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大和侍農絵づくし(やまとしのうゑづくし)

出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

百姓しやうは まづ のう農具ぐをゝへ るにもなれば 水にねをたし 一りう一粒万倍万ばいとわゐて あまりしみを 火にあて つきて これをわふ これをたな米といふ

※ 「一りう万ばい」は、一粒いちりゅう万倍まんばい。一粒の種をまけば、その万倍もの粒となるという意味。また、稲の別名。

とし年寄よりたるもの 孫をつれて出 れ きとしいけるも 此ぼさ菩薩つにこそあれ おろそかにすべからず きみ君君/\たれば 又 しん臣臣/\たり いつがいつまで こくと あん安穏おんにあれかし

子やごも きの みや冥加うがあれ とふて
  君が代の 久しかるべき ためしには
    かねてぞ へし すみ住吉よしのお田

※ 「きみ/\たれば又しん/\たり」は、主君が主君としての道を尽くせば、臣下も臣下としての道を守り忠節を尽くす。もとは「古文孝経」序の「君君たらずといえども臣臣たらざるべからず(主君が主君としての道を尽くさなくても、臣下は臣下としての道を守り忠節を尽くさなければならない)」から来ています。

※ 「すみよしのお田」は、住吉大社の御田植神事のことと思われます。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

すでに夏にもなれば めをふて なわ苗代しろをおろし わせ早稲 おく晩稲て とうの ねをまく りのりて ゑば餌食みをすれば そのよう心にとて わをはり まじないのふたを 水のおもてにさす
   ほう蓬莱らいの 田くりや みの国たから

ようやく ゆれば それを引ぬいて かなたこなたの水に これをゆる 女房 子 そをからげて たをたう び人をれば わゝんとて ろをすくひ おつかくる 田をゆるに 国ゝのうあり
   へ渡す さな早苗へや 民の花紅葉

※ 「たび人とをればいわゝんとてどろをすくひおつかくる」は、通りかかった人に泥をかける「泥打祝どろうちいわい」のことと思われます。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

おく晩稲ては 後に ゆる 田作に 水をため から唐鋤すき 馬わを まにかせて つち土塊くれを ごかす 水そ水損ん ひそ日損ん ちあり

ちには 日で日照りをのむ 日ちには さつ皐月き雨をふて これをくる あるひは こやしをかけ さを引 

やうやく づれば 野分の風をいとひ 天下一たう天下一統の の中となりて きみだるれば 百しひゃくしょうやうは さておき 四民らう老若にやく これをろこぶ事 かぎりなしとて 用心すべきは 二百十日の風なるべし
   へし田の きこそたれ いと

※ 「水そん」は、水損。水害により田畑が被害をうけること。
※ 「日そん」は、日損。日照り続きで田畑が被害をうけること。

※ 「野分のわき」は、二百十日、二百二十日の頃に吹く強い風のこと。
※ 「二百十日」は、暦の雑節のひとつで、立春から数えて二百十日目の日。稲の開花時期と台風がくる時期が重なるため、米作りの厄日として暦に記載されていたそうです。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

はや きも なかばになれば ねをりて 家にへり さい妻子しをめつ ほさ穂先きしごき しろにらべて 日にして 道をせばめ なのまひも ぎめける事 このときにこそ はやねをわれば つち土塊くれをへし ぎを

その所の代官 はい徘徊くわいして んをだむ 百し百姓やうの そがわしき事 るにかぎらず しかれども くひ食分ぶんほければ にする事のたわず
   きの田の かり刈穂ほは民の のちかな


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

ねをしあげて すにて みをとをして ほのか●●をいて ふんりやう さ●わ●● 納米をゝのへ わらなどしらへて 代官庄や庄屋の下知をもつて わらにかり合 その残る所をもつて 家のげみとして まどにむりをつるとし

※ 「下知げじ」は、上から下への指示のこと。げち。

● ごりよき 百し百姓やうは 納米ふそ不足くして さい妻子しをり そのる とかくごるもの久しからず ごらざれば しそ子孫はん繁昌じやうして 家をづるなり 百し百姓やうの狂歌に
   大まに だい大根ぶらを り入て
    下をがすは だん団子ごなるらん


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

じめのゆにもなれば その村ゝにらを立 納米を入おき 百し百姓やう りん輪番番をとむ 納米のある時は 寸間をあらそひ 地代ぢしろるさるゝ きう所の百姓は その地頭/\ 牛馬をもつて俵糧おくる事 くま熊野のへよふりのごとし

※ 「地代ぢしろ」は、借地料のこと。
※ 「きう所」は、領主が地頭などに職務給として与えた田地のことで、自営する場合と一般の農民に請作させる場合がありました。ここでは後者のケースを指しています。

すでに上納ぐれば 土民 きをぐ事 れし頃より弥生やよいに至る しよこくの米 大津のはまに 市をてゝ きなふ商人りて 馬につけ家にへる
   いかにして も荷 大津に 生れきて
    馬もき世に 我もき世に

※ 「くれし頃」は、暮れし頃。年の暮のこと。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

づしき おけ桶屋や でう定席せきの となみもならざれば 町中 はい徘徊くわいして たが/\と ばわれば 水し水仕の下女 しりて を入させければ たがひ下女に
   たがかけて れたればこそ 水し水仕どの
  下女
   れざるやうに いれて給はれ

※ 「水し」は、水仕みずし。台所で水仕事をする下女のこと。
※ 「たが」は、箍、𥶡。竹を編んで輪にしたもので、桶や樽の外側にはめて締めるのに用いる。

らより せき石塔とうをり 正月じめつた りたてしらへたる 若松といへる せがれも かし家職よくなれば 手伝てつだへしけるが やにかひ 云やうは 「なに ゝさま そなたのせき石塔とうも こと今年しはらふほどに このついでに しらへたら よかろふ」 とふた

※ 「かしよく」は、家職かしょく。その家に伝わる職業、家業のこと。

父親に、今年はお父さんの石塔(お墓)が必要になりそうだからついでに拵えたらいいでしょう、と冗談を言っていると思われます。

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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

ばん番匠じやうの しよ所作さは かね矩差ざしをもつて みをだむ ねをあて見る時に 両の目にて見る事 たはじ かた片目めにて 是をわむ 木のらへぼる事 るのごとし
げの ちに大事あり

あい相槌づちをつとき 七な七難そく即滅めつ 七ふ七福そく即生しやう と云

※ 「ばんじやう」は、番匠。大工職人のこと。
※ 「七なんそくめつ」は、七難即滅。七難が滅して幸福がもたらされること。
※ 「七ふくそくしやう」は、七福即生。 七難が滅することによって得られる七つの幸福のこと。

せん洗濯だくする ゝあり すめに しよ所作さをしゑければ かきものゝ事なれば ひたらひにらひけるほどに ゝ きや教訓うくんしれば をしてしさりけり
  ばゝ歌に
    よくかを とせばぬるむ ごり水


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

舟人は海上浮み 鹿しかりや猟師うしは山をずといふ事なし まづ りや猟師うしのとなみは だものゝのちをとりて 我がのちをつなぐ 谷ふかき●に入 鹿かのを こゝかしとたづさがし出す
   もみぢ紅葉たる おじ男鹿かののや しゆすりほう

※ 「ふしど」は、臥し所。寝る所。

鹿かは うろたへて しらをめぐりるきけるを み てつ鉄砲ぽう りなどにて 引つめさしつめ あるひは だきとめ のが 手がら/\に しとめける
   狩人や 鹿せぎに追つく ひんぼなし

※ 「かせぎ」は、鹿の古名。
※ 「ひんぼ」は、牝牡ひんぼ(動物のめすとおす)でしょうか。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

かしも今も いな田舎まひは なものにて ひん貧福ぷくを らそわず な さにて やね屋根く う/\のるの雨にも ぶりさまする事なし づか也 たもてる事 年久 みちをたて くものあらざれば あるひは おや親子こ ごなど より合 くとなり

かぢし鍛冶師は ねをたふに さ七つよりきてとむ るは ねをたうに よろしからず あい相槌づちに上手下手あり このとを ほどひや拍子うしわするといふなり 本朝のるぎのはじまり 此かぢし鍛冶師よりこれり


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

さるしゆ出家つけ 佛師をたのみ とけをつらゆるとて まづ しや釈迦かは しゆ衆生じやうを●くわせらるゝ

故に くりくわん観音をんは 二世のがひをかなへ給ふ 故に びしや毘沙門もんは くをあたへ給ふ 故に くりたきし つらへければ 佛師は こざかしきものにて いかにも ぞみにかまつらん

さて 御出家は 生国しやうこくはいづかたにて 若年じやくねんより みを御おろし候やと ふさればこそ 愚僧ぐそうかき時は 中間ほう奉公かういたしたるが いつぞのほどに みをり か様の姿がたに 成たるといふて
   大とけ たまをりて 又とけ
    これぞ 二ぶつの ちう中間げんのはて

※ 「中間ほうこう」は、中間奉公。ここでの中間は、公家や寺院などに召使われた男性のこと。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

とし年寄よりたるひもの檜物屋ふようは 板をへぐに大事あり やうやく このぼへたりといふ

前銫へかんなを使かひしのゝふやうは それより んなに大事ありといへば

板べきらをたてゝふ様は 大事があらば そのほうの とがいをづりくにせよ とふて てける

りの上手をもの物師しとふて へ/\たに ゝゑさせ給ふ 正月めとて あまたのぬをとり出し ものをつに け取て これをふ わいとてかづきなど 出ければ りの女房よみける
   めや りのはし●の 御ろこび

※ 「ものし」は、物師、物仕。 裁縫で仕える女性の奉公人のこと。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

あるこんや紺屋 しやう ● あか びやく こくに め●け ゑようも●うも ぞみにまかせ あるひは 女 うにらせ れは手づから うわ上絵ゑなどきけるが 日●やさしきものにて はい俳諧かいをきける のがによせて
   はしたむきに むるもよ模様うや がり

れも へるは ら百んあれば とも共過すぎといへども この頃は とりわけ きないもなければぎられぬといへば 今ひとりのき人も れらもそのほりのたふ ばなるつけ付木ぎとり ちかへりて ふやうは
  とし年寄よれば きないのはかきかぬ ゆへじや/\

※ 「ともすぎ」は、共過ぎ。人々が互いに助け合って生きていくこと。


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

かなきなるほう法師し き人をび つほをうに めさゝこなひ るしといへば さらば 手にかけ おろしてごらんと いひもあへず ほう包丁てうをするぜひ是非におよばず りて ぢわふに しだ次第いに う身かく成て ことの外ふたり

ふう夫婦ち いりしける ことのほかなる つさゆへ 木かげへ立寄と ゞみけるが たりをみれば りをきないし とし年寄よりあり いとりて そのまゝて かぶりければ
   丸いは まい かじやまて すじまくは筋真桑瓜


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

よも四方の花 今をかりと 世上すでに ときめく頃なれば いさや花を見に行ばやとて 友としたるか衆の大ぜ大勢もない かなたこなたの花をみて
一人のか衆
  くや 二三度ばかり 米桜
又いわく
  りほどな 枝にもくや と桜

※ 「米桜」は、バラ科の落葉低木 しじみばな(蜆花)の別名。
※ 「糸桜」は、しだれ桜の別名。

たびてういは 風ふきのりもち也 ことの外くたびれて 共をづし とにがりける さけ酒売うり けまいれとびければ さらばまんと てひ手引けけるが
  一いの けにひぬる 山道は
   風をそふて たまぶら/\


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

の中のいのふたつは そのざにたがふ成ものならじ むかし 遊女のはじめは ゑぐ江口かん神崎ざき ひや兵庫うご もろ唐土こしにも 江のほとりにあるものなれば ながれの女といふ成べし ふ人も よころばしきもの也 それよりこのかた この道をたつる女のまたあり

ろう老若にやくゝろかれて かれがもとへよひて がひのこと言葉ばをぶる 一夜のさけに ちよ千代をこむるなるべし よへるみに うらみをはらし有 ときは心をつくし れん恋慕ぼのしん辛苦くに しなふのあり ゝしむべき事なり


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし』

おかしきものは う人のけん喧嘩くわなり りん隣郷ごうの百し百姓やうと さい賽目めをんじて がひにひつのりて すでに わを捨て くみつき こぶしをぎりてはり張合あふ そう双方ほうの百し百姓やう出合 ひたはりにはりけるが そのまに ん人は げにける


りん隣郷ごうののは みな/\ げたり 田のくろに居て見れるに みか味方たどちり合けるが 後は 我がやをつ子もあり にをとゝ有 ついには なにのいし意趣ゆもなくして へりける

※ 「くろ」は、土を盛り上げた田畑の境のこと。あぜあぜ


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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

めいは●によつて かろき物なり ぶらひのちは 三徳をもつて こうゆうのまじはりと成 ほう奉公こう人 こしの事を云つのりて がひにたさんとふて 出合ける 壱人は 日比二刀にとうの上手なれば 馬上にて 二刀をいて たゝかふ しばし勝負しやうぶはみえざりけり

あるふらひ 一人はりをたり 一人は兵法ひやうほうの上手なれば がひに論じて いし意趣ゆとなり 出合しあひけるが りをとされ からよばず 馬につて 逃げきける こそ あはれなり

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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし』

のちはによつてろし もの武士ゝふの道は んとうと この三くをもつて こうゆうのまじわりとす 道をそむけば がひにんじて いばをぎりてゝかふ あるひは 人のやをてば その子またやのたきをとる

ついに そのいし意趣ゆ へのに これこそ げん現在ざいにて しゆ修羅らのるしみをくるなり

  もの武士ゝふは のが道とはひながら
    るにられぬ 道をるかな

  つも太刀 たぬもまた いばにて
    いかにるしき 後のぞかし

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出典:国立国会図書館デジタルコレクション『大和侍農絵づくし

大和やまと侍農しのうづくし

此 菱川ひしかわうぢの絵師 もとは房州ぼうしうにありて家業かげうあり しかとはいえど 若年よりこの道をすけり 言をたくみ 心をつくして 侍農しのふをわけて それ/\のたちをく 筆をこぶしにぎつて 弓とりを紙につし みをくませ/\ 土民のげみをけり つとき やしきづの 男のかち その所へ至らずして ●に見るこらちのみありて おもしろく書れたり 作● たらく事 の人にはぐれたり この頃 やまと絵師の聞え 四方にげて 時めくるれば それをほうびして 此絵を一きとなして 稽古けいこせん人の 絵のなぐさみにといふのみ 

つの国それす いたの住 闇計あんけ じよす



筆者注 ●は解読できなかった文字を意味しています。
新しく解読できた文字、誤字・誤読、読み解きの違いなどに気がついたときは適宜更新します。詳しくは「自己紹介/免責事項」をお読みください。📖