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病の皇帝「がん」に挑む(著:シッダールタ・ムカジー)【これからの読書紹介の話をしようか】(ノンフィクション)

白血病ってロマンですよね?
いきなりぶっ殺されるようなこと言ってすいませそ。

いや15年位前にある恋愛小説が物議をかもしたことがあるのですよ。
なぜ薄幸のヒロインが白血病で死ぬのがテンプレなのか?
現在だったら若い人ならそんなに不治の病でもないんじゃないか?
薄幸のヒロインを書きたいなら他にも病気はたくさんあるじゃん?
胆嚢ポリープのヒロインとか。
(いや決して望月ひまりちゃんのファンだからではないですよ(汗))

でもやはり病気によって知りたい度がなぜか違ってきてしまう。
名付け親であるウィルヒョウ先生(19世紀の医師)のセンスが良いのかもしれん。

罹患者に聞かれたら火刑に処されそう。

そんなことはともかく。
今作はノンフィクション、ボストンのインド系アメリカ人のお医者さんが書いた「がん」との戦いに関する物語です。
これは、はっきりいってこれほど面白い医療系の本をいまだかつて読んだことがないレベルで面白かった。特に上巻。

*****

昔はガン治療と言えばハルステッドの外科手術しかなかったんですよ。
とにかく切る。たくさん切れば切るほど治癒率が高くなるはずだという。
しかし白血病は液体状のガンなので切りようがない。
物の本にも「あきらめてください」としか書かれていなかったのですね。
ですから恋愛ドラマで「もし助からないとわかったらどうしますか?」的なモデルとして導入される。
初出は映画「ある愛の詩」とか。これが1970年の話。

ところが実際にはこの映画が出たころ辺りから、
あきらめないお医者さんたちが奇跡を起こしたというエピソードが現実化しはじめ、その経緯が本作に描かれてます。
実話で。
ここだけ映画にしたい。
本当はこのネタをそのまま小説とかに書きたいのですよ。
だけどいつまでたっても書けないので、
とりあえず元ネタを先にばらしておこうと思って。

白血病とその治療に関する話は、人類史において、
最も恐ろしく、もっとも暗く、そしてもっともきらめいた、過去エピソードのひとつです。
これよりドラマチックな歴史はそうそう見ません。

お子さんを医者にしたいと思ったら、まず中学生くらいの時にさりげなくこいつを読ませてみてください。責任は取りかねます。

*****

始まりはボストンのファーバー先生という人物から始まります。
(他のお医者さんも実験的な治療をはじめていたようですが)
ここは著者のムカジー先生の病院の始祖として取り上げたのでしょう。
同じ勤務先なら資料も入手しやすいですからね。

ファーバー先生は高学歴高知能ですが、もともとは研究職で、自分で患者をみるような人ではなかったそうです。ひたすら病理研究をやっていたそうですね。

当時の小児白血病は、壮大な闇の前に跪き、静かに終わりを待つ時代。
白血病の病理研究はまさに死者の研究であり、病院の地下の研究室は、まさに納骨堂のような雰囲気の場所。そこにファーバー先生はいました。

でも悪魔のきまぐれか、ファーバー先生は魔法の薬を手に入れます。
現在だとメトトレキサートと言われてる薬らしいですね。

そしてファーバー先生は上の階にいって、最初の患者を見つけます。
そして劇的な寛解(治癒ではない)を達成するのですが、

でもそれは束の間の奇跡。
ご存じの通りガンは再発する病気です。
なにせ当時は単剤療法しかありませんから、必ずといっていいほど戻ってきて止めを刺しに来るのですね。

「ドアが開き――ほんの束の間、彼を誘惑するように開き――そしてまたしっかり閉まるのをみた。そしてその開かれたドアの向こうに、彼は光り輝く可能性を見たのだ」

*****

もうこのお話の続きは、私の下手な解説より、本書を直接読んだ方がいいでしょう。
自分、下手すぎ。
著者自身に文才があるのか、あるいは翻訳のせいか、本当に臨場感のある著述です。
それとも話が面白すぎて自然と先が読みたくさせる内容なのか。

もちろんそれ以外のエピソードもたくさん出てきます。

病院を追放されながらも、最初の勝利と最初の原則を見つけた男。
治療プロトコル「ヴァンプ」の光と闇。
ガン治療病棟が「強制収容所」じみていく後日のことも。
タバコの話と予防検査のトリック。
そして最新型の分子標的剤の開発秘話まで。

今回はこれくらいで締めます。まじめな書評も下に記載しておきます。


#読書の秋2022 #ノンフィクションが好き #医療 #ガン #歴史

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