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じゃがりこと酒とあの空気、デスティーノと、ケンカキックからのSTF

武藤敬司の引退興行は知らないおっちゃんとの記憶と共に刻まれました。
 
「引退興行、観たことないでしょ。観てほしいんですよ」
「いや、いや、アベマとかで観ます。もったいないです」
ずっと渋っていたのだが、
わたしにプロレスを薦めてくれた人、
つまり若き日に武藤さんやあの世代のレスラーとも親交のあった元プロレス記者氏は強引だった。
「あなたはあの雰囲気を観ておくべきです!」
押し切るようにチケットを下さったので2月21日の東京ドームの引退試合を観に行くことになった。
 
開場前のドームのゲート前にはスクリーン越しの武藤(写真ってか静止画)と記念撮影をする人たちの熱、熱、熱。圧倒された。
仲間軍団で来ている人、正装の人、コスプレしてる人、カップル、ファミリー、若き日のガチ勢、
なんか西の知り合い(学生時代に仲がよかったプロレスサークルの)も同窓会的ノリで来ていたみたいだけれど会えず会わずだった。
拳王観れるやん、とか、NOSAWA論外も引退やもんな、とか、
不純じゃないけど不純な動機も持っていた自分を反省した。
おい、おまえはいつまで「反体制」が好きやねん、たぶんずっとそうやけど(えー)

席につくと、近くには、この日出場する新日本プロレスのジュニアの人気者・高橋ヒロムちゃんファンのギャルたち。
でも彼女らは席をまちがっていたのか、途中から消えてしまった。
お隣のおっちゃんが話しかけてきた。「ここ、僕、席、合ってますよね?」
うん、だいじょうぶです。わたしも間違ってるかと思った。
なんて言いながら数試合観ていたら、
お隣のおっちゃんはリュックサックからスナック菓子のじゃがりこを出して酒を呑みながら食べながら観戦し始めた。
自然とじゃがりこを出した。きょろきょろしたり、無造作だったりじゃなく、しぜーんと。真面目そうな身なりもきちんとした人が。
 
試合が進むにつれ、客席もまたどんどん埋まってゆく。
夕方早い時間から始まったのもあり、きっと仕事帰りなお客さんが集まってくるのだろう。
試合内容と共に熱もあがっていく。ああ、さよならNOSAWA論外(泣けた!)
 
隣のおっちゃんが突然話しかけてきた。「おねえさん、(プロレス)好きでしょ?」
吹き出した。答えた。「好きです(笑)」
この日来て生観戦している時点で「好き」な訳でしょう。
でもそういうことじゃないんだよね。わかるんだよね。
試合を観ていて、「うんうん」と頷いたりとか、
わぁ、とか、お、とか、声に出そうと思わずとも出てしまうそのタイミング、とか、拍手や身を乗り出す(乗り出しかける)タイミングとか。
なんかさ、説明はできないけれど、soulで通じるなにかっていうかさ。
わたしも隣のおっちゃんの隣に居て(日本語!笑)思っていたもん。「この人、好きなんやろやなあ」って。
 
かくしてわたしは、セミファイナルとメインイベントを、この知らんおっちゃんと共に観ることとなる。
 
「誰がお好きなんですか」「んー、内藤かなー。いまは」 
「おねーさんは?」「んー、今日は武藤を観に来ました。よく来るんですか?」
「いやー、しばらく、ほら、呑みながらとかって観れなかったでしょ」
「あー、ほんと、そうですね(笑)」
「おねーさんも結構呑んでるよね?」
「あ、はい、濃いめ2杯目です(笑)」濃いめだけど氷入ってるから濃くないめハイボール。
おっちゃんは自身の手の酒のコップ(ビール? 焼酎?)とじゃがりこをひょい、と上げて、言った。
「食べる?」「いや、大丈夫です。ありがとうございます」
酒が効いてきたのか、おっちゃんはめっちゃテンションあがってきた。
変に絡んではこない。リング上に、ほんまに楽しそうに声援を飛ばしだした。
 
「オカダ―!」
 
わたしはオカダが嫌いである。
オカダとはオカダ・カズチカ。
新日本プロレスの現・座長(え? ま、でもそんな感じ)
通称「プロレス界に金の雨を降らせる男」は、この日はセミファイナルにNOAHのエース清宮海斗とシングルマッチをすることで話題を集めていた。
が、わたしはオカダが嫌いだ。二回言うなって感じだけど。嫌いだ。あ、三回言うた。
猪木の継承者つって似合わないガウンを着出してからはほんまに嫌だし、
気合いを込めると昔一緒に仕事をしていたとあるアホな落語家に顔がそっくりなのものムカつく(関係ない私怨)
でも、おっちゃんはオカダが技を決めるたびに「うおー」とか言って「ね。すごいよね」と振ってくる。
「オカダいいよね。物がちがう。最高」「わかります!」わかるかよ。
でもおっちゃんは生き生きしてる。まるで小学生みたいに。
この日のオカダは直前に清宮に喧嘩をふっかけられてキレて急遽「時間無制限一本勝負」になった。
「おねーさん、無制限になったんだよ」知ってるし。けど、「え! そうなんですね!」
だってこんなにうれしそう。
もう、なんかね、わたしがオカダが嫌いとか好きとかどうでもよくなった。よくないけど。嫌いやけど。
でも「ヤバい。オカダ最高だ」と、セミファイナルでもうキラキラしてるおっちゃんに対して「ほんま。めっちゃすごい!」と言うわたし、その「今」の感情は嘘ではない、嘘だけど嘘じゃない。よかった。来て。家で生中継で観てたら「はい、オカダまたそれー」とでビールとか呑みながら「あー、はいはい。レインメーカー(カメラのズーム)」とかだった。
 
そして、メイン。結論を言う。正直に言う。メインはしっかりと覚えてはいない。
酔っていたんじゃない。ドームの濃いめハイボールは薄すぎる。
嘘。酔っていた。会場の熱と気にあてられた。
頭のどこかは醒めているのに胸がいっぱいになった。
28分58秒、デスティーノで内藤が勝利するまでの長いような短いような、短いような長いようなあの時間のあいだ。じぃんとした。
 
動けない内藤が動けない武藤さんの……あ、失敬、長くなる、これはやめよう、やめるべきだしそんなことはどうでもいい、よくないけれどいい。
内藤が「この場」にふさわしい技を繰り出すたびに、
歓声じゃない、もう「どよめき」(いい意味やで)と言いたいほどの声と、振動が、伝わる。
隣のおっちゃんは「ヤバい。ヤバいよ」を連発している。
先程のヒロムギャルっぽい子たちが「ムトー!」って金切り声で叫んでる。
席どこだったのよ。てか、うるせーよ(笑)
家ではこのうるさいほどの振動と騒音は感じられない。
アップでは観られない、けれどこの雰囲気は感じられない。
おっちゃんは「おねーさん、ヤバいよね」をうるさいほどに連発する。
でもやはりちゃんとしているひと、べろべろだらだらにはならない。そして、うるさいほどだが、うるさくない。
 
で、ネタバレごめんなさい。でももう皆後日配信された無料PPVとかネットニュースとかで知ってるやろうし書いていい?
この日、最後のサプライズは、武藤対蝶野。
武藤の引退試合の「最後の相手」は、正確に言うと、この表現がただしいかはわからないけれど、蝶野正洋となった。
わたしがずっと(これは褒め言葉として)〝天然KY〟って思っている武藤さんが、解説席の蝶野さんに「(リングに)上がれ!」つって。もう。ほんと、もう。
この理由とか所以とかはそりゃ書きだしたら長くなるしもう言い尽くされていることだから書かない。もういろいろは省くけれど。
「これヤバい。泣ける」
おっちゃんは騒いでいるのかしんみりしているのかわからないテンションで呟いた。
正確にはあのテーマ曲で蝶野が花道を歩いてきて解説席についた瞬間からめっちゃ涙ぐんでいたのだが。
呟きながら、わたしに言った。わたしに言いながら、呟いた。「ヤバいよ。ヤバいよね。くーっ」ヤバかった。
 
最後のSTFは、だから、よかった。

思っていた。
 
引退興行に駆け付ける人はどんな想いなんだろう、って。
ずっと応援してきた「推し」として自分の心の支えにしてきた人の気持ちたるや。
「最後を見届けよう」いや「見届けなくては」なんやろうか。
自分の中でのけじめや区切りや心の思い出BOXにちゃんと蓋をするための儀式でもあるのかなあ。
観始めて間もない人なら「まさかもう」の想いで心の準備も出来ないまま、というのもあるかもしれない。
「最後やから観ておこう」
ニワ……失敬、お祭りに参加しようという人もいるわけで、いや、その率の方が高いかもしれないし、それは別になにもわるいことはない。皆、ちゃんとチケットを買って入場して観るお客さんだ。
いろんないろんなお客さんがそれぞれの気持ちをのせて、それぞれの今の状況で、同じ舞台(試合)を一緒に観る。
 
今は今しかないその瞬間を共にするんだ。しているんだ。
 
みんなの気持ちと、舞台(リング)と客席、「あなたとわたし」のこの日の〝舞台〟。
それぞれの数だけ物語があって、ドラマがあって、だから生き、生かされて、永遠になる。
それぞれの中で。今日も、明日も、居なくなっても、例え舞台をおりても、永遠となる。
 
一期一会が、瞬間瞬間、沁み、刻み込まれて「わたし」となる、今日も、明日も、ずっと、共に。

ありがとう、知らないおっちゃん。

あの日から、より一層「今この瞬間」を思うようになりました。

今しかない瞬間と空間と空気を「共に」って、ほんとうに、マジで、尊い、ヤバい。

好きだなあと思う人は勿論、
おいおいとか、例えば自分に対して嫌なことを言ったりしたりしてくるひとやトホホなひとのことも、
例えば伝えねばならないことは伝えるそのやり方を考えることや、
残念やけど相手のために距離をおいてあげるとか、
そんないろいろを(むつかしすぎるけれど)考えながらも、でも、でもそれでも、皆、皆で、と、ほんとうに思う。

それは文字通り「皆で生きる」こと。

すべての人が主役や勝ちやチャンピオンにはなれない、
なれないしならないから世界は成り立つ。でも皆が主役だ。
そして皆いずれいろんなタイミングでリングを降りる。
今ここに居ることも明日そこに居ることも、あたりまえだけれどあたりまえじゃない。
今、は、今で、今の重なりが、「そのとき」へと繋がる。
いずれ必ず来る自分の、だれかの「そのとき」と、今しかない「今」。 

オカダはきらいだけれど一緒に「オカダー」って言えてよかったな。
わたし、忘れないと思います。 
じゃがりこと、酒と、武藤と蝶野と、あの空気のこと。デスティーノと、ケンカキックからの、STF。

と、いう話を、数日前に、思い出したかのように(いや、ずっと書こうとしていたのだけど)途中まで書いて放っていて、やっとアップしたら、なんか、流れ的にいろいろ繋がった気がしないでもありません。

だいすきな「宙」の踊り子さんの話
行く予定がなかったけれど、ふらっと観に行った旅芝居の劇団の話
と、なんか雨ふって、ふとつぶやいた、桜の話
で、武藤とじゃがりこの話でした。

いや、じゃがりこは、いいから(笑)
  



プロレスの文章や写真に関して、
わたしは、原悦生さんというベテラン記者さんの文章と写真が、とても好きです。
元スポニチで、雑誌numberでずっと連載をされている方。
(わたしにプロレスを教えてくれた記者氏も旧知の仲)
numberの文って、どの人が書いても、読み物と陶酔のハーフアンドハーフみたいで、そこがいいようなわるいような、わるいようないいような、で、でも嫌いじゃなくて、
中でも原さんの文、熱くて、でも熱いだけじゃなくて、好きです。 
そして、写真。
「これ!」「ええ写真やなあ」っていつも感嘆のつぶやき。
(たぶんイントレから撮ってる?ねやろうけど)
自意識だだ漏れとかじゃなく、「ちゃんと」な写真たち。 
この日のドームの文と写真も、熱い。新日声出し応援再開の際の文も、熱かった。


そのあとに貼るのもおこがましMAXだが、これも貼らせて。なんて、ギャー、ですね。



以下は、ちょろっとですがいつもの自己紹介 。
と、苦手なりにもSNSあれこれ紹介、連載などなどの紹介!!も。
よろしければお付き合い下さい🍑✨
ご縁がつながったりしたらとても嬉しい。

大阪の物書き、中村桃子と申します。 
構成作家/ライター/コラム・エッセイ/大衆芸能(旅芝居(大衆演劇)やストリップ)や大衆文化を追っています。
普段はラジオ番組の構成や資料やCM書きや、各種文章やキャッチコピーやら雑文業やらやってます。
現在、lifeworkたる原稿企画2本を進め中です。
舞台、演劇、古典芸能好き、からの、下町・大衆文化好き。酒場好き。いや、劇場が好き。人間に興味が尽きません。

【Twitter】【Instagram】【読書感想用Instagram】

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簡単な経歴やこれまでの仕事など書いております。パソコンからみていただくと右上に連絡用のメールフォーム✉も設置しました。


現在、関東の出版社・旅と思索社様のウェブマガジン「tabistory」様にて女2人の酒場巡りを連載中。

と、あたらしい連載「Home」。
皆の大事な場所についての話。

2023、復活。先日、新作が出ました🆕

以下は、過去のものから、お気に入りを2つ。

旅芝居・大衆演劇関係では、各種ライティング業。
文、キャッチコピー、映像などの企画・構成、各種文、台本、
役者絡みの代筆から、DVDパッケージのキャッチコピーや文。
あ、小道具の文とかも(笑)やってました。

担当していたDVD付マガジン『演劇の友』は休刊ですが、
アーカイブがYouTubeちゃんねるで公開中
(貴重映像ばかりです。私は今回のアップにはかかわってないけど)


あなたとご縁がありますように。今後ともどうぞよろしくお願いします。

皆、無理せず、どうぞどうぞ、元気でね。

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