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帝国という名の記憶(上下)【私の珍技が読書紹介になってきた件】(著:アーカディ・マーティーン)

では読書紹介です。
今回紹介するのは、すいません、またバリ長い長編SFです。

「帝国という名の記憶」上下分冊。

これはスペースオペラ、略してスペオペ。
世にSF信者は「スペオペはSFじゃない!」とまで言われてますが、
要するにサイエンス要素が希薄です。

他に例を探せば、
「スターウォーズ」
「銀河英雄伝説」
この辺は典型的なスペオペですね。
前者はヒロイックファンタジーをSF仕立てで。
後者は三国志を元ネタに宇宙でリビルドした、そんな感じ。

この「帝国という名の記憶」はどちらかというと後者です。

銀河帝国!! この響きだけで買ってしまいましたとも。

テイクスカラアン帝国。首都星テイクスカラアン。

作者はビザンツ帝国で博士論文を出した方で、帝政ローマや東ローマが原型になっているみたいです。アステカ帝国要素も入ってるとのこと。
専制国家ですがゴールデンバウム王朝みたいな暗さはありません。
これは科学が好きな人よりは歴オタが好みそうな作品ですね。

辺境のスペースコロニー国家より帝国に派遣された、新任の大使が主人公で、この人が帝国を揺るがす陰謀に巻き込まれていく、という脚本です。
前提としてこのスペースコロニー国家は小国であり、軍事力ではとても帝国にかなわない。外交官の腕の見せ所です。
しかも着任した時点で、前任の大使が謎の死を遂げており、その謎を探偵していく要素もあります。

先に辛い点をいくつか。
まず帝国人の名前に、私は感銘をうけませんでした。
いくつか例を出しましょう。

シックス・ダイレクション(皇帝)
スリー・シーグラス   (情報相外国人引率官)
ナインティーン・アッズ (皇帝親衛隊騎士上級将校)
*皇帝以外の階級はテイクスカラアン語しかないものを私が日本語に意訳してみました。

このようにファーストネームは英語の数名詞と決まっていて、簡単な英語の組み合わせになっているのですね。まあこれは未来の話なので、英語がラテン語のように古語化してるのもアリなのかなと思いましたが。
私はちょっと雰囲気が乗りませんでした。慣れればアリだと思えるかもしれません。
一方でスペースコロニー側の名前は雰囲気ありましたね。
マヒート・ドズマーレ大使。女性の名前です。かっこいい!

あと、途中がちょっと冗長。
こういう外国の文化に入って冒険する系の話は、その国の文化を把握してないと話についていくのが難しいです。
でも文化の紹介は本筋に関係ないので、読者の頭にはすんなりと入ってきません。

科学みたいに「なるなる~」「そう来たか」という直感的に理解できる感じではありません。
(SFではなくガチの科学本を読んでると、ついていけなくなることはあります)

「銀河英雄伝説」では「ドイツ語の人名」と「三国志風」「ベルサイユのバラ風」を流用して、あっさりと秒で解決した問題を、
丁寧にまず文化を設定してそれを読者に文化紹介しながら構築していくスタイル。これは間延びします。
文化設定で「面白そう」というより「退屈」と感じてしまった人は厳しいでしょう。

文章も切れ味が悪く、形容詞や説明文がかなり多い感じ。
英語翻訳を丁寧にやりすぎたというか原文がこうなので仕方ないのか。
もやっとします。
詩もたくさん出てきます。テイクスカラアン文化と言えば詩です。これは時代背景の解説や、謎解きのヒントの役も兼ねているようなので読み飛ばすこともできません。
ただ直訳で原文英語の詩を読まされても、いまいち。日本語を読んでる感はしません。

一方で本筋はちゃんと面白い。脚本はしっかりしてます。
特に下巻に入っていくとスピード感も出てきて、上巻のたゆたさが一気に解消されていきます。
絵師さんやデザイナーの方は、帝国のメカや服装や制服を思い描きながら読み進めてください。楽しいですよ。具体的な特徴は本文に書いてあります。

またこの物語の数少ないハードSF要素、記憶を後継者に継承するイマゴマシン、というメカがストーリーに重要なアイテムとして関わってきます。ちゃんとSFもしてますね。

あとは手紙文化が面白いですね。基本は電子メールなのに、極小タブレット?をいちいち物理郵送するスタイル。しかも読むときにパキッとへし折って使用するという。
いやあ文化いいなあ。
これ地球では無理ですよね。絶対に流行ってくれない。

哲学的な深いテーマは・・・ありません。文学の歴史に一石を投じるような衝撃的な何かとかありそうでないです。逆に安心して読めます。
旅行好き、異文化好き、歴オタ、の人にはオススメかな。
そうですね。これ旅行記としても読めますね。

私はブラインドサイトを読んだ後にこれ読んだので、正直、物足りませんでした。が、これ単体で読んだら「久々にSF読んだわー」と満足できたかと思います。
続編も出たばかりのようです。

というわけでちゃんとした書評も紹介します。


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