親愛なる同志たちへ(監督:アンドレイ・コンチャロフスキー)【これは映画感想だというのに、同志よ、いったいどうしたんだ・・・そんなことを言っていた時期が私にもありました】
このご時世にまたロシア映画を観てしまいました。
ソ連時代に労働者のストライキを武力鎮圧してしまった事件があって、
それを描いた作品です。
ちなみに政権は「ソ連の悪事はどんどん映画化してください」
というスタンスなので、お上公認です。
なんてことはない。反体制ではないのです。意外でしょう。
そういえばウクライナ戦争を始めるときにも御仁は、
「とにかくレーニンがウクライナを作ってしまったのが悪い」
とかいう演説までしていましたね。
御仁は元KGBなのにソ連が嫌いなんです。とりあえず今は。
「もっとソ連を悪く描きなさい」という要請まで出るので、スターリン時代の映画とか作りやすかったりします。知らんけど。
いやしかし、そういう経緯なので観ようかどうか迷ったのですが、
これは見ないではおれない、チープな熱血アクション映画とは違うぞ、ということで借りてきてしまいました。
この時期を過ぎたら金輪際、観れなくなってしまう可能性もありますしね。
まあツタヤが払ったお金はロシアでは制裁で引き落とせないのかなと思うので、在日外交官がカフェる時のお金になるのか、
それともこういう時こそ工作員にボーナス払っておくのか。
(いずれにせよ日本国内で使われるのであれば日本経済にとってはまだよい)
そんな盤外の事情はいい加減にして本題に入りましょう。
結論:いい映画でした。
私は、映画はプロパガンダで良い派なので、気にならないのですが、
とにかく誰かのプロパを入れることで制作費をもらえるならめっけもんです。
映画には、他のアートと違って正気を疑われる予算が必要です。
本物はプロパを越えたアートを作ってきますし、
少しくらい宣伝要素が入っていても気になりません。
時はフルシチョフの時代。
ソ連の田舎町、ノヴォチェルカッスク。
(ウクライナとの国境近くで、近所のクラスノダールは製油所がウクライナのドローンに爆撃されたりしてる。今はね)
当時は平和な時代です。
外ではキューバ危機とかでやりあっていますが、ソ連本国は体制の情報統制もあってか、騒ぐこともなく、まずは平和で呑気な日々だったのです。
ただフルシチョフ時代になってからインフレがひどく、物価が上がる割に給料は下がるという不安要素がありました。
「社会主義なのにインフレかよ」ということで、一部では不満が高まっています。
ここで主人公のおばさんはガチコチのスターリン支持者。
「スターリン時代の方が良かったわ」などと放言している、そんな彼女は市の中央行政官のひとり。田舎とはいえ権力者の端くれです。
ソ連の権力者階級といえば、優先的に配給を受けさせてくれる特権がありました。
いわゆるノメンクラツーラです。上級国民です。
品物不足で店に長蛇の列が並ぶ一方、主人公のおばさんくらいになると、裏でこっそり最高級品を買えます。
買えるんですが、家には少しボケかかった父と、反抗期の娘。
夫はいませんシンママです。しかも2DKくらいの規模で。
なので、まあ希望がないというか、夢がないというか、有難みが無さすぎるご家庭なのです。これが上級国民の残念な実態。
また地方自治体クラスとなると、独裁国家の権力側にいても、うまい汁はたかが知れてます。
そんな中で、工場の労働者たちはストライキを始めます。
実は賃金が大幅ダウンしてたのです。
市当局の大物が説得に言ったのですが、頭の固い役人に説得されるわけもなく、逆に軟禁されてしまい、軍隊が地下通路で救出に来てくれたので、ようやく脱出できる始末。
ついにはモスクワから、ミコヤンとコズロフとかいう大物まで、やってきます。
ミコヤンは知っている人が多いかも。日本に来たこともありますよね。
反抗期の娘は、スト参加派。
母親に叱られても、いやだからこそ、まったく言うことを聞きません。
市当局の会議では、主人公のおばさんはひとり強硬論を吐くくらいなのですが。
まあしかし、こういう国では半ば演技です。
こういう時に強硬論を吐くと、忠誠心がアピールできるからです。
しかしついにスト組は軍隊を押しのけて、市当局前までやってきます。
スト組は真っ赤なソ連の旗を掲げて、
労働者の要求を突きつけようとします。
こりゃまずいよ!
そんなとき、軍隊が発砲します!
実は軍隊ではなく、軍隊の中にKGBがいて、それが発砲したのですが、
いずれにせよ市役所前はパニックになります!
あちらこちらに悲鳴と銃声と、そして死体の山。
主人公のおばさんは、スト組の中にいるであろう娘が心配になりすぎて、
逃げるどころか大慌てで娘を探し始めます。
でもどこにも娘が見つからない。
やがて軍隊が死体の山を回収し始めます。
スト組の首謀者たちをKGBが逮捕しはじめます。
病院にも、死体安置所にも娘はいません。夜になっても帰ってきません。
ボケかかった父親は帝政時代の勲章付き軍服を倉庫から出してきて、着こんでしまいます。
「絶対に外には出ないでよ」とは言いましたけど。
家にもKGBが来ましたが、まあ娘は帰っていません。
父は帝政時代の軍服姿でKGBに「いっぱいやるかい?」
「いや、結構です」
「ふん、仕事中か」
「いやー、ははは」
逆に娘が見つかったら教えてくれとまで頼みます。
実際、このKGBはあとあと、娘さん探しに大協力してくれます。
どこを探しても娘が見つからない。死んだのかも無事なのかもわからない。
そんな中、市当局の上司は、書類を書けとせっついてきます。
(しかもこの人、主人公とは不倫の関係です)
「書類?」
「ほら、お偉方の前で強硬論を吹いただろう。余計なことをと思ったが、あれを書類にして出せということだ」
「・・・」
「娘さんを無罪にすることだってできるかもしれん。やるんだ」
さて。その書類の出だしの文章が「親愛なる同志たちへ」で始まるタイトル回収。
しかしその書類を出そうと思った主人公は唐突にやる気がなくなり、トイレに閉じこもってしまいます。驚愕した愛人じゃなかった上司が追いかけてきますがついに諦めます。同時に彼の出番も終了。
ここで例のKGBが娘さんの情報を持ってきます。
なんか人間臭いKGBですね。
仕事など放りだして娘の捜索に向かう主人公。
今回はこの辺にしておきましょう。
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当時の雰囲気をおもんばかった全編白黒映画。
テンプレながら、どこの国の人でも共感できる普遍的な作品に仕上がりました。
時節柄、おそらくもう観ることは叶わないと思います。
だいぶ未来になってからならともかく。
ただ、シンドラーのリストや、トップをねらえ、みたいにワンカットだけ、カラーの場面があっても良かったかも。
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