見出し画像

『落研ファイブっ』(50)「みのガールズ」

〈松尾下宿夕食前 みのちゃんねる再生中〉

〔松〕「お百度参りさん映るかな」
〔仏〕「見たいような、目を合わせちゃダメなような」 
 千景おばさんが遅番だからと仏像を説き伏せて家に上げた松尾は、シャモが一目ぼれされた問題の『みのちゃんねる』最新回をコーヒー片手に見ていた。

〔シ〕『そしてこちらが三十倍の倍率を勝ち抜いた精鋭女子せいえいじょし、みのガールズの皆さまですっ。自己紹介をお願いしまーす』
〔あ〕『【あさぎちゃん】でーす。グラビアモデルでーす」
〔し〕『えーっと、しーちゃんです。横浜マーリンズサポのシンママですっ。年齢は秘密です」
〔シ〕『息子さんが応援しに来てくれてまーす』
 苦笑いをしながら、大学生位の息子とその友達がエイエイオーと叫んでいる。

※※※

〔仏〕「何でこんなチャンネルが登録者数十万超えして、SNSのフォロワーが三万超えてんの。マジで意味わかんね」
〔松〕「時事メタル漫談まんだんは止めちゃったんですかね」

〔仏〕「コメント欄が荒れるから面倒になってきたとか抜かしてたわ」
〔松〕「確かに今の内容じゃ、コメント欄は荒れそうにも無いですよね」
 仏像も目をすがめながら笑っていると、エロカナをカメラがどアップで抜いた。


〔加〕『洋尺八ようしゃくはちの加奈見参けんざんっ。いざ、尋常じんじょうに勝負っ』
 
〔仏〕「やっぱ興福寺こうふくじ金剛力士像こんごうりきしぞう阿形あぎょう)そっくりじゃん。今の手の角度とかまさに実写版っ。こいつにタゲられてるとかありえんわ」
 自分がロックオンされていると知りつつも続きを見る仏像を、松尾は信じられないと言った顔で見た。

〔松〕「良いんですか阿形あぎょうですよ。阿形あぎょうで良いんですかゴーさん」
〔仏〕「良い訳ねえだろ。シーサーの置物みてえ。ペットだと思えば可愛いけど」
 ナチュラルにひどい事を言いつつ仏像はビスケットをつまんでいる。


※※※

〔シ〕『そしてここからいよいよ問題の』
〔可〕『可愛かわいちーずでーすっ。SNS友達も募集中でーす』
 くねくねポーズで現れたのは、後期高齢者一歩手前のふくよかな女性である。

〔シ〕『可愛かわいちーずさんは『@レーズン級』が決め手になってみのガールズに選出されたのですが、一体何がレーズン級だったのでしょうか』

〔可〕『首のイボがね、レーズン級になって来たのよー。もうぎゃはははは。レーザー手術の費用投げ銭よろしくなのー』
 まだ撮影に合流していない服部が見たら白目をいて倒れそうなガミースマイルを見せながら、可愛ちーずは首筋を指さした。


※※※

〔仏〕「服部の野郎、まさか『@レーズン級』が老人性イボの事だとは思いもよらねえだろうな」
〔松〕「『@レーズン級に打ちぬかれた』って発言は壮大な前振りでしたね」
 松尾が救いようがないと首を横に振った。

※※※

〔シ〕『そして大ラスはまさかまさかの。あなたは運動させられないわあ」
〔唐〕『唐木田からきだこと唐田からたとはこと、竜田川姉妹たつたがわしまいの姉、竜田川千早たつたがわちはやよ。美濃屋みのや若旦那わかだんなとはご縁が深くって嫌になっちゃう』

 鶏ガラのような体にショッキングピンクのポートネックシャツと白いテニススコートのいでたちで、竜田川千早たつたがわちはやはくねくねとジュリアナ扇子せんすを振り回した。

〔シ〕『芸歴六十五年の大御所歌謡おおごしょかようユニットの姉、竜田川千早師匠たつたがわちはやししょうまでもがみのガールズになる予期せぬ事態。みのガールズの推定平均年齢は五十歳越えかと思われます。これには後ほど登場する、プロレスを愛し愛された男子高校生三人組もビックリでしょう』

※※※

〔仏〕「もはや視覚の暴力だろこれ」
〔松〕「アンダースコートなのか介護用紙かいごようかみおむつなのか分からない」
 二人は小柳屋御米師匠こやなぎやおこめししょうの伯父の店で『たらもどき』を食べた時のような顔で、画面から目をそむけた。

〔松〕「もうだめだ。例の『お百度参ひゃくどまいり』さんが映ったら呼んでください」
〔仏〕「まだ本編にも入ってないぞ」
〔松〕「レーズンさんでボディ―ブローで御婆さんでKOされました。ごはん作ってるんでそっとしておいてください」

〔仏〕「鍋を火にかけるだけって言ってたじゃん。すぐ戻ってくるだろ」
〔松〕「ちょっとキュウリでも刻んで無になりたい」
 ほどなく、仏像の背後からトントンと包丁の音がし始めた。

〈部活後 えさ宅〉

〔餌〕「加奈先輩最高に輝いてますって」
〔加〕「ゴー様もこれ見てるかなー。これ絶対ドン引くもんゴー様見ないでっ」
 エロカナの登場シーンで爆笑した餌は、加奈にベビーカステラを差し出した。

〔餌〕「安心してください。奴の眼中には加奈先輩はおろか、いかなる女の影も映っていませんから」
〔加〕「えっ。でもこの前本命いるって。やっぱりあの眼鏡の子と付き合ってんの」

〔餌〕「そういうんじゃないですって。あいつメチャクチャナルシストなんですよ。もう一人の自分が鏡から出て来たらそいつに恋するんじゃないでしょうか」
〔加〕「やっぱ難攻不落なんこうふらくか。せっかくパンダの友達だって分かったのに」

〔餌〕「正直言ってあいつはお勧めしませんね。あいつ神経質だし生真面目だし几帳面きちょうめんだし。加奈先輩には合わないんじゃないですか」
〔加〕「それってウチががさつでルーズで大雑把おおざっぱだって言いたい訳」

〔餌〕「分かってるじゃないですか」
 餌はういーっとオッサン臭いうめき声を上げながら起き上がると、ローテーブルに置かれた麦茶のペットボトルを飲み干した。

〔餌〕「さっさとこのワッペンの山を片付けて貰えませんかね」
〔加〕「パンダこそめくりのひもづけ早くやってよ」

〔餌〕「そもそもうちのミシンを使うだけでもおかしな話なのに、何で僕が全く無関係な他校の部活用のめくり作りをするんですか。これは高くつきますよ」

〔加〕「だからご褒美ほうびとして日曜の試合に友達連れていくって言ってるでしょ。はいさっさとめくり、めくり」

〔餌〕「加奈先輩の友達でしょ。ろくな女いなさそうで」
〔加〕「パンダあんまナマ言ってっとめるぞ」
 金剛力士像こんごうりきしぞう阿形あぎょう)の如き形相ぎょうそうで低い声を出して加奈がスゴむと、餌は反射でサーセンと言ってめくりのひもづけ作業に戻った。


 ※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

 
 この記事がちょっとでも気になった方はぜひ♡いいねボタンを押してください!noteアカウントをお持ちでなくても押せます。いつも応援ありがとうございます!
 
 
 


よろしければサポートをお願いいたします。主に取材費用として大切に使わせていただきます!