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SDGs×芸術文化 — “持続可能な舞台芸術”を考えてみる

ある演劇のインタビューを読みました。

そこに「サステナビリティ」という言葉が出てきました。

佐々木敦さん(批評家)
「文化・芸術にこだわりを持っているのであれば、サステナビリティをどのように構築するのかが重要」
相馬千秋さん(アートプロデューサー)
「どうやってサステナビリティを築いていくか、みんなで考えなければならないと思います」

「サステナビリティ」(sustainability)とは『持続可能性』または『持続することができる』という意味。この話題に「ふむ」と思って、いまやっと日本でも話題になりつつある、サステナビリティを考えるときのキーワード“SDGs”と、“舞台芸術”について、ちょっと考えてみました。

そのまえに……

ちょっとだけ“SDGs”(=エスディージーズ)についてさらってみます。

そもそも“SDGs”が何なのかご存じない人も多いと思いますが、これはSustainable Development Goals(サステナブル・ディベロップメント・ゴールズ)の頭文字。直訳すると『持続可能な開発目標』です。そう、「サステナブル」って言葉が入ってますね。これが世界にとって、すごく大事なキーワードになっていて……最近では2018年12月発売の女性向け?カルチャー雑誌「FRaU(フラウ)」で一冊まるまる特集されたりもました。

ざっと説明すると、SDGsとは『「誰も置き去りにしない」世界を目指す17の共通目標』のことです。2030年をひとつのゴールとして「持続可能な世界を実現するための17の目標をみんなでめざそうよ」、そしたら“持続可能な世界”が実現できるんじゃないかな、っていうことです。

↓↓ これが17個の目標とできることの例 ↓↓

具体的に「数値○○%を達成!」とかいう設定があるわけではなく、この目標のためにできることならなんでもいいですよってかんじです。なので、人や団体によっては「うちは○番に力を入れてます」っていうところもあるし、番号なんか意識しなくても、ものすごく身近なことでもSDGsに当たります。たとえば、ゴミを分別する、節電する、いじめがあったら報告する、誰かの相談に乗るとか……ほんのちょっとした、なんでも。

ぼややんとしていますが、SDGs解説としては『イマココラボ』さんの記事がかなりわかりやすくまとめてくれてますので、ご興味ある方は、どうぞ。

(ちなみに、2016年に国連がこの「SDGs」を発表したんですが、実は、日本は世界のなかでもめっっっちゃくちゃ遅れています。もう、恥ずかしくて先進国とは名乗れないレベル。どれくらい遅れてるかは……話がそれちゃうので最後に書きます。)

そろそろ話題を舞台芸術に戻します。

「舞台芸術とSDGs」

芸術文化と持続可能性。
これについては、「2020年のオリンピック花火が打ち上がったあと芸術文化をめぐる状況はどうなるのか?どうするのか?」のような話がずーっと続いています。とりあえず2025年に大阪万博が決まりましたが、でもそのあとは文化や芸術はどうなっていくんでしょう? 20年後は? 50年後は?……終わりのない問いです。芸術文化を大切にし続けるために(つまり持続可能=サステナブルであろうとするために)は、永遠につきまとう課題です。わたしたちは、考え続けることを続けなければいけません。

ということで、SDGsと舞台芸術がどのように関連づけられるかを想像してみました。SDGsはサステナブルな世界を実現するための『目標/課題』ですから、逆から考えれば、舞台芸術業界において「この17個の課題をクリアすればサステナブルな状況が作れる」とも言えます。(SDGsはサステナビリティのためのリスクチェック項目だとも考えられています)

17個の『目標/課題』に沿って「これが舞台芸術のサステナビリティのための課題だよね」と思いついたものを挙げてみます。また「各課題をめぐる現状」「サステナブルな世界のために舞台芸術ができること」にも触れてみました。SDGsには明確な答えがありませんから、これから書くものはそれらのほんの一部になるでしょうけれど……。

  * * *

1:貧困をなくそう
舞台芸術には、お金の問題がつきまといます。業界全体もですし、舞台芸術業界を志す人がバイトをしながら活動して、疲弊してけっきょく舞台芸術から離れていくという話はゴロゴロあります。アワードや助成金や育成機関など、さまざまな対策はありますが、多くはその場限り感がいなめないですね……。一方で、貧困によって芸術文化に触れる機会のない人も、世の中には多くいます。

2:飢餓をゼロ
これはそのまま「1」と同じかも。飢餓、というとダイレクトには関連づけられませんけど……貧困からの飢餓、文化的欲求の飢餓、文化的教育の不足による物理的・精神的貧困から抜け出せない結果の飢餓……とか?

3:すべての人に健康と福祉を
アーティストの福祉、年金加入などはあまり充実してないですね。一方、アーティストの老人ホームや病院訪問など、福祉の現場にアートが入ることによって、精神的に健康になったりすることもあります。また、障害者×アートの試みは、舞台芸術だけでなく美術界でのアール・ブリュットなど多くあります。医療や介護現場に演劇・演劇教育をとりいれることで、介護者と受給者、医者と患者のコミュニケーションをスムーズにする働きもありますね!(例:Oibokkeshi

4:質の高い教育をみんなに
演劇やダンス教育は、日本は欧米とくらべて遅れているでしょう。それによって芸術文化への理解や教養の水準が低くなるということはありそうです。これについては前にnoteで書きました。(「日本初「演劇を学ぶ国公立学校」案が発表。日本って欧米の演劇教育と違うの?」)

5:ジェンダー平等を実現しよう
舞台芸術業界でもme tooが話題になっています。日本だけでなく、韓国や欧米でも。また、ちょっと映画の話になりますが、昨年あたりからハリウッドなどでもものすごく男女平等の動きが活発になってきています。女性主人公の恋愛ものでない作品が増え、興行収入もトップ。女性クリエイターも現場で増えて、「女性監督の映画には5.4%多く女性キャラクターが登場」「女性の脚本家が携わると女性スタッフが採用される確率が10.7%上がる」などの数字が出ています(出典:Total gross as of Feb 28,2018)。セクハラの撲滅を訴える「TIME’S UP」も始まりました。

6:安全な水とトイレを世界中に
これは……小さな劇場やスタジオにも綺麗なトイレがあったらいいなあ、とか、野外劇場でも快適にすごせるポータブルトイレがあると助かる人もいるなあ、とかかな。あと、舞台美術とかで廃材が出た時に環境(水)を汚さず処理できたら、とか? ちょっと直接関連づけるのは難しいけれど、改善できたら手間を省けたり、関わっていない人からの好意も得られそう……かもしれない……

7:エネルギーをみんなに そしてクリーンに
あ、これは「6」に近いですね。あとは照明の電力とかにも関わりますかね。LEDとかデジタルの操作卓とかもありますが、それが作品によっては質感を損なうこともありますし、逆に、新しい表現ができたりもします。エネルギー環境が良くなると、作品の幅は広がる可能性がありそうですね。

8:働きがいも経済成長も
「やりがい」。これは舞台芸術業界で働くことの大きな課題だと思います。一時期、こんなnoteがバズリました(「舞台制作…辞めました!」)。反対に、舞台芸術がこの世に存在することで「今日もがんばって働くぞー!」って思える人たちもいるだろうなあ。嬉しいなあ。その方たちにももっと届けたいなあ。

9:産業と技術革新の基盤をつくろう
国連的にはインフラと産業基盤の話みたいなんですけど……劇場へのアクセスや、発展途上国への芸術関連の技術の供給と関連があるなって考えられます。また、とくに商業演劇においては、どうスムーズにアクセスし、生活に馴染んだ産業の一部とするかというのは課題ですよね。2.5次元舞台とか、ブームになっていく流れはすごかったなーって思います。

10:人や国の不平等をなくそう
ちょっとこれすべてに関連しすぎてますけど。他者、他国、他文化など、自分とは違うものと接して交流して意見交換して、理解や発展の相乗効果があるのは、多くの人はわかっていると思います。時間とかの都合で、なかなか地道にはできませんけれどね。国際的な芸術祭とか、一助になってるのではないでしょうか。

11:住み続けられるまちづくりを
安全で、ゆずりあう町づくり。人と人を繋ぐのは、まさに芸術や文化のひとつの大きな役割です。高齢化社会でもありますので「3」の福祉とも強く関連していくと思います。子どもとの文化芸術の関わりを豊かにすることで、明るい街づくり、とか。また、欧州ではオーソドックスなのですが、劇場などがカンパニーを持つことで、評価をされたり、人がやってきたり、楽しかったりして……その街に住むアイデンティティになっています。

12:つくる責任 つかう責任
これは「消費」と「生産」についての話。芸術に関わることでいうと、公演での廃棄物を減らすとか、節電とかですかね。あと、お客さんに来ていただいて、また来ていただくにはとか、どんな時間を過ごしてなにを持って帰っていただけるかというのも、直接ではないですが「消費」と「生産」という考え方には繋がりそうです。

13:気候変動に具体的な対策を
気候変動……せ、節電……?

14:海の豊かさを守ろう
これも直接的な関係は言いづらいですね……海で芸術をするという場合もありますけれど。一般的には、ごみの分別とか、かなあ。

15:陸の豊かさも守ろう
同じく……。自然の中での芸術上演はよくあるので、ごみを残さない、動物に迷惑かけない、とかですかね。

16:平和と公正をすべての人に
これはものすごく大事だと思っていて、まず、「どんな人にでも芸術文化に接してもらえる状況をつくること」。たとえば車椅子や、視覚的・聴覚的に病気を持っている方へスムーズに作品に触れていただけるようにすること。また作品中で、現実にプレッシャーや差別を抱えている人たちへ配慮すること、ですね。個人的にですが、どんなに作品のクオリティが高かったとしても、生きて生活している人たちへの配慮がないものは良くないと思います。描くなということではなく、誠実であってほしいということです。

17:パートナーシップで目標を達成しよう
文化の基本だと思います。誰かとなにかをすること。自分と違うものと手を結ぶこと。政治や経済とは違う扉を開くこと。芸術祭でも、共同創作でも、どこかへ出かけて作品を見ることも、公演先で誰かに話しかけることも……すべてがパートナーシップであり、文化なのだと。

  * * *

以上は「課題」なので、どう解決していこう、というのは具体的に考えていかなければいけません。場を作るのか、祭りをつくるのか、人を繋ぐのか、業界をまたぐのか、歴史を振り返るのか、制度に働きかけるのか、ビジネスにするのか……いろいろ手段はあるでしょう。その時に、意識してみたら取りこぼしが少なくなる大切なもの、スムーズに進み協力を得られやすい大事なポイント、が、このSDGsだって言えるんじゃないかなあーと思います。

あとはですね、まあ想像はつくと思うんですが、17個のうちどれでも「作品の題材として取り込まれていればすでにSDGs」なんですよねぶっちゃけ(笑)。

でも実際、社会との繋がりなくして文化そして芸術はない、とわたしは思っているので、これらを意識して活動をしていくことは大事なことだと思います。

「日本が遅れてる、やばっ、って思ったはなし」

わたしが最初SDGsを知ったのは2017年夏のスリランカなんだけど、トゥクトゥクと砂ぼこりだらけのスリランカ最大の都市コロンボを歩いていたらどでーん!とカラフルで可愛いロゴと垂れ幕が。

これが、SDGsでした。並べられた17個の目標は首が痛くなりながら見上げるほど大きくて、ものすごいアピールされてました。ちなみにスリランカ、周囲はこんな感じの街です。

トゥクトゥクのおじさんにボラレそうになってキレました。まあ、ボろうとふっかけてこちらが怒るまで含めて一連の文化でもありますから、いいんですけど。

それが2年近く前なんだけど、日本で今SDGsのロゴってどこで見るんだろう……いやあ、あまり見ないですね。
ほかにも、たとえば国連に行ったら、他の国はだいたい男女半数なのに、日本だけ全員男。しかもそれを恥じてない態度……。まあ、むりやり女性をいれるのはどうかって思うけど、選ばれる女性がいないって時点で国レベルで遅れてる。さすが『男女平等ランキング144ヶ国中110位の国』と言われてもしかたない。(ただ……「平等ってなにか」ってことと「男女半々なのが本当にいいのか」ってことはすこし別な問題としてありますけどね)
まあ、つまり、とにかく、遅れてます。
来年はオリンピックもあるので、せめて世界水準を意識してますよっていう態度はほしいですね。

とはいえ2030年まではあと11年あります。

昨年の2018年あたりから、日本でもいろんな制度やアワードができています。おお、本格的に力を入れはじめたなって印象です。(国連で男だけで日本が盛り上がってたのは2018年のことですけどね。苦笑。まあ、これから、これから)。今では、大企業や自治体はSDGsを取り入れるのが当たり前だと言われはじめていて、議員さんもバッジをつける人が増えてきました。
2019年以降は中小企業にもっと知ってもらおうという動きが活発になるでしょう。それと平行するか、少し遅れて、2019年後半〜2020年くらいから一般にもすこしずつ広まっていくんじゃないかな……というのが、わたしの希望的観測です。

“持続可能”というからには、もちろん2030年以降も意識していくことではありますが、とりあえず、世界の中間地点の2030年まであと11年。SDGsをめぐる現状はまだまだ発展途上で、「どうやって取り組んでいく?」っていうのをそれぞれ考えていこうよ、っていう段階です。なので、現場それぞれが『サステナビリティ』のために試行錯誤し続けていきたいですね。もちろんわたしも、どう行動をすればよりより芸術文化の未来に繋がるか、いつまでもぼんやりせずに動いていかなければなあと、踏み出しかけているところです(遅い。でも、遅すぎることなんてないはず)。

そうやって考え続けていくこと、動き続けること、続けるを続けること、が、文化のつみかさねであり、豊かさであり、社会や経済だけでなく芸術の可能性だと思うんです。

なぜなら、「SDGs17個の目標が達成できている未来」=「誰も置き去りにしないサステナブルな未来」=「芸術文化も続いている未来」、ですから。

最後に……

いくつかSDGs説明リンク貼っておきますね。

SDGsは身近なものです。白黒数字でハッキリつけたり、ゴール設定を他人にしてもらった方が好きな人には「????」かもしれませんが。地球に生きてる人なら関係あるよ、っていうことですし、これから世間でもっともっと話題になるでしょうから、そんなのがあるんだ〜と知っていたらいいかなぁと思います。わたしもまだまだ、勉強中です!

▼外務省サイト(まあ、推進してるおおもとのサイトなので、PDFばかりですがリンクしておきます)

▼朝日新聞 2030 SDGs(いろいろ書いてますよろしくてへぺろ!)

▼国際連合(身近でできることの例が書いてます。ほう)

▼イマココラボ(17の目標にひもづく169のターゲットについても一覧で解説)

ご参考までに。

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