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2020年から「未来」を空想する【Möbius Open Library Report Vol.11】

東京学芸大学のMöbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)では「図書館と知の未来」を考える活動を行っています。今年は「未来」を考える機会の多い年でした。

課題解決型の発想では「未来」を切り拓く力が得られない

図書館業界には、毎年11月に「図書館総合展」という展示会があります。図書館運営者・関連業界が集い、読書・学習環境についての最新技術と知見を交換しあう、お祭りのようなイベントです。例年はパシフィコ横浜で3日間開催されるのですが、今年はオンライン開催となりました。さらに今年は2020年ということもあって、「未来」を銘打ったワークショップが多かったことが特徴です。私(ななたん)もいくつかに参加しました。

2020年から2050年へ「図書館」(仮称)をリ・デザインする!
 2020年11月3日 「図書館」(仮称)リ・デザイン会議
学習者の視点から考える10年後の図書館
 2020年11月8日 丸善雄松堂株式会社主催 
図書館と知の循環~これからの学びのなかで学校図書館が担うもの~
 2020年11月14日 ポプラ社主催 

全国の様々な館種の様々な年代の図書館職員と意見交換したのですが、「未来」を考えるときには「現在」から出発すると、どうしても現状の困難・不満に囚われてしまうことに気がつきました。予算がない、人が足りない、ICT環境が整わない、周囲の理解が得られない、といった課題をあげて解決策を議論しようとすると、「未来」の話をしているはずなのに全くワクワクしないのです。
逆に、生産的な議論ができた丸善雄松堂主催ワークショップでは、先に「未来」の姿を想像し、そこから現在にさかのぼって考えるバックキャスティングという手法が使われていました。10年後には、朝読書ルームに来てくれた子供たちが大学生になっていて、一人一台端末で学んだ「GIGAスクール世代」と呼ばれるに違いないと想像すると、彼ら彼女らのために提供したい「大学図書館」の姿を思い描くことになり、楽しくなりました。この日のアウトプットはウェブで公開されています。
とはいえ、10年後くらいの「未来」だと想像する範囲が現状の延長線上にあるので、突飛なアイデアはでてきません。そこで、ポプラ社主催フォーラムでは「もっと、ぶっ飛んだ「未来」を考えてみたい」と発言しました。

空想から「未来」を創造する力が重要になる

実のところ、MOLの活動でも今年は「未来」というテーマが常に意識されていました。ケンケンは、未来を考えるときに、今ある技術で実現可能な未来(ユーズドテクノロジー・フィクション)と5~10年で社会実装されるであろう近い未来(テクノロジー・フィクション)ともっと先の遠い未来(サイエンス・フィクション)を分けて考える3つのフィクションを提唱しています。時間軸をグーっと先にもっていくと、現状に囚われることなく「未来」が想像できるのかもしれません。
心理学者ヴィゴツキーは創造活動の基礎にある心理過程を想像や空想と呼んでいます。空想という言葉からは非現実的で意味のないものを考えがちですが、想像力はあらゆる創造活動の基礎として文化生活のあらゆる場面に姿をあらわし、芸術的な創造、科学的な創造、技術的な創造を可能にしています。過去の知識や経験を保持し再現する再生的な活動と違って、創造的な活動こそが、人間が未来を向いて、未来をつくりだし、自らの現状を変える、というのです。
MOLでは、発想を飛躍させるために、夏休み前の7月18日に朝読書ルームに来てくれた子供たちと「未来」を空想し・創作するための企画会議を実施したことを思い出しました。子供たちの想像はあちこちに拡散しまくり、形ある企画としては成立しませんでしたが、MOLのコンセプトの中でも「創出」に着目し、なるべく「遠い未来」に思いをはせる活動を考えていきたいです。

「STUフィクションと未来:3つのフィクション」 / 新城健一
https://comemo.nikkei.com/n/n156c6b78c915
・子どもの想像力と創造 / ヴィゴツキー著 ; 広瀬信雄訳 ; 福井研介注. -- 新訳版. -- 東京 : 新読書社 , 2002.7. -- ISBN 4788041138 https://ci.nii.ac.jp/ncid/BA58290974

2020年の活動ふりかえり

さて、2020年を振り返ると、MOLは結成から半年でコロナ禍に直面し、しかし、だからこそ、オンラインで積極的に活動した年でした。ユーズドテクノロジーを利用して、素早くスモールスタートを目指した結果、オンライン朝読書ルーム(MOLレポ vol.4, vol.5, vol.9)やデジタル書架ギャラリー(MOLレポ vol.8)が生まれました。中でも、デジタル書架ギャラリーは反響が大きく、いくつかの賞をいただきました。ありがとうございました。図書館臨時休館中のメンバーとのブレスト、ヨコの地道な作業とフジムーの3D制作のおかげだと思います。
小さな足がかりを得た2020年から「未来」へ。2021年も「未来」に向かってアクセルを踏んでいきたいです。(文責:ななたん)

◆LODチャレンジ2020 教育LOD賞
 プレスリリース https://2020.lodc.jp/awardPressRelease2020.html
 授賞作品:デジタル書架LOD

電子出版アワード2020(日本電子出版協会)  エクセレント・サービス賞
 プレスリリース https://www.jepa.or.jp/pressrelease/20200124/
 授賞作品:学芸大デジタル書架ギャラリー 
 スピーチ映像:https://www.youtube.com/watch?v=a_wHRblwD6Q 

【これまでのMOL Report】
No.1 Explaygroundと図書館の出会い
No.2 PechaKucha from 3 Booksに至る道のり
No.3 PechaKucha from 3 Booksという「遊び」
No.4 「朝読書ルーム」オンラインに図書館的な読書空間を作る試み
No.5 「朝読書ルーム」ふたたび
No.6 知の創出・発信を試行錯誤する
No.7 MOLの活動はコロナによってどう変化したのか
No.8 デジタル書架ギャラリー 図書館のブラウジング体験をオンラインに
No.9 詩をよむ日
No.10 図書館の検索とブラウジングを考える

【Explayground URL】 https://explayground.com/


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