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「朝読書ルーム」~オンラインに図書館的な読書空間を作る試み【Moebius Open Library Report Vol.4】

Möbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)では、学校が臨時休校となり、図書館も臨時休館になったことを受けて、オンラインで緩く繋がりながら読書する「朝読書ルーム」という企画を実施しました。図書館と知の未来を考えるために、読書空間をオンラインにのせてみる試みです。

朝読書ルームとは

「朝読書」は、毎朝の決まった時間に10分程度、各人が静かに読書をする時間のことです。読む本は自由で、ただ読むだけの時間ですが、読書を習慣づけ、始業時間前に学習に入る心の準備にもなることから、多くの学校で取り入れられています。社会人でも朝30分程度の「朝読書」をしたり、通勤時間に本を読む習慣のある人もいるのではないでしょうか。ところが、2020年の春、子供たちの学校が臨時休校となり、大学も遠隔授業を行うことになり、さらには大人も在宅勤務になって、今までの生活が一変しました。読書の習慣が保てなくなってしまったという声も聴かれました。そこで、考えついたのがオンラインで行う「朝読書ルーム」です。

具体的には、テレビ会議システムZoomを利用し、お申し込みのあった方が「朝読書ルーム」にアクセスしてきます。そして、ただ思い思いに読書するだけです。8時20分~50分を「静かに読書をする時間」とし、目安として20分、30分、50分にチャイムをならしました。9時~10時は参加者同士で「会話可能の時間」ということで、そのままルームを開けておきます。何となく近くに人がいるという図書館のような、教室のようなオンラインの居場所です。狙いとしては、子供たちは学校に行っている時と同じように「朝読書」をして、読書習慣を継続する。大学生も生活リズムを整え、来るべき遠隔授業の開始に向けて、朝読書の後に教材をダウンロードして学修にとりかかる習慣をつくる。社会人も在宅ワークで通勤時間がなくなった分を始業前の読書時間に充てられるとよいと考えました。

朝読書ルームの様子

「朝読書ルーム」は4月20日から30日までの平日朝8時~10時に開催しました。初日こそ関係者だけでしたが、学校から周知をしてもらった2日目以降は、子供たちが続々とルームに入ってきて、連日30~40名の方が出入りしていたと思います。開始時間から最後までずっと参加してくれる子供もいて、運営者としてはとても嬉しい賑わいでした。

screenshot.A.ぼかし例

screenshot.B.ぼかし例

「静かに読書をする時間」は、特に細かいルールは設けずに読書をするだけですが、朝読書ルームで読んだ本をチャットに書くことだけを参加者にお願いしました。毎日、同じ本を少しづつ読み進めている人、一日に何冊も読んでいる人、読み方は人それぞれです。他の参加者の読んでいる本を参考にしながら、次に読む本を選んでいる人もいたようです。チャットに感想を寄せてくれた人もいますので、いくつか紹介します。

エルマーとブルーベリーパイを読みました。 一生懸命頑張ると思いが通じて願いが叶うというお話しでした。面白くてすぐ読み終わりました。 
・つちだよしはる作の「いつもなかよし」をよみました。びょうきのおじいちゃんのために、みんながんばってえらいなと、おもいました。 
・きょうは、こぶたのぶーぷはれときどきぶたをよみました。どっちもおもしろかったです!
プータンいまなんじ?を読みました。2時に部屋中シャボン玉になったところが面白かったです。
・地球のふしぎ なぜ?どうして?を読みました。地球の不思議についてよくわかる本です。自由研究のおすすめも載っています。今の時期にちょうどいい本です。是非読んでみてください。
 ・生き物の死にざまという本を読みました。生き物の自分たちとは違う世界が知れておもしろかったです。特に昆虫はすぐに死んでしまうけれど、親が卵を守りながら死んでいくというのが心に残りました。
あるかしら書店という本をを読みました。色々なユニークな本が紹介してあったので面白かったです。是非読んでみてください。
ドリトル先生と月からの使いを読みました。まだ半分くらいですが、虫がたくさんでてくるのがおもしろいです。
弱いロボットの思考という本を読んでいます。中学受験で出るような論説文です。人間が何もしなくていいようなロボットは人間にとって本当にいいのか、考えさせられます。是非読んでみてください。
ハリー・ポッターと炎のゴブレットという本を読んでみました。いつものハリー・ポッターシリーズでは冒険や普通の生活が多いのですが,今回のは初めての(?)ホラー系だと友達が言っていたので楽しみです。 
『みえる詩(し)あそぶ詩(し)きこえる詩(し)』はせみつこ編 冨山房61編の詩がのっています。わたしは谷川俊太郎の「わたし」という詩が好きです。
『専門家の知恵』ドナルドショーンを読みました。“専門家って、何なのか。今日は一日考えたいと思います。
・落合陽一『デジタルネイチャー 生態系を為す汎神化した計算機による侘と寂』を読みました。機械と人間の関係の話です。機械を「人工物」ではなく「自然」ととらえるのが新しいなと思いました。
・引き続き「蜜蜂と遠雷」を読んでいます。ピアニストたちがコンクールに臨むお話です。ピアニストたちの努力や苦労、戦略や、コンテストに携わる人々のそれらも丁寧に描かれて面白いです。今日、心に残ったフレーズは「審査員は審査するほうでありながら審査されている」でした。
・おうちに読む本がなかったので、ネットで読める本を探しました。「蟹工船」を読みました。高校生の時に、日本史で単語としてはならったけど読むのは初めてです。良い機会になりました。また続きを読んでいきます。 
「楽隊のうさぎ」を読み終わりました。一つのものを作り上げていくときの高揚感が味わえました。センター試験の大問で出題されていたので気になっており、読むことができてよかったです。 
・朝読書ルームのおかげで、「みかづき」をかなり読み進めることができました。

「会話可能の時間」は子供たちが主役です。友達を見つけて、宿題やってる?とか、何の本を読んでるの?とか、休校中に友達と会えるのを喜んでくれているようでした。自分が読んでいる本やお薦めの本、おもしろかった動画教材を友達に紹介している子供もいました。学校が用意した場所ではなく、「朝読書ルーム」という場所だからこその他愛のないおしゃべりも楽しんでいたようです。休校中ならではの企画として、喜んでいただけたのではないでしょうか。

【事後アンケートから】
・学校のお友達も、何人か参加していたので、久しぶりに顔を見れたり、プライベートチャットで朝のあいさつを送ったり出来たのが嬉しかったです。
・友達にあえる!!という感覚で参加させて頂きました。新一年生のため、まだ、入学式もやって無い、友達にも会えない、学校にも行っていない状態で小学生になった実感が全く無かったのですが、高学年のお兄さんやお姉さん達もいて、とても良い刺激になりました。 
・休校で家にいる子供達には、友達の顔が見えることは相当な癒しになったと思います。子どもたちだけでなく、外出自粛している大人である私にも癒しになりました。 
・ひとり暮らしでさみしかったので、リアルタイムに人の顔を見ながら過ごせて嬉しかった。

参加者からの評価

「朝読書ルーム」に参加登録をされた方は、最終的に225名でした。それぞれの属性は次のとおりです。小学生が約半数を占めており、中でも附属小金井小学校から多数ご参加いただきました。

属性別


実施後、事後アンケートをお願いし、80名の方から回答をいただきました。静かに本を読む時間の評価が高かったのに対して、会話可能な時間の評価はそれほどでもなく、課題点を指摘する意見もいただきました。また、参加者本人だけではなく、保護者の方からのコメントが多かったのが特徴です。画面に映っていない保護者の皆さんが子供たちの「朝読書ルーム」の参加を支えておられることを実感するとともに、意見を汲み取るよい機会にもなりました。

参加者評価

【事後アンケートから】
・側から見たら、1人の読書と変わらない様子なのに、楽しみすぎて毎回早くからスタンバイしていました。顔が見える安心感なのでしょうか、ありがたかったです。 
・娘はもともと本が好きですが、チャイムが鳴ったり、お友達と時間を共有する事で集中力も違うように感じました 
・生活リズムが整い、親子でそれぞれに読書を楽しむことができました。 ・最近ようやく文を読めるようになったという感じで、読書を習慣化させるのにはまだまだ時間がかかりそうなのですが、今回参加をさせて頂き知り合いのお友だちや同世代くらいの子が読書をしている姿を見れたことで、同じようにやってみようと静かに読み込む姿が度々みられました。 
・皆さんが読まれている書籍や感想を投稿するチャットが良かったです。
・学校に通えない状況の中、参加された皆さんと読書を通じて一時を共有でき、生活に張りがでたように感じています。終了後も、身についた朝読書の習慣を続けたいと思います。
・学校が長い休校で、生活のリズムが崩れがちでしたが、朝読書のある日はきちんと早起きが出来ました。
 ・9時からカフェのようなおしゃべりOKな時間もあり嬉しかったです。集中して読書に取り組めるのは、やはりマイクを消したときでした。
・読書自体は少し気が散っていましたが、他の人と時間が共有できる場は、大変貴重だと感じました。

朝読書ルームの意義

「朝読書ルーム」を考案した私(ななたん)は、大学の図書館員です。東京学芸大学の図書館も4月9日から臨時休館となり、本の貸出のサービスを停止せざるを得なくなりました。もちろん、電子ジャーナルや電子ブックをオンラインで提供することはできますので、東京学芸大学附属図書館では「在宅で利用できる図書館サービス」というページを作成してウェブサイトで資料を提供しています。このページを検討する過程で、図書館が単純にオンライン上で資料を提供するだけではなく、図書館が持っている様々な機能をどのようにオンラインにのせるのかということを考え始めました。MOLのメンバーのミーティングでも、図書館で隣で誰かが勉強していると自分も集中できるとか、いろいろなエリアがある中でも好きな居場所がある、という声があったことから、「開かれた場所」としての図書館の機能をオンライン上に作ってみたいと思いました。Zoomの背景画像用に図書館内の写真があるとよいかもというメンバーのアイデアも取り込んで、「朝読書ルーム」開設にあわせて、館内写真も提供してみました。
結果としては、ある程度、図書館的な読書空間が実現できたと考えています。「朝読書ルーム」に来てくれた人たちは、小学生も大学生も大人も混ざっていて、友達もいれば、知らない人もいます。ただ、毎日、来てくれている常連さんもいて、「知らない人なんだけど、いつものあの人だ」という図書館的な空間になっていたようでした。カメラを通して見えてくる、静かに本を読むときの真剣な表情が、学習空間としての雰囲気を作り上げていました。アンケートでも図書館的な空間を評価していただいた意見もありました。

【事後アンケートから】
・バーチャルってすごいなと改めて思う事ができました。と言うのも、最初は他の方の映像が出ていても???でしたが、自分も映ることによって一体感が生まれた気がします。
・毎回参加している人のニックネームが次の時にもあると、実際に会ったこと事はないのに嬉しい気持ちになれたことが印象に残りました。
・本に没入する空間が共有されていて、読書時間の確保に有効だと思いました。
・読書は、一人でも行えますが、誰かに見られ、読まなければならない状況ですので、本人も刺激になったと思います。
・自宅にいながら図書館にいるような気持ちで読書できるのがとても新鮮で良いと思います。
・静かに座って本を読むのだということを意識し、ステイホームにおいても図書館にいるような空間となりました。

さて、「朝読書ルーム」は4月30日までで終了しました。運営面での振り返りもしておきます。アイデア段階では、テレビ会議システムを準備して、広報して、申し込みを受け付けて、URLをお知らせするだけだから、簡単にできそうだと思い、着想から10日でサービスインしました。イベント的な仕掛けを考えない、ただ本を読んでいるだけの脱力モード企画として始めたのですが、大学の公式ルートで周知してもらったり、毎日リマインドメールを送ったり、参加してくださる方に楽しんでもらおうとチャットのまとめを作ったりと、運営にはそれなりに準備や裏方仕事がありました。でも、こういう大変な時だからこそ、自分がやりたいことを好きにやる時間も必要だったと思っています。そして、何よりも、自分が考えて始めたサービスに参加して楽しんでくれる人がいた!というのが、運営者としての大きな喜びでした。
この企画をきっかけにMOLの活動に興味をもってくださった方がいたことも大きな収穫です。仲間を増やして、また次の企画に挑戦していこうと思います。(文責:ななたん)

【追記】「朝読書ルーム」は好評をいただいたので、5月も開催しました。その様子はMOLレポートvol.5で報告しています。

【これまでのMOL Report】
No.1 Explaygroundと図書館の出会い
No.2 PechaKucha from 3 Booksに至る道のり
No.3 PechaKucha from 3 Booksという「遊び」

【Explayground URL】 https://explayground.com/

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