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映画や音楽のことについてのらりくらりと書いてます。

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    観た映画のはなし。 ネタバレするぞー!

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    A24作品で観た映画の感想

  • ルイス・アルベルト・スピネッタの軌跡

    アルゼンチンロックの中心人物だったルイス・アルベルト・スピネッタの40年に渡るキャリアを、アルゼンチンの情勢と共に紐解く。

  • ジョアン・ジルベルトガイド

    ジョアン・ジルベルトの全キャリアを年代とアルバムで切り分けて辿る。彼が何を見て何を目指したのか、同時代の流れも含めてルーツを遡っていくジョアンを知るためのガイド。 ※2020/2/1更新

  • 世界で一番好きな(のかもしれない)音楽

    僕が心を打たれた音楽について、何故心を打たれたのかをつらつらと書き連ねてます。

最近の記事

【映画】ひとつのうた/杉田協士

タイトル:ひとつのうた 2011年 監督:杉田協士 ガシャンと音を立てて開くポラロイド690。主人公は常にポラロイドカメラを携えて、駅にいる人々や街の人々をフィルムに収めていく。知らない人たちを側から撮影する姿に「大丈夫なのか?」といらぬ心配が横切ってハラハラさせられるが、何事もなく物語は進んでいく。あたかもそれが当然な出来事のように。 映画の途中で、本作がスクエアに近い画角になっている事と、ポラロイドの画角が重なり合うのに気付いた時、主人公が見ている世界そのものが写真と重

    • 【映画】悪は存在しない/濱口竜介

      タイトル:悪は存在しない 2024年 監督:濱口竜介 タイトルや音楽のぶつ切りなど端々に感じられるゴダールオマージュ。子供の視線はビクトル・エリセを想起させる。濱口竜介作品はハッピーアワー以降しかみていないが、これまでの作品とは違いヨーロッパの映画を観ているようなテンポ感や空気が流れる。元々石橋英子からのライブで使用するサイレント映画という依頼でスタートした事もあって、音楽の比重は高いが取ってつけた様な部分は皆無で映画の世界と強い繋がりを持つ。意外と企画色が強くなると、音と

      • 【映画】パリでかくれんぼ Haut bas fragile/ジャック・リヴェット

        タイトル:パリでかくれんぼ Haut bas fragile 1995年 監督:ジャック・リヴェット 映画としてのスムースさより、画的な強さを選んでいるせいか物語としては破綻していたり、閉じなかったり、ぎこちなさが散見される。しかしこの映画の魅力は表面的な作り上がりではなく、場面場面にある感情と躍動感の瞬発的な画の力強さだと思う。かなり緻密に作り上げたカメラワークと、俳優陣の体を張った演技と視線や仕草がいかに有機的に絡み合うかだけの映画なのかもしれない。ドラマツルギーよりも

        • 【映画】異人たち All of us strangers/アンドリュー・ヘイ

          タイトル:異人たち All of us strangers 2023年 監督:アンドリュー・ヘイ 山田太一版の、というより大林宣彦版の「異人たちとの夏」の内容を反芻しながら観てしまうのは仕方ないにしても、それ抜きに観ていたらどの様に受け止めていたのだろうとふと考えてしまう。 もともと怪談っぽさとマジックリアリズム的な過去との邂逅が前面に出ていた映画だけに、ファンタジックな描写は大きく異なってくる。「異人たちとの夏」での大林宣彦らしいファンタジックさは、失われたノスタルジー全

        【映画】ひとつのうた/杉田協士

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        記事

          【映画】パスト・ライブス Past lives/セリーヌ・ソン

          タイトル:パスト・ライブス Past lives 2023年 監督:セリーヌ・ソン 韓国人移民といえば本作と同じくA24が配給した「ミナリ」や、養子問題を外からの視点で描いた「ソウルに帰る」など韓国国外についての映画がある。韓国人としてのアイデンティティと、長く国外で暮らす移民としてのアイデンティティの揺らぎがそれぞれで描かれていたが、本作は韓国側の状況も含んでいて、過去から現在へ至るまでにスプリットされてしまった12歳の頃の記憶と、12年置きに進む物語の中で過去の記憶が交

          【映画】パスト・ライブス Past lives/セリーヌ・ソン

          【美術】安井仲治ー僕の大切な写真@東京ステーションギャラリー

          戦前から戦中にかけて活躍し早逝してしまった安井仲治の写真展が東京ステーションギャラリーで開催中。中々時間が取れなかったけど、やっと行く事が出来た。 先日鑑賞してきた「シュールレアリズムと日本」や、昨年の「「前衛」写真の精神」と同時代とあって、アンドレ・ブルトンやマックス・エルンストらダダイズムからシュールレアリズムの流れと、マン・レイやモホイ=ナジからのダイレクトな影響を感じさる。日本独自な風土からくる作風と戦後の作家の作品群へと連なりが、ちゃんとこの時代にあってもしっかりと

          【美術】安井仲治ー僕の大切な写真@東京ステーションギャラリー

          【映画】アワー・ミュージック Notre musique/JLG

          タイトル:アワー・ミュージック Notre musique 2004年 監督:ジャン=リュック・ゴダール 遺作となった20分ほどの短編「遺言 奇妙な戦争」は映画というよりもインスタレーションっぽい作品で、語りにもあったように予告であり絵コンテというか青写真をまとめたような内容だった。デビューから最前まで一貫した彼のアティチュードは、常にポストモダンであり、かつリアリストでもあったという事を作品に触れるたびに思い起こされる。 「イメージの本」もそうだったが、この短編もボスニア

          【映画】アワー・ミュージック Notre musique/JLG

          【映画】海がきこえる/望月智充

          タイトル:海がきこえる 1993年 監督:望月智充 十代の心の機微を描いた作品であり、間を活かしたライトなサウンドトラックが時代にも合っていて、ファッション含め違和感なく受け入れられる時代だと思う。しかし、ジブリの中でも一番スルーされがちな本作がまさかまさかの劇場上映が行われ、初日から三日間全て完売という状況に大変驚いた。というのも、この作品が好きという人に全く出会った事がなく(SNSでは当然見かけるけれど)、ジブリ好きな人からは敬遠されがちなこの作品がようやく日の目を見た

          【映画】海がきこえる/望月智充

          【映画】英国式庭園殺人事件・ZOO/ピーター・グリーナウェイ

          世代によってアダプトしにくい作家、監督、ミュージシャンがいて、特に十年くらい前の近過去のものほど意外と繋がりにくい事が少なくない。僕の中でピーター・グリーナウェイはそのひとつだったりする。現在サブスクに作品があまり無い事も、振り返る上で阻まれる事の要因のひとつでもある。これはグリーナウェイに限った事では無いのだけれど…。 常にピックアップされ、時代がかわっても紹介されるヒット作や名作はアダプトしやすい反面、時代のカラーが色濃く出てしまったり、その時代のものと位置付けられてしま

          【映画】英国式庭園殺人事件・ZOO/ピーター・グリーナウェイ

          【映画】エリス&トム Elis &Tom – Só Tinha De Ser Com Você/ホベルト・デ・オリヴェイラ、ジョン・トブ・アズライ

          タイトル:エリス&トム Elis &Tom – Só Tinha De Ser Com Você 2023年 監督:ホベルト・デ・オリヴェイラ、ジョン・トブ・アズライ 「三月の雨」の7thコードの展開形のイントロからエリスとジョビンの折り重なる歌を聴くだけで涙腺が緩む。穏やかで融和な雰囲気溢れるアルバムだと思い込んでいたが、融和というよりも宥和な状態から作り出されたアルバムだった事が明らかにされたドキュメンタリーだった。 この時のレコーディングへ至る記録が半世紀眠っていた1

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          【本】哀れなるものたち Poor Things/アラスター・グレイ

          映画を観た後に読んで。まず驚かされるのが映画本編の物語を覆すラストと、後日譚だった。 原作は3つに分かれていて、マッキャンドルズが書いた回想録と、ヴィクトリアによる事実を明らかにする書簡、それら2つの書物を発見したグレイによる注釈となっている。映画はマッキャンドルズによる回想録をベラの視点で描かれているが、原作ではこの部分がマッキャンドルズによる創作だという事がヴィクトリアの書簡によって明らかにされる。全てが覆されるラストを映画が盛り込まなかったのは、単純に上映時間が長くなる

          【本】哀れなるものたち Poor Things/アラスター・グレイ

          【映画】ミレニアム・マンボ Millennium Mambo/ホウ・シャオシェン

          タイトル:ミレニアム・マンボ4k Millennium Mambo 2001年 監督:ホウ・シャオシェン 2000年前後のあの時代がフラッシュバックする。舞台が台北であっても(途中で夕張と新宿が出てくるが)、振り返れば時代が持つ独特な空気や色合いがまざまざと蘇ってくる。ブラックライトの妖艶な輝きの中で蠢くナイトクラビングや、部屋のカラフルなインテリアなど、かつて東京でも見てきた風景の一部でもあった。女の子のやたらとタイトな服装やキャミソールなど、若い世代の一部でリバイバルさ

          【映画】ミレニアム・マンボ Millennium Mambo/ホウ・シャオシェン

          【映画】夜明けのすべて/三宅唱

          タイトル:夜明けのすべて 監督:三宅唱 夜の闇の中で遠くに光る武蔵小杉のビル群。星のように輝く街と横切る浅草線。東京城南地区に当たる大田区の南側に住んでいる自分にとっては身近な場所と風景である。舞台となる栗田科学株式会社のある馬込辺りは、頻繁に訪れる場所ではないにしろ、知人が住んでいたり、郷土博物館を訪れるために足を運ぶ事がある。浅草線の車庫は、池上本門寺の端にある梅園のすぐそばにあり、国道1号線に沿うように走っている。しかも山添の家は馬込から数キロ離れた僕の家の近くにあり

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          【映画】落下の解剖学 Anatomie d’une chute/ジュスティーヌ・トリエ

          タイトル:落下の解剖学 Anatomie d’une chute 2023年 監督:ジュスティーヌ・トリエ 2023年のカンヌパルムドール受賞作であるが、一番印象に残ってしまったのがボーダーコリーのメッシ。こりゃパルムドッグだなと思ってたら案の定受賞していた。猫好きの僕でもあの表情は見ているときゅーんとする。いや冗談のようなパルムドッグという賞(カンヌで唯一複数受賞できる)なのだけれど、映画の中でも重要な立ち位置を占めていて、映画の中のミステリーを紐解くキーパーソンならぬキ

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          【映画】ボーはおそれている Beau is afraid/アリ・アスター

          タイトル:ボーはおそれている Beau is afraid 監督:アリ・アスター 電車や駅の広告に溢れる脱毛や美容、増毛が生み出す、そのトキシックな状況を生み出す広告への批判はあらゆる場面で度々表面化する。他者から見られる時のこうでありたいという欲望と、こうでなければいけないという強迫観念が表裏一体となって渦巻いている。本作の後半で主人公ボウの母親の業績がポスターとして壁に並べられているのを見て、トキシックな状況を思い浮かべた。 気付いた人も多いと思うが、オープニング前のク

          【映画】ボーはおそれている Beau is afraid/アリ・アスター

          【映画】瞳をとじて Cerrar los ojos/ビクトル・エリセ

          タイトル:瞳をとじて Cerrar los ojos 2023年 監督:ビクトル・エリセ まさかまさかの「マルメロの陽光」以来のビクトル・エリセの新作が公開されるとは予想だにしなかった。昨年のカンヌで上映アナウンスがあった時に驚いた人も多いと思う。「ミツバチのささやき」から10年おきに発表していたほど寡作な作家として知られるけれど、「マルメロの陽光」からは30年以上経っている。途中、テンミニッツオールダーなど短編はいくつか作られているが、このタイミングで長編までこぎつけたの

          【映画】瞳をとじて Cerrar los ojos/ビクトル・エリセ