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【映画】ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー傑作選2024

昨年に続いてファスビンダーの作品三作の特集上映がル・シネマで開催。今回は自由の暴力、エフィ・ブリースト、リリー・マルレーンの三作で、70年代中盤のまだ20代の頃の作品と、晩年に差し掛かる1980年の作品という前回とはまた違ったラインナップでの上映となった。37歳という若さで亡くなったにも関わらず、40作品もの映画を残した多作な監督にも関わらず作品のクオリティや、内容の濃さ、人生観には驚かされる。今回の客入りも良さそうなので、来年も引き続き行って欲しい。

タイトル:自由の暴力 Faustrecht der Freiheit 1975年
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

ファスビンダーが主人公も兼任していて、傲慢さと頼りなさのアンビバレントな心の揺れ動きがたまらない。大道芸が立ち行かずロトで大金を手にした男と、上流階級の男たちとの組んずほぐれつな関係を描いた作品。ワーキングクラスな主人公がハイソな生活に馴染めず、金を無心され崩壊していく描き方は容赦がない。ファスビンダー自身はゲイであることを隠していないが、セックスシーンは無くともそこにある関係性はかえってリアルに感じる。とはいえゲイカルチャーよりも、スノビズムに対しての視点や、資本主義と搾取の関係性、階級間の違いや場末の人々、家父長的な家の在り方など、社会の形を描きだしている。
カメラワークの面白さや、演技のカタルシス、無情なラストなど見どころ満載な作品だった。

タイトル:エフィ・ブリースト Fontane Effi Briest 1974年
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

三作の中でもあまり期待せずに観たものの、一番良かったのがこのエフィ・ブリースト。テオドール・ファンターネ原作の映画化で、ファスビンダーのナレーションで物語が進むモノクロ作品。クラシカルな雰囲気はありつつも、とにかく丁寧なカメラワークの妙味が堪能出来る。「マリア・ブラウンの結婚」とはまた違ったハンナ・シグラの美しさを愛でる作品だと思うし、ラスト近くの独白のシーンの全ての関係が破壊し尽くされた後の感情の吐露は心にぐっと突き刺さる。
悦楽的なモラルと社会的なモラルがぶつかり合い、破滅へと導かれるドラマの根幹にあるものは実は「自由の暴力」と同じテーマ性を持つ。
多用される鏡や、横に流れる映像など凝りに凝った映像の美しさと、翻弄される様を演じ切ったハンナ・シグラの演技の凄みを感じる。
ジョン・ウォーターズがこの作品を好まないのが不思議なくらい、ファスビンダー作品の中でも歪でありつつも(ナレーションと映し出されたもののズレなど)、洗練されたヨーロピアンな世界観は面目躍如といった所だと思う。とにかく素晴らしい作品だと思う。

タイトル:リリー・マルレーン 
Lili Marleen 1980年
監督:ライナー・ヴェルナー・ファスビンダー

先の二作に比べるといささか造りの荒さが目立つ。大衆向けなドラマ性が強く出てしまっている感があり、第二次大戦中の豪奢はセットや衣装の造り込みは凄いものの、どうもケレン味に欠ける。今回もハンナ・シグラの魅力は存分に出てはいるものの、「エフィ・ブリースト」や「マリア・ブラウンの結婚」の焼き直しな印象も強い。
ユダヤ人とドイツ人の関係性は、ラストの敗戦直後の立場の違いに、成り上がりと戦犯の相容れなさにある、すれ違いというテーマを強く感じさせる破滅的なラストでもある。
リリー・マルレーンという曲を軸に、ヒットラーや兵士にとっての郷愁や、ロベルトにとっては独房での狂気を呼び起こすものであるものであることや、成り上がりから戦犯へと転落するヴィリーの関係性の描き方は見事だと思う。

ビルケナウを想起させるホロコーストの写真など、時代的なバックグラウンドが差し込まれながらも、性急な描き方のせいでどうもドラマが伝わりづらい部分もあった。
パンフレット替わりのZineに書かれていた渋谷氏の解説によると、1976年を境にファスビンダーはドラッグに溺れ始めたとあり、本作のある種の荒さはやはりそこにあるのかなと。その中でも絶妙なバランスを保った「マリア・ブラウンの結婚」の畳み掛けるようなラストはファスビンダー作品の中でも突出しているのだろう。けれど「サンセット大通り」へのオマージュともとれる「ヴェロニカ・フォスのあこがれ」や、映像のユニークさが際立つ「第3世代」など圧倒的な作品も残しているだけに、生きていたらどの様な作品を残したのだろう?ともどうしても考えてしまう。
本作を観ていて感じたのは、ウルリケ・オッティンガーの「アル中女の肖像」が頭をよぎった。オッティンガーの足跡はやはりファスビンダー抜きには語れないようにも思える。ケレン味だけで成り立った(貶してはいないです)オッティンガーの作品群は、受け継がれていると強く感じられる。
少し話は逸れるが、本作でのハンナ・シグラの化粧っけはデビュー当時のマドンナに愛通ずる。もしかするとアイコンとしてハンナ・シグラの存在もあったのかなと想像してしまった。

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