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知の創出・発信を試行錯誤する【Moebius Open Library Report Vol.6】

東京学芸大学のMöbius Open Library(メビウス・オープン・ライブラリー:略称MOL)では、「遊びから生まれる学び」を創造するExplayground(エクスプレイグランド)のラボの一つとして、図書館と知の未来を考える活動を行っています。学校休校中に「朝読書ルーム」を開設したお話を前回前々回にレポートしましたが、今回は少し時間を巻き戻して、2月のイベントを振り返ります。

PechaKucha from 3 Booksのおさらい

Möbius Open Libraryの基本コンセプトは、「知の収集→整理→保存→提供」という図書館の活動と「知の吸収→活用→創出→発信」という学びの活動の輪がつながった「知の循環」です。活用・創出・発信にフォーカスしてPechaKucha from 3 Booksというイベントを企画しました。略してPKf3Bです。
PKf3Bは、クジ引きによってランダムに選ばれだ3冊の本に何らかの関連を見出し、それをPechaKucaという方式でブックトークするという「遊び」です。冬休みを挟んで本を読んだメンバーの発表会の様子は、MOLレポNo.3に書きました。
このレポートだけ読むと、とても成功したイベントのように見えますが、実はそうではありません。広報したにもかかわらず、申込者がたったの2名だったのです。学生さんたちの心を掴む企画をつくるのは難しいものです。1回目は集客という意味で完全に空回りしていたのでした。でも、そこは「おもしろい」とか「好き」とかを軸に突破口を探すのがExplaygroundです。気を取り直して、興味をもってくれそうな知り合いに声をかける作戦に変更して、2回目を実施しました。

第2ラウンドのはじまり

2020年2月5日の2ラウンド目には、何人か新規参加者がきてくれました。はじめはルール説明とくじびき大会です。前回、発表できなかったソスがお手本ということで、お正月に準備していたプレゼンを発表しました。

ソスの引いた3冊は「自治体ガバナンス」と「中等社会諸教科教育法」と「言葉の思想史」です。ここから導きだしたキーワードは「社会科」。学校で履修した社会科では、実のところ、全部範囲をカバーしていたわけではないけれども、なんとなく頭に残っている知が今の社会を生きていく力につながっているという話でした。3冊をメモを取りながら読んだというのですが、このメモが細かい。真面目なソスの人柄が出ています。人がどのように本を読んでいるのか、舞台裏が見える面白い発表でした。

自治体ガバナンス / 稲継裕昭著. -- 東京 : 放送大学教育振興会 , 2013.3. -- (放送大学大学院教材 ; 8930651-1-1311 . 社会経営科学プログラム). -- ISBN 9784595140013 ; https://ci.nii.ac.jp/ncid/BB12054030
中等社会諸教科教育法 : 社会・地理歴史・公民 / 森秀夫, 山口幸男著. -- 改訂版. -- 東京 : 学芸図書 , 2001.3. -- ISBN 4761603585 ; https://ci.nii.ac.jp/ncid/BA52233650
言葉の思想史 : 西洋近代との出会い / 山田洸著. -- [東京] : 花伝社 , 1989.4. -- 発売: 共栄書房. -- ISBN 4763402137 ; https://ci.nii.ac.jp/ncid/BN03525990

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さて、ルール説明会が終わったら、お楽しみの3冊の本のクジ引き大会にうつります。今回は児童書コーナーの本もクジに入れてみようということになったので、3冊の本はますます混沌度を深めます。ハードな研究書とかわいい絵本を抱えて、皆そのとりあわせの可笑しさをむしろ自慢しあいました。

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学びの発表の場としての図書館

ところで、この日は、ちょうど、本学の美術科が行っていた第68回東京学芸大学卒業制作展の最終日でもありました。今年は芸術館が改修工事中のためキャンパスのいろいろな場所で作品が展示され、大学図書館のエントランスの新着図書コーナーにも、A類美術科4年生の池田晴介さんの作品「暫定の集合」が展示されていました。作品は、池田さんの創作した詩とともに、通常配架されている新着図書も展示の一部となり、十進分類という体系の中に配置されています。
この日のイベントPKf3Bに先立って、プレ企画として、池田さんにギャラリートークをしていただきました。卒業制作の趣旨や背景をおききしたり、今までの作品を紹介していただいたり、興味をそそられる内容でした。池田さんにとって、今回の展示は、作品を見るという目的以外でその場を訪れた人たちに美術作品を見てもらうという点で、美術館で行う展示と大きな違いがあったそうです。「図書館に目的がある人にとって作品が目に入ることは全く意図していないことのため、素通りする人、作品を物珍しそうに見る人、立ち止まって詩を読む人など、反応は様々でした。その中でも、普段美術館に行くことがないと仰っていた方がいたことは図書館での展示する1つの意味になったと思います。」と感想を述べておられました。
大学図書館にとっても、図書館という場所を、まさに「知の創出・発信」の場として使っていただけたことは有意義だったと考えています。

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さて、Meobius Open Libraryの活動は試行錯誤の連続です。参加者が増えたことで、次回の発表会は2回にわけ、春休みをはさんだ2月20日と4月9日としました。しかし、このことは、その時には予想できなかった大きな差を生むことになります。2月20日はコロナ禍がこれほどまでに大きな影響を与える前であったのに対し、4月9日はまさに緊急事態宣言によって図書館臨時休館に追い込まれた日となったのです。同じイベントが、コロナ前、コロナ後にどのように変化したのか、このことは次回レポートしましょう。(文責:ななたん)

【これまでのMOL Report】
No.1 Explaygroundと図書館の出会い
No.2 PechaKucha from 3 Booksに至る道のり
No.3 PechaKucha from 3 Booksという「遊び」
No.4 「朝読書ルーム」オンラインに図書館的な読書空間を作る試み 
No.5 「朝読書ルーム」ふたたび

【Explayground URL】 https://explayground.com/

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