旅芝居・大衆演劇の芝居のことを考えた。

1は既に観ていたのだがPART2は観ていなかった。
観る気もなかった。
原作が好きだった。
原作の第一作が店頭に並んだ頃は、
私的何度目かのノワールやハードボイルドブーム。
書店ではなく、街のコンビニ的な店の本コーナーでピンと来て手に取った。
一気に読み、興味を持った。
作者の柚月裕子さんは、
モチーフとなる裏社会のことを取材したのではなく、
映画や本から学んでここまで書き上げたと知る。衝撃!
マジかよ。それでここまでリアルに書けるのかよ。
って私も知らないかかわりのない世界だけれど。うん、あったら困る。
でも、なんかそんな道や知人がいる人生じゃなかったはずなのに、
なんかその道の話やかなりガチな資料などがあったりする。
これも旅芝居・大衆演劇という世界のせいである。
 
そんなこんなで映画化は「んー?」だった。
いい人じゃない役の役所広司は大好きだ。でも、うーん。
もっと「んー」だったのは「現代版・仁義なき戦いが誕生」なんて宣伝文句だ。
仁義~は好きだ。でも、でも。
だからだいぶ経ってからDVDで観た。
これ、原作じゃなくて原作とは別物だよねえ。
でもこれはこれだからいろんな人の需要はあるよねえ。だからいいね。
私が江口洋介の演技が好きじゃないだけ。
この度、アマプラで2を観た。
役所広司は出ていない。松坂桃李主役。えー。それどうなんー。
という観る前からの思い込みは観るとかなり裏切られたのでとてもよかった。
私には2の方がおもしろかった。江口洋介がいなくて鈴木亮平だったからだけではない。
 
2を観るまでの何年かの間に、同作の監督の対談番組を観る機会があった。
白石和彌監督。この人の作るもの、ちょっと興味深い。
『凶悪』で興味を持った。『仮面ライダー BLACK SUN』も完走した。
監督の人間観みたいなものと、あの「目」がおもしろいなあと思う。
「笑っていないけれど笑っている」ような顔。不敵な? 挑戦的なへらへら?
あの笑みは何に向けられているのかな。なにと戦っているのかな。
人間を簡単には信じない、人間が面白い、興味がある、とことんみる、掘り下げる、とでもいうような顔に見えてならない。
スクリーンのむこうのあなたに向けて。
いや、言葉は悪いけどこの言葉の方が近い気がする、「おまえに」向けて。
全力で遊んで全身全霊で座組(カンパニー)皆で「物語」をつくって、
「おまえに」見せる、投げかける、突き付ける。
 
〝善悪ってなんじゃい。善人悪人ってなんじゃい。人間ってなんじゃい〟
 
〝おまえは! おまえはどうや! どう生きとる! どう生きとるんじゃ!!!〟
 
映画版『孤狼の血』には、にも、
エンターテイメントでありながら、
その強烈な力というか投げかけを感じた、エンターテイメントだからこそ。

きれいなことだけじゃなくて、むしろ、そうじゃなくて。
現代の、いわゆるポリコレ的にどうなの? がありすぎていて。
筋や構成が必ずしもきっちりちゃんととかでもなくて。
でもあの声に出して読みたくないけれど読みたい荒っぽくて品のない強烈な台詞たちを真似したくなる。
昭和の時代に映画館にヤクザ映画を観に行った人々が肩で風をきって高倉健のように歩いて帰ったというように。
 
そして私は、旅芝居・大衆演劇の芝居のことを考えた。
 
旅芝居の芝居は演劇かと訊かれたら、すぐには「うん」とは言えない私は。
でも、すべてを「演劇」にすることは、正解では、ないのではないように思う。思うようになった。
きちんと形のととのった演劇が好きだからこそだ。
そういった演劇たちにどっぷり浸かってから旅芝居の世界を知ったからこそだ。
あまりに悪い意味ではなく洗練されていないものも多い。説明も多い。
例えば、死にかけの旅人が「ここらでちょっとぉ! おれの話をぉ、きいてくれぇ!」というシーン。
口には出さなくても観ていて「もうええって」と思う人は少なくないのではないか。
でもあれはね、途中から劇場に来た人にもそれまでのあらすじがわかるようにするためなんだよ。
と教えてくれたのは古くから旅芝居にかかわってきて、異業種ながら出演もしてきて、今もちょいちょいしているベテランのパフォーマー氏だ。
そうなんだ、そうして「大衆の」であるからこそ、
決して演劇的には洗練されていなかったりもして、そこが、眠くなったり退屈だったりはする事実として。
でも、大衆演劇のすべての芝居を「現代に合うように」するのも、なにか違う、とも思うのだ。
 
そもそも、設定などからして「どうなん?」「ふるくない?」が少なくない、いや、ほとんどだ。
弱者へのいじめ、封建制度(ヤクザや武士はもちろん、家庭や家族を描いた喜劇などでも)、
身分の低い人や障害を持つ人に対する差別やきつくあたるもの、などなど、などなど。
男は「おとこらしさ」「理想の自分」が多いし、女はそんな男を立てることが当然としての美徳、などなど、などなど。
意味わからん。よろしくないこと多々。
ああ、にほんの、にほんてきな。
ああ、仏教というよくもわるくもこの国に根付いてきた思想にもよる我慢や忍耐やなんちゃらかんちゃら。
なんでそんな簡単に人を信じるねん。
なんでそんな人のために死ぬねん。
耐え難きを耐えたって竹槍で戦闘機は落とせないし時代は変えられない。
でもそんなこれまでそうあってきたことやものやひと、
時におろかしいこと、おろかしくも懸命な姿、
決して共感だけではないことやもの、そこから学ぶことはきっと多くて。
また、昭和にねづいてきたその考え方や姿は、
今の年配の方、旅芝居の客席におおく座る皆が、
大なり小なり賛同したり反発してきたりしながらも通って生きてきた道でもある。
だから自身や自身が出会ってきた人を投影したり、思い出したり。
自分は手を下せなかった代わりにスカッとしたり。
旅芝居の芝居にはきっとそんな役割もすくなくなくあるのだととても思う。
かたちのきっちりきまった演劇的な芝居や賢い演劇ばかりになると、
窮屈だったり観辛い思いをするお客さんはきっと少なくはないのではないか?
 
学ぶことは、たくさんだ。
きっと、いろんな面から、いろんな角度から。
いろんな芝居があっていい。
いろんな芝居があるからいい。
 
演劇としては破綻しているもの。
極端な例だけれど、下品にすらみえるもの。
好き嫌いだけでいうと、私は、好きではない。
怒りとかを通り越して真顔になる。
笑わないということが私の意思表示だ。
でも、それらも、なくなってはいけないと思うし、
あたらしいもの(芝居)ばかりで影がうすくなってはいけない。
あたらしい芝居や今風ばかりを追求することでこれらがないがしろにされることは、あってはならないと近年の私はとても思う。
特別狂言や新作が観たい(やりたい)、
世間のひとにも通用する未来の大衆演劇を、
そこ「ばかり」になったり褒められたりすることはもしかしたら怖いことでもあるんじゃないかなあ?
ということをわかった上で、
古い芝居に関しては、現代にやる意味を考えて、
その後の口上挨拶の際にちゃんと説明すること、
つまりはその芝居、ひとつひとつの芝居をちゃんと考えること、
ここ、ここ! 大事なんじゃないかなあ?
 
「めっちゃこてこてにヤクザ映画」な『孤狼の血』の1と2に、だからこそ、思わされた、考えた。
 
そういや北野映画の『アウトレイジ』が流行した際、
旅芝居の役者でハマっている人、とても多かった。
その後、設定が江戸の芝居を「アウトレイジ版」として現代風、
つまりスーツとピストルでやっていた劇団もあった。
なんとまあ某座長大会でもそんな設定でやっていた!
 
『孤狼の血 LEVEL2』の最後は、ちょっと印象的だった。
オチのオチをネタバレすることはあまり好かない。
でも、ふわりと言うと、
まあ、この物語たち自体のテーマともいえるのだが、
狼は絶滅した? した?? みたいな。
 
狼。鴉。旅鴉。絶滅した? した??
 
する訳には、させる訳には、いかない。

させない。


勝手に芝居を考えるシリーズ、以前のもの。


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大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。




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