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パブリックリレーションズの「パブリック」って誰だ?社長vs広報の社内議論が始まった

株式会社Flucleのインハウスライター、ときどき広報の本田です。

今回は「社長と広報担当の、PRに関する認識のズレ」と、社内議論の内容について書いておこうと思います。

広報担当として、経営者の「パブリックリレーションズっていうけどさ、パブリックって誰を指してて、プレスリリースは誰宛に配信すんの?それって儲かるの?」という問いに向き合ってみました。

ちなみに決着はついていません。

この「認識のズレ」は、経営者が広報マンでない限り、どの会社にも存在するものかと思います。共感もしくは、思考のきっかけにしていただければ幸いです。

とても小さな会社でも起こり得る、情報共有漏れ

先日、本田は開発チームとCSチームのチャットの中で、「新サービスのβ版を顧客にメルマガで周知する」ということを知りました。周知の直前に。

すべての計画や進捗を知っておきたいとは思いません。しかし広報として「外に出すか出さないかはさておき、社外向けのリリース事項は私にも共有してくれ…」「その情報、プレスリリースにしなくていいの…?」と思うわけです。

各自がスピードを持って各自の業務にあたる、稟議や忖度が発生しないベンチャーといえば聞こえはよいでしょうが…。こんな小さな会社で「この情報は広報担当に連携しておいたほうがいいのでは?」という共通認識がない状態はまずいな、と反省しつつ。

それをチャットで送ったことが、今回の議論の発端です。

プレスリリースに対する、社長の意見

プレスリリース送らんでいいの?という広報の問いに対しての、社長からの返信を要約すると、こうなります。

・現時点でβ版としてプレスリリース出す目的は問い合わせ?
・試作で顧客が増えても対応できないので、問い合わせ増加の施策はいらないかなーと思う。
・それとも、もうちょい長期的な目的がある?

広報仲間に「社長にこういわれたんだけど、どう返すべき…?」と泣きながら聞いて回りたい脱力感に襲われ…ませんか?

プレスリリースに割く時間は、無駄なのか

確かにプレスリリースの配信は、そこそこ時間がかかります。情報収集、ファクトチェック、文章作成、配信サービスへの登録、配信後の問い合わせ対応、自社サイトへの掲載、社内保管…特に今回のケースは急ですから、かかりっきりでも前後1日、計2日は欲しい。

社長:2日間を使ってまで配信すべき?タスク抱えてるんじゃない?

広報:そうですね。ただし数週間前からリリース準備を始められていたら、2日間かかりっきりにはなりません。

モヤモヤしか残りませんが、今回の議論についてはきちんとした社内解決が必要です。この問いにきちんと向き合っておかないと、今後私がどんなに広報活動を行っても、「メディアに出たら売れたね!」という評価軸でしか判断されないことになってしまいます。それは困るし、大変だ。

顔を合わせての議論開始

結果、今回の議論の発端となったβ版は、諸事情を加味してプレスリリース配信を見送ることにしました。それは私も納得。

そして翌日から、社長との「広報について」の議論が始まりました。文字ベースではなく、ちゃんとオフィスで顔を合わせて。

社長:まだ開発途中の試作品で、プレスリリース出す必要はあるのか
広報:β版であっても、自社の活動を社会に知ってもらう意義はある

社長:SNSやメルマガで送ったらいいのでは?
広報:プレスリリースは唯一の公的情報、マーケ施策とはまったく違う

社長:うちの情報を公的に出すメリットは?
広報:だから社会に対して、活動を周知…(堂々巡り)

社長:社会って誰?
広報:主にステークホルダー、たとえば金融機関、VC、取引先…

社長:銀行もVCも個人的につながってるよ?公的情報いる?
広報:だから…

ここまで30分の押し問答。しかし分かってきたのは、双方の「社会の定義」が合致しない限り、議論は進まないということです。

PRで獲得すべきは、社会と公衆の理解と支持

PRとは「パブリック・リレーションズ」の略。広告宣伝とは違い、組織が、組織を取り巻く個人や集団と望ましい関係を築くための、考え方と行動を指しています。

以下もろもろ、こちらの記事を参考にさせていただきました。
公益社団法人日本パブリックリレーションズ協会「パブリックリレーションズとは」

PRで獲得すべきは、社会と公衆の理解と支持です。売り上げではありません。

まず企業の存在を示す。そしてあらゆる表現手段を使い、継続的にコミュニケーションを取る。

この活動のどこに疑問を挟む余地があるのか、広報視点では不思議極まりないのです。企業活動が社会活動の一環である以上、日本のルールに則って組織を形成し、法人税を納め、ユーザーから料金をいただき存続している以上、パブリック・リレーションズによるコミュニケーションは必須であると、広報担当者は考えるはずです。

プレスリリースに効果効能を求めていいのか

社会とのコミュニケーションを継続する上で、口コミでもSNS発信でもない、唯一の公的発信手段がプレスリリースです。

社長:プレスリリースは何人が見て、どういう結果につながる?
広報:PRで行うコミュニケーションに、初めから見返りを求めてはいけない

社長:どうして?結局メディア掲載を狙うのだから、見返りはある
広報:それは副次的なもの。プレスリリースの内容が、掲載の可能性で左右されるのは問題。

社長「プレスリリース出せばメディアに掲載されて売り上げが上がる」という分かりやすい構造なら疑問を抱かないが、スタートが「営業を目的にしてはいけない」という文脈だからめちゃくちゃ違和感がある。

ここは確かに、と思いました。私もプレスリリースを出す以上、あわよくばメディアに掲載されたいとは思っています。近年は「経営戦略としての広報」などという考え方も提唱されており、そこも無視できません。

しかしやはり、プレスリリースは「公的発信手段」。初めから効果効能を狙うのは間違っています。「効果が期待できるからプレスリリースを配信しよう」「これはやめておこう」という判断軸のみでPRが行われるようになれば、企業に都合のよい内容だけが、社会に流れてしまいます。

それではまるで
「上司に褒められる業務だけを選び、上を見て仕事をする会社員」
「合コンで成果を出すテクニックを駆使する、生活感を隠した女」

ではないですか。

そうではなく、「私たちは社会経済の基盤の上で、このような活動しています」という正直な定期報告で、企業実態を届け続けなくてはいけません。たとえ、ネガティブなことであっても。

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(議論のために本田が書き殴ったホワイトボード。即興なのでマトリクスの粗さと字の汚さは見逃してください)

社会は社会、答えは出ない

バシッと「パブリックリレーションズにおける社会とは、これを指す!」と突き付けられたらスッキリするのでしょうが、まだ答えは出ていません。私の中では何度考えてもやっぱり「社会は社会」です。

ターゲットを絞らないからこその、パブリックリレーションズだからです。

何度も書きますが、プレスリリースは営業活動ではなく、会社の存在と活動をその「社会」に明示する、唯一の公的手段です。

広報:最後に出したプレスリリースは4月。事業を社会に向けてオフィシャルに発表しておらず、これは長期的な目で見るととてももったいない

社長:
誰が見て、誰が見なくて、もったいないが生まれる?

広報:ユーザーが直接プレスリリースを見ることは想定していないが、同業他社の目、業界の競争力という面でも、何らかの事業活動を発表し、世に存在を示しておく必要はある

社長:競争力という言葉が出た。やはり利益を意識しているのではないか

言葉遊びのようになりますが、ここは大切な問いだと思います。メディアも事業存続のため、よいサービスを取り上げ、企業側に知名度として利益を提供します。報道機関だって経済活動を行う「社会」の一員ですから、活動の行き着く先にキャッシュがあって当然ですし。

しかし、道理で、プレスリリースが営業用ビラと同じ扱いを受けがちになるはずです。

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だから経営者と広報は対立する

「社会」に続き、「競争力」にも、社長と広報のイメージ相違を感じました。

経営者にとっての「競争力」はたとえば他社との業績、企業価値、VCからの評価、株価など、データとして目に見えるものなのかもしれません。

しかし広報担当者にとっての「競争力」は、データには表れません。何となく聞いたことがある、よく知らないけどよいイメージ、いつか欲しいな…。とプラスの認知をしてもらうこと。さらに「サービスは必要ないけど、この会社は信頼できそう」と、社会を支える数多の人々に感じてもらえていること。これが広報の思う「競争力の高い状態」です。

「社会」も同様です。「誰」ではありません。道行くビジネスマン、インフラ、税金、医療…生活基盤を支えてくれる人や仕組み、これから社会に出る学生たち、ひいては未来に生まれてくる子どもたち…出窓に座る猫や、公園の木々までをひっくるめた、脆さも危うさもあるけど、あたたかく、信頼し合えることを願いつつ、1秒1秒を積み重ねていく、2020年を生きるすべての人・生命が存在している「社会」。

概念でもあり実態でもある、自分が数十年の命を預けている「社会」に限定的な名前を付けたり、利益や成果や数字で測ることは、私はできません。

書いてみて、はっきり分かりました。
経営者と広報は、そりゃあ対立するわけです。

PMFの達成だけでは、会社は成り立たないと思う

会社の代表には、利益、数字、成果にこだわり、会社の存続に命をかけてもらわないと困るし、上記の概念に完全賛同し、同じ行動をしてもらう必要はないと思っています。

ただ全社をあげてPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を目指している現状だからこそ、「社会に向け、広報的な視点で活動報告をしましょう」という、社内への訴えをやめるわけにはいきません。

企業活動には、応援者が必要なのです。
プロダクトだけが、マーケットにフィットしてもダメだから。

プレスリリース配信をはじめとする広報活動は、社会とつなぐ、見えないパイプ。いつか必ず役に立ちます。

会社がピンチに陥ったとき、「ふふふ…こんなこともあろうか」と救世主のように振る舞うためにも、広報活動を地味に継続していきます。私の座右の銘は、「継続はチカラなり」。意外としぶといですよ。

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