見出し画像

PechaKucha from 3 Booksに至る道のり【Möbius Open Library Report Vol.2】

Möbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)の始動について前回レポートしました。簡単におさらいすると、MOLは図書館と知の未来を考えるプロジェクトです。「知の収集→整理→保存→提供」という図書館の活動と「知の吸収→活用→創出→発信」という学びの活動の輪がつながった「知の循環」の再構築を目指しています。今回は2度目の公開イベントPechaKucha from 3 Booksの企画に至る経緯を書きます。それは私(ななたん)の学びの軌跡でもあります。

VR体験会

MOL Vol.1の公開イベントExplayground Bar「図書館と知の未来」の後、VRと学校図書館について、もう少し知りたいと思いました。
MOL Vol.1が主に図書館員の日常とそこで考えていることを外に発信したのに対して、MOL Vol.2は逆にMistletoeメンバーが詳しい分野であるVRを体験させてもらうことにし、10月21日にケンケン、えんちゃん、ミカン、そす、私(ななたん)で開催しました。

画像1

ExplaygroundでVRラボを牽引しているえんちゃんが、Vol.1で話題になった「図書館VR」のプロトを即席で作って持ってきてくれました。画像はまだ荒いけれど、確かに書架やカウンターがあり図書館っぽい場所です。恐る恐る歩いてみます。思ったよりも動きが急で、壁にぶつかりそうになったり、VR空間の外に飛び出しそうになったりして、少し操作に慣れが必要なようでした。次に、ケンケンがプロモートしている医療VRの製品Holoeyesも体験させてもらいました。人体の中に入り、感覚的に臓器の位置を把握し、実際の手術にも活用されているそうです。CTの画像さえあれば、簡単に作成できるとのこと。実用化されたVRを実際に体験すると、これはもう新時代が間近まで来ているという感覚になります。VRでどのように世界が変わるか、スタンフォード大学の心理学の研究者が書いた本もおもしろかったのでお薦めしておきます。

VRは脳をどう変えるか? : 仮想現実の心理学 / ジェレミー・ベイレンソン著 ; 倉田幸信訳. -- 東京 : 文藝春秋 , 2018.8. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB26617878 (ISBN 9784163908847)

ちなみに、図書館のVRの先進事例も少しづつ出始めているようです。たとえば、ネバダ大学図書館ではVR技術を用いて過去を保存する取組みを行っていたり、同志社大学では図書館内での導線・視線を検証するためのVRシミュレータの研究開発が行われたりしています。図書館でどのようにVRを活用できるのか、「便利になりそうなところではなくて、ワクワクするところをVRにしたほうがよい」という、えんちゃんの言葉はとても大事なポイントだと思いました。

学校図書館見学

MOL Vol.1のイベントでは学校図書館への期待を述べられた方がいました。東京学芸大学には、高校から幼稚園まで附属学校が12校園あります。それぞれに図書室があって、相互に連携して活発に活動しています。図書館業界の中では、「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」の運用をしていることや、学校司書入門講座・応用講座を開催していることでも知られています。
ただ、実のところ、大学図書館と学校図書館は館種が違い、全く別の世界です。私は長く大学図書館に勤めていますが、学校図書館経験はありません。そこで、大学で図書館情報学を教えている前田稔先生にお願いして、附属小金井中学校の見学をさせていただくことになりました。先生は大学の授業の一環として、毎週金曜日に学生と一緒に小金井中学校で昼休みのカウンター当番を行っています。お昼休みにやってきた生徒たちは、思い思いに集まって、友達としゃべったり、タブレットをのぞき込んだりしています。初めて来た私を案内してくれる生徒もいます。一人で本を読んでいる生徒もいますし、本だけ借りてさっと帰っていく生徒もいます。カウンターで図書委員の生徒と大学生とでペアになってピッピッとバーコードを読みこんで貸出返却を行いました。にぎやかなお昼休みが終わると、今度は大学生たちが図書室でお薦め本のポップを創る活動をして、この日の授業は終了しました。大学図書館にはない強く働きかけるサービス、子供たちの休み時間がそのまま図書室にやって来たような賑やかさ、アナログとデジタルの適度な混合が印象に残った図書室でした。

画像2

次にお邪魔したのが、本学附属竹早小学校・中学校共通の図書室です。学校司書の岡島玲子さんの話を伺うことができました。10年前に赴任された当時は小学校6,500冊中学校3,500冊だった蔵書を拡充し、今では27,000冊の本が揃っています。小学校全クラスの図書の時間の授業も担当して、よみきかせやブックトークを行い、生徒たちの指導にあたっておられ、時にはアニマシオンという遊び的な要素を取り入れた読書促進活動も行っているそうです。平均で1人年間33冊の貸出があるとのことでした。また、先生方が授業で使うための本についての相談も受けておられます。「結末が二つある本」という難しい依頼を受けた時は、他の附属学校の司書の力も借りながら、『ミロとまほうのいし』と『ミロとしましまねずみ』を用意した、という話も聞かせてくれました。

画像3

この2つの図書館を見学して、大学図書館と学校図書館の大きな違いは、読書指導・読書促進の活動にあるという感想を持ちました。ちなみに、昨春に訪問した附属世田谷中学校の村上恭子さんの著書でも、カウンターで生徒一人一人と話をし、それぞれにあわせて本を提供し、学びを支える学校司書の仕事が描かれています。学校の先生が授業で使いたい本を相談にこられて準備することもあり、学校図書館は、生徒たちの居場所であるとともに、先生の授業支援の場所ともなっているようでした。

学校図書館に司書がいたら : 中学生の豊かな学びを支えるために / 村上恭子著. 東京 : 少年写真新聞社 , 2014.7. http://ci.nii.ac.jp/ncid/BB1631711X (ISBN 9784879814951)

大学図書館では、良い資料を揃え、検索しやすい環境を整えることを第一に考えていて、利用者への直接的な働きかけは情報探索の指導が中心ですが、学校図書館では司書が子供の成長にあわせて本を直接的にお薦めする、すなわち、MOLのコンセプト図で言えば、図書館の輪の「提供」の力が強いということがわかりました。

画像4

企画会議

MOL Vol.3の前、2019年11月12~14日に図書館業界で最大のイベント「第21回図書館総合展」が開催されました。館種類を問わず、3日間で約3万人の全国の図書館員たちが参加する展示会です。最先端の情報や製品に触れたり、他館の取組み事例の情報交換をしたり、様々なことを学ぶ場となっています。今回はMOLの情報収集を心掛け、それらを持ち寄って、11月26日にMOL Vol.3企画会議を開催しました。
MOLのコンセプトの中で、好きなものからつながっていく知の世界を「創出・発信」する部分に着目しようという方向性はVol.2で既に出ていました。ちょびとそすが図書館総合展で「クリエイティブ・ラーニング:これからの学びと、学校・書店・図書館の新しい役割」というフォーラムを聴いて大いに刺激を受けたこと、私もたまたま『クリエイティブ・ラーニング』という本を読んでいたことなどが重なり、幾つかのアイデアを検討することになりました。ケンケンとフジムーからも「創造力」を高める要素として「文脈づくり」という観点が提案されました。

クリエイティブ・ラーニング : 創造社会の学びと教育 = Creative learning / 井庭崇編著 ; 鈴木寛 [ほか] 著. -- 東京 : 慶應義塾大学出版会 , 2019.2. https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB27830280 (ISBN 9784766425727)

こうして生み出された企画がPechaKucha  from 3 Booksです。ランダムに選ばれた3冊の本から「新しい文脈」を創り出し、それをプレゼンテーションするというものです。普通のブックトークなら、本を自分で選んで紹介するのが常ですが、この企画は少し違っています。3冊の本はくじ引きで引いて、全くランダムに選ばれる。そして、表現方法はPechaKucha Nightというイベントで用いられる20枚のスライドを1枚20秒で話すスタイルがおもしろそうだということになりました。読書促進の活動ではなくて、創造力を高めるための活動です。実施日を決めて、この日の企画会議は終了しました。さて、この風変わりなイベントがどんな風に展開するのか、PechaKucha from 3 Booksの本番の様子は次回レポートします。(文責:ななたん)

【これまでのMOL Report】
No.1 Explaygroundと図書館の出会い


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?