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独りを歌う鯨

自分だけの言葉、誰とも共有しない
自分だけの言葉があなたにはありますか?

それは歌、あるいは一遍の詩
見る予定では無かった夢、
手帳の走り書きかもしれません。

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独りで暮らす鯨の話を
聞いたことはありますか?

鯨は鯨同士、言葉を持ち、
会話する生き物ですが、
彼だけは、違う言葉を持っているのです。

他の鯨が10〜40㎐で鳴くのに対し
彼だけは52㎐で鳴くのです。

科学者たちは彼に「52㎐の鯨」
と名付け、彼を探しましたが
未だに誰もその姿を見たことは
無いと言います。

彼は他の誰にも伝わる事のない
彼だけの言葉を話すのです。

科学者たちは彼を
「世界で最も孤独な鯨」
だと言いました。

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誰にも伝わる事のない言葉、
それは彼を孤独にしたのでしょうか?

外の世界からは何も入ってこない
誰も知らない彼の世界。

彼は深海で、彼だけの言葉で
歌いながら世界を旅するのです。

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孤独を感じるには他者が必要です。
生まれた時から高い塔に
独りきりで暮らせば、孤独という
概念は生まれないでしょう。

例えばそこで
群れで暮らす穏やかな鳥達
愛や道徳を伝える童話
ひしめき合って眠る星達を目にしたら
初めて、自分が独りであると
気がつくかもしれませんね。

私は、完璧な孤独とは、孤独感を
伴わないと信じています。

私達のような、本当は世界で一番優しく
身勝手で愚かな人間という生き物が、
完璧な孤独になる事は、不可能でしょうね。

私のこの愛しく憎らしい孤独も
他者によって完成するのです。

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気が向けばよそ行きの靴を履き、
誰かの作った家や
季節が腰をかける並木道
私達を許してくれる田畑を眺め、
琴線がゆったりと動くのを
感じるのは心地の良いものです。

私はこうして、私の世界の
均衡を保つのです。
孤独を愛でるからと言って、他者を
嫌うわけではありませんからね。

私の思想も、発想も、感性も
全ては他者からやって来たものです。

それは母や父、数少ない友人から。
あるいは本の中、遠い記憶に暮らす
偉大な先人達からやって来ます。

私が私を愛する事は、私の中に
やって来た他者をも愛するという事。

私が選び、私の中にお招きした
素晴らしい誰かの思想を
愛するという事なのです。

私は時折、私と仲違いをします。
そんな時私は、他者が作った言葉や
思想、知恵の力を貸りて
失くした私を見つけ出すのです。

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言葉を誰かに程よく届けること。
それは自由な猫でも、雄大な海でも
愛して止まない恋人や家族でも
気の長い日記帳や、電波の海でも
構わないのです。

孤独と仲良く暮らすには
孤独に疲れすぎてはいけません。

力を抜いて寝そべり、おへその下の
あなたのわがままを、程よく
叶えてあげてくださいね。

孤独を教えてくれる鯨や、外の世界を
時々思い出すために、部屋の扉を
開けるのも悪くありません。










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