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雑誌『幻想と怪奇』投稿俳句連作『没食子』

●雑誌『幻想と怪奇』公募二回目の応募作です。

『沒食子』

田中目八

老僧のこゑ美しき誘蛾燈
蛾の命燒べて翁の貌の光
老翁の乾いてありぬ瑠璃蜥蜴
麥波につかむ翁の袂かな
屍に悠くありけり雲の峯

粽より大きい兒らを蒐めをり
嬰兒の重さや柏餠啖ぶる
林檎飴濡れ薔薇は脈打ちはじむ
蜘蛛の圍や星圖に置かれゐる眼玉
玉繭や闇は宇宙を透し視る
生が來る死よりも疾く雷聲す
掻き探る手は手をなくし繭あらた

夏の夜に醒むるわが身を魚とせよ
山百合やリリスに愛の夢を視す
舞へば獨り裸の奧にまたひとり
虛蝉の無盡に反響する眼窩
芋蟲や淵源の音みちみちと 
嘶きの月の岸邊にしがみつき
永き夜や畢らぬ假面劇を始む

マグノリア弔花に一つ星流る
くらやみのずつと佇ちてや蟲絕ゆる
蛭兒神牡蠣のあはれを呑み込みぬ

風花や棺に蓋ひ掛かりゐる
葬送の童子咲きたり春鰯
下萠や骨壷抱きつ眠りたる

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