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旅芝居の芝居だからこそ 若葉しげる作主演・橋本正樹プロデュース「『花街の母』を見る会」に想う

「花街の母」、この芝居の主人公は「オカン(母)」だ。
偉いお武家さんだの、
筋道とやらで生き死にを繰り広げるヤクザだのの話ではない。
職業や年齢というもので差別や偏見をされたり、でもそれでも、たくましく生きる人の話。
でもね、決して、美化して描かれてなんかいない。
泣きもわめきもする、拗ねもする意地も張る、聖人なんかじゃない、オカンだ。
そんな芝居が、旅芝居で、とある名女形により、40年以上も前に作られて、
今も、当の本人に、さらに公認非公認はあれど様々な劇団な形で演じられ続けているのだから、うれしくなる。

旅芝居では、
歌をモチーフに作られた芝居や、
BGMとして使う歌のタイトルをそのまま芝居にしているものが数多くある。
同作もそのひとつだ。
『花街の母』
例のごとく、私は芝居のストーリーのネタバレが嫌いなので書けなくて書かなくてもどかしいのだが、
キャラクター設定が、展開が、ラスト、そう、特にラストが〝うまい〟。
こてこてに笑わせ、最後、泣かせる。
「これが旅芝居の芝居のええところ(の象徴というか形というか)ですよ!」
知らない人に全力でそう薦めたくなる。
個人的な好き嫌いや主観は抜きに、
ほんまに名作だと思い、旅芝居の歴史に残る、残すべきだと思う芝居のひとつだ。

うれしいのは。
「庶民の目線」であるということ、も、いや、「が」大きい。
弱い者の目線という言い方は私的にあまり好きではない。
でも、例えば「その人がそのひとらしく生きる」ということ。
当たり前の権利であろうそのことが誰かや何かによって妨げられたり馬鹿にされたり、ということは、残念ながら今も昔も少なくはない。
あってはいけないそんなことや人々に対して、立場や想いを代弁すること。
芝居というかたちで、寄り添ったり、伝えたりすること。
庶民の、大衆の芸能や芸というものは、これまでずっとそんな「代弁者」であってきたはずで、演歌だったり落語だったり、勿論、旅芝居も。
これからの旅芝居にもそうあってほしく、その気持ちを忘れてほしくないなあ、とは、私が常々思っているのだけれど。
49年も前に同曲がリリースされた際に、「聴いてすぐに芝居を作りました♡」というこの芝居が、かのように〝うまい〟芝居として、時代を越えて現在まで広まっていることは素敵でしかない。
今より芝居を作ることも広めることも不便だったであろう時代に作られて。
SNSもなく、しかし、さまざまな差別や偏見、「私らしく生きる」がきっと今以上にたくさんあり、苦しかったであろう時代から今に至るまでずっと演じられ続けてきている、そのことが。
正直、「今の目」でみると、
固定観念というか、こてこてベタベタでステレオタイプだなあ、と思う芝居では、ある、めっちゃ、あったりする。とは、いろんな劇団でこの芝居を観て、観続けてきて、やはり思う。
でも、でもそれでもあのラスト、〝うまいな〟と思ってしまうのだ。
〝うまい〟、つまりそれは良い意味での〝あざとい〟、旅芝居の、旅芝居だからこそのうれしいほどの〝あざとさ〟という点で。

先月、この歌の作曲家である三山敏さんを偲ぶ会が開催された。
その名も「花街の母を見る会」だ。
プロデュースをされたのはずっと親しくして頂いている
ジャーナリストの大先輩・橋本正樹氏。
氏とは会うたび呑むたびお茶するたびにこの芝居のことを語り合う。
だからだろうか。当日、私はじぃんとしてしまった。
私が参ったお昼の部の会場は大入り満員だった。
勿論、ゲストで来ていたもず先生のお弟子さんである演歌歌手たちの応援客や、会の関係者が詰めかけていたのも大きい。
そう、作詞家である大阪を代表する作詞家であるもず唱一先生も芝居を客席で鑑賞し、ゲストトークで出演されたのだ!
そんなこんなでこの日の客層や客席の様子はやはりちょっと通常の旅芝居公演のそれとは異なってはいたのだけれども。
でも、とても印象深いことがあった。
芝居終わりの休憩時間、私が避難するようにロビーに行くと、知らないおばちゃんが話しかけてきた。
「芝居、よかったなあ!!」
うん。この芝居めっちゃええよね! 
「泣いたわ、最後。なあ!!」
おばちゃんはガラガラの塩辛ボイスでそう言うととても美味そうに煙草をくゆらせた。うれしくなった。
だからか、その後の舞踊歌謡ショーもとても沁みた。
もず先生のヒットソングたちで皆が歌ったり踊ったりする特別ショーだ。
どれもこれも皆「庶民の」歌で、大衆の、大阪の、愛唱歌となった歌ばかり。大阪情話。雨の大阪。釜ヶ崎人情……。
作詞家本人やさまざまな客の前で劇団のベテランから若手までが舞台に情感たっぷりに「具現化」し、披露した。
あたたかで、熱い、まさに〝祭り〟だった。
なんだかうれしくなって、終演後、橋本氏にテンション高く伝えてしまった。「めっちゃ楽しかったですよ。めちゃめちゃええ会でした、良かった」、ほっとしたうれしそうな顔が返ってきた。

2022.7.12
大阪・花園町にある芝居小屋「鈴なり座」にて
会の最後に出演者一同が揃い記念撮影

思う。
今の劇団たちが作る新しい芝居がダメなのではない。
むしろそれらはまさに「時代と共に生きる」旅芝居だ。
るろうに剣心でもワンピースでも東リべでもなんでもなぞってやればいいし客席は喜ぶと本当に思うし実際喜んでいる。
「この芝居は旅芝居を越えます!」「新感線も四季も2.5も越える芝居を!」
おいおいとツッコミたくなるようなそんな挑戦だって冒険であり野心であり面白い。
外部のよくわかんない人たちを呼んで特別公演打ち出してゆくことだって本当にマジ輝かしい。
(これに関しては「劇団や役者の負担にならなければ」と「主催・企画する人たちの自己満足でなければ」とは思いますが、と、敢えて書きます)

ただひとつ。
私的に、これからの旅芝居に関しての、思うこと、願うことは。
〝そっち〟に憧れたりそっちばっかりに目が行く目を向けるのじゃなくて、だけじゃなくて。
〝私たちの目線〟を忘れないでいられればいいな、ということだ。
舞台上も、客席も、その奥や裏(?!)も、すべてのひとが。
今の自分たちのためだけでなく、未来のために。
まだ見ぬあたらしいお客さんたちのために。さまざまの、古今東西老若男女、しんどい人くるしい人、皆のために。
なにかや、誰かの「心の言葉」をかたちにすること。
くるしいくやしい、しんどい、つらい、「でも」を笑い泣きの、かたちにすること。
弱きもの、しんどい人、大きな声で叫べない人、そのそれぞれの、“私の”物語。
それは、それが〝大衆〟〝大衆演劇〟、皆の身近な、旅芝居という人間・舞台。
舞台・客席、共に〝厚い化粧に憂いを隠し〟ての。
この日の会と、件の芝居に思い、未来に願ってならなかった。

舞踊ショーで、圧巻だった出しものがある。
この芝居を作ったその人であり、
かわいくてたくましきオカン〝奴ちゃん〟を40年以上も主演し続けできた「本日の主役」、若葉しげる、御年82歳の女形舞踊だ。
口上挨拶で笑顔で堂々〝予告〟された。
「20代の女の子の物語を踊ります♡」
私は笑いながら唸った。
観て、めっちゃ笑った、ほろほろ泣いた。
曲は2018年にデビューした歌手が今年2022年にリリースしたもの! “今”!
20代の遊女の、決意の峠、覚悟の道行き、でも決して湿っぽくはないあかるく牧歌的な1曲! 
で、若葉サンがあの余裕の表情(かお)! 名女形の名「あざとい」芸! 完璧(カンッペキ)!
でもね、そこにいるのは、本当に「20代の遊女」だったのだ。そうじゃないけど、そうだったのだ、なんなんだ!
まだまだ現役でご活躍中。お弟子さんや、年下の座長さんたちに招かれ、
あちこちでゲスト出演をしたり芝居を教えたり西に東にお忙しそう。
100歳くらいまでご活躍されそうなことがとてもうれしい。
この日の口上挨拶でもあのテッパンギャグを余裕の笑みで言っていた。
「私、男性なんです♡」出た! ふふふ! うれしい、そして、誇らしい。

■omake①■
この日の模様をすこしインスタに。

当日の模様はテレビ大阪の「やさしいニュース」でも特集されました。

と、今年3月に観た若葉サンのこと。その素敵な〝あざとさ〟。うふふ。

そしてそして2月には素敵な女優さんが演じるこの芝居も見ました。

■omake②■
橋本先生の最初の本にもこのお芝居のこと、出てきます。

『旅姿 男の花道』橋本正樹・白水社・1983

■omake③■
娯楽という意味での勧善懲悪のチャンバラ(が、あかんのじゃなく)だけではなく、
昔は、いや、昔から旅芝居には「社会劇」というジャンルがあったと古い役者からよく聞いた。それこそ、戦争ものとかも。(今月、やる劇団あるかな?)

 印象深かったのは、この芝居。


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しかし暑いですね。いろいろ不安や心ざわざわな世の中ですが、どうぞ、皆、無理なく、気ぃつかいすぎとかもなく、らしく、たのしくあれますように!に!🙏

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大阪の物書き、中村桃子と申します。
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/
大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。
いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。人間を、書く、書きたい。

以下、各種SNSとプチ自己紹介など。
遊びに来ていただいたり、ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。
お仕事のご連絡や、それ以外のご連絡もお待ちしています。

ブログ「桃花舞台」

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ブログのトップページに簡単な経歴やこれまでの仕事など書いております。パソコンからみていただくと右上に連絡用のメールフォーム✉も設置しました。

現在、関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様にて女2人の酒場巡りを連載中。
最新話12回もアップされています。と、13回&14回も入稿したよー!!

と、あたらしい連載「Home」。皆の大事な場所についての文章、も、ぼちぼちと。こっちも更新せなあかんなー。

旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、
各種文、台本、役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。あ、小道具の文とかも(笑)やってました。
担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
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皆、無理せず、しんどならんよぉ、どうぞどうぞ、元気でね!

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