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連作マイクロノベル『殺手』(思いついたら更新)

という素晴らしい夢を見たので誰か続きをお願いします。
と書きつつまあ誰かが書いてくれるわけでも無いので自分でつらつらと。
※時系列ではありません。

●教室に入る。誰とも関はらないやう空いてる席に座る。なのにまるで待つてゐたかのやうに近づいてくる気配。そいつは毒殺の専門家で皆から嫌はれてゐた。「ねえ、仕事引き受けてくれないかな。代はりに一人殺してあげるからさ?」と耳元で告げると頬に口吻をして笑ひながら教室を出ていつた。

●夜焚火。「君はまるで翁のやうだねえ」さう云ひながら近づいてくる者は微笑んでゐた。ゆつたりとした袖から白蛇のやうな手が伸び無造作に火にかざす。私は敢へて顔も見ず「さう云ふ君は童みたいぢやあないか」ぼそり云ふと相手はぱつと私の手を握り「思つた通り温かいね…」と眉を下げた。

●食堂。熱々とは云はないが熱い拉麺に箸を入れると丼が暗くなる。顔を上げると微笑みを浮かべたそいつは向ひの席に座り「君は何でも美味しさうに食べるね」と明るく言ふ。思はず溜息が出さうになるのを堪へるが其れは拉麺が冷めないやうにだ。こいつが物を食べるのを誰も見たことが無いと言ふ。

●鏡を見る。たつた一枚の絵だけを描き遺して逝つた二十一歳の男の事を思ふ。深紅の王。二十一世紀の精神障害者。私の顔の後から徐々に大きくなつて来る。そいつは何時もと変はらず笑つてゐた。「やあ。剃ろそろ仕事を引受けて呉れる気になつたかな?」。頬が疼くやうに引き攣つた。

●目眩…。気づくと目の前に鹿のやうな背中があつた。「やあ、気がついたかい?」戯けたやうに云ふとそいつは振り返つた。「君の目に映つてゐる奴がどうも気に食はなくてね。ちよいと君の目の中に入つてみたのだが少々過ぎてしまつたやうだ。」聞いてもゐないのに答へると袖で顔を隠して笑つた。

●青いクリームソーダ。私の前にあるそれをそいつが黙つたままぢつと見つめるのでどうも食べるのを躊躇つてゐると「クリームが溶けるよ」と視線をそのままにして云ふ。ああ、と気を取り直してスプンを突き入れるとクリームとソーダが混ざる。「まるでそんな風なんだよ。僕の身体は」と溜息をついた。 

●メロデイ。「さう、君にはリズムがあるのだよ。赤子に降りそそぐ歌のやうでさへある、ね」「然し僕にはそれが無い、あるのはただ奴隷が鞭打たれるが如きビートだけさ」さう云つてそいつはうつとりと、そしてうんざりといつた風に息を吐くと、私へ近づけてゐた指をまるで磁力に抗ふかに離していつた。

●君の青。君の作る青は素晴らしいね。さう云つて閉ぢてゐた瞼をゆつくりと開くと目に映るのは私が描いた画の青。「やうやく僕の見てゐるものと同じ青に出逢へたよ。つまり、同じ青を見てゐる人に、ね」「考えたことはないかい?本当に人は同じ物を見てゐるのだらうかつて」さう云ふとまた瞼を閉ぢた。

●寿命。驚くほど長生きな生物はね、本当は長生きじやあないのさ。彼らはゆつくりと生き、死んでゆくときも同じやうにただゆつくりなだけなのだよ。と、そいつは分かるやうな分からないやうな事を云ふ。私が筆を止めないのを満足さうに見ると「君はきつと長生きするよ」と珍しく真面目な顔をして云つた。

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