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映画めも。

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観た映画のはなし。 ネタバレするぞー!
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【映画】パリでかくれんぼ Haut bas fragile/ジャック・リヴェット

【映画】パリでかくれんぼ Haut bas fragile/ジャック・リヴェット

タイトル:パリでかくれんぼ Haut bas fragile 1995年
監督:ジャック・リヴェット

映画としてのスムースさより、画的な強さを選んでいるせいか物語としては破綻していたり、閉じなかったり、ぎこちなさが散見される。しかしこの映画の魅力は表面的な作り上がりではなく、場面場面にある感情と躍動感の瞬発的な画の力強さだと思う。かなり緻密に作り上げたカメラワークと、俳優陣の体を張った演技と視線

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【映画】異人たち All of us strangers/アンドリュー・ヘイ

【映画】異人たち All of us strangers/アンドリュー・ヘイ

タイトル:異人たち All of us strangers 2023年
監督:アンドリュー・ヘイ

山田太一版の、というより大林宣彦版の「異人たちとの夏」の内容を反芻しながら観てしまうのは仕方ないにしても、それ抜きに観ていたらどの様に受け止めていたのだろうとふと考えてしまう。
もともと怪談っぽさとマジックリアリズム的な過去との邂逅が前面に出ていた映画だけに、ファンタジックな描写は大きく異なってくる

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【映画】パスト・ライブス Past  lives/セリーヌ・ソン

【映画】パスト・ライブス Past lives/セリーヌ・ソン

タイトル:パスト・ライブス Past lives 2023年
監督:セリーヌ・ソン

韓国人移民といえば本作と同じくA24が配給した「ミナリ」や、養子問題を外からの視点で描いた「ソウルに帰る」など韓国国外についての映画がある。韓国人としてのアイデンティティと、長く国外で暮らす移民としてのアイデンティティの揺らぎがそれぞれで描かれていたが、本作は韓国側の状況も含んでいて、過去から現在へ至るまでにスプ

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【映画】アワー・ミュージック Notre musique/JLG

【映画】アワー・ミュージック Notre musique/JLG

タイトル:アワー・ミュージック Notre musique 2004年
監督:ジャン=リュック・ゴダール

遺作となった20分ほどの短編「遺言 奇妙な戦争」は映画というよりもインスタレーションっぽい作品で、語りにもあったように予告であり絵コンテというか青写真をまとめたような内容だった。デビューから最前まで一貫した彼のアティチュードは、常にポストモダンであり、かつリアリストでもあったという事を作品に

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【映画】海がきこえる/望月智充

【映画】海がきこえる/望月智充

タイトル:海がきこえる 1993年
監督:望月智充

十代の心の機微を描いた作品であり、間を活かしたライトなサウンドトラックが時代にも合っていて、ファッション含め違和感なく受け入れられる時代だと思う。しかし、ジブリの中でも一番スルーされがちな本作がまさかまさかの劇場上映が行われ、初日から三日間全て完売という状況に大変驚いた。というのも、この作品が好きという人に全く出会った事がなく(SNSでは当然見

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【映画】英国式庭園殺人事件・ZOO/ピーター・グリーナウェイ

【映画】英国式庭園殺人事件・ZOO/ピーター・グリーナウェイ

世代によってアダプトしにくい作家、監督、ミュージシャンがいて、特に十年くらい前の近過去のものほど意外と繋がりにくい事が少なくない。僕の中でピーター・グリーナウェイはそのひとつだったりする。現在サブスクに作品があまり無い事も、振り返る上で阻まれる事の要因のひとつでもある。これはグリーナウェイに限った事では無いのだけれど…。
常にピックアップされ、時代がかわっても紹介されるヒット作や名作はアダプトしや

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【映画】エリス&トム Elis &Tom – Só Tinha De Ser Com Você/ホベルト・デ・オリヴェイラ、ジョン・トブ・アズライ

【映画】エリス&トム Elis &Tom – Só Tinha De Ser Com Você/ホベルト・デ・オリヴェイラ、ジョン・トブ・アズライ

タイトル:エリス&トム Elis &Tom – Só Tinha De Ser Com Você 2023年
監督:ホベルト・デ・オリヴェイラ、ジョン・トブ・アズライ

「三月の雨」の7thコードの展開形のイントロからエリスとジョビンの折り重なる歌を聴くだけで涙腺が緩む。穏やかで融和な雰囲気溢れるアルバムだと思い込んでいたが、融和というよりも宥和な状態から作り出されたアルバムだった事が明らかにされ

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【映画】ミレニアム・マンボ Millennium Mambo/ホウ・シャオシェン

【映画】ミレニアム・マンボ Millennium Mambo/ホウ・シャオシェン

タイトル:ミレニアム・マンボ4k Millennium Mambo 2001年
監督:ホウ・シャオシェン

2000年前後のあの時代がフラッシュバックする。舞台が台北であっても(途中で夕張と新宿が出てくるが)、振り返れば時代が持つ独特な空気や色合いがまざまざと蘇ってくる。ブラックライトの妖艶な輝きの中で蠢くナイトクラビングや、部屋のカラフルなインテリアなど、かつて東京でも見てきた風景の一部でもあっ

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【映画】夜明けのすべて/三宅唱

【映画】夜明けのすべて/三宅唱

タイトル:夜明けのすべて
監督:三宅唱

夜の闇の中で遠くに光る武蔵小杉のビル群。星のように輝く街と横切る浅草線。東京城南地区に当たる大田区の南側に住んでいる自分にとっては身近な場所と風景である。舞台となる栗田科学株式会社のある馬込辺りは、頻繁に訪れる場所ではないにしろ、知人が住んでいたり、郷土博物館を訪れるために足を運ぶ事がある。浅草線の車庫は、池上本門寺の端にある梅園のすぐそばにあり、国道1号

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【映画】落下の解剖学 Anatomie d’une chute/ジュスティーヌ・トリエ

【映画】落下の解剖学 Anatomie d’une chute/ジュスティーヌ・トリエ

タイトル:落下の解剖学 Anatomie d’une chute 2023年
監督:ジュスティーヌ・トリエ

2023年のカンヌパルムドール受賞作であるが、一番印象に残ってしまったのがボーダーコリーのメッシ。こりゃパルムドッグだなと思ってたら案の定受賞していた。猫好きの僕でもあの表情は見ているときゅーんとする。いや冗談のようなパルムドッグという賞(カンヌで唯一複数受賞できる)なのだけれど、映画の中

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【映画】ボーはおそれている Beau is afraid/アリ・アスター

【映画】ボーはおそれている Beau is afraid/アリ・アスター

タイトル:ボーはおそれている Beau is afraid
監督:アリ・アスター

電車や駅の広告に溢れる脱毛や美容、増毛が生み出す、そのトキシックな状況を生み出す広告への批判はあらゆる場面で度々表面化する。他者から見られる時のこうでありたいという欲望と、こうでなければいけないという強迫観念が表裏一体となって渦巻いている。本作の後半で主人公ボウの母親の業績がポスターとして壁に並べられているのを見て

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【映画】瞳をとじて Cerrar los ojos/ビクトル・エリセ

【映画】瞳をとじて Cerrar los ojos/ビクトル・エリセ

タイトル:瞳をとじて Cerrar los ojos 2023年
監督:ビクトル・エリセ

まさかまさかの「マルメロの陽光」以来のビクトル・エリセの新作が公開されるとは予想だにしなかった。昨年のカンヌで上映アナウンスがあった時に驚いた人も多いと思う。「ミツバチのささやき」から10年おきに発表していたほど寡作な作家として知られるけれど、「マルメロの陽光」からは30年以上経っている。途中、テンミニッツ

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【映画】ゴースト・トロピック Ghost tropic/バス・ドゥヴォス

【映画】ゴースト・トロピック Ghost tropic/バス・ドゥヴォス

タイトル:ゴースト・トロピック Ghost tropic 2019年
監督:バス・ドゥヴォス

誰しも終電を逃して夜を彷徨うような経験はあると思う。家から数キロであれば歩いて帰るだろうし、遠ければネカフェやカラオケで朝まで過ごすなんて事もあるだろう。午前を過ぎた街の雰囲気は、人気がなくそれまでの賑わいとはかけ離れた姿を現す。昼間とは違う夜中に働く人々の生活は、そういう場に居合わせないと出会うことも

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【映画】Here/バス・ドゥヴォス

【映画】Here/バス・ドゥヴォス

タイトル:Here 2023年
監督:バス・ドゥヴォス

普段は気にすることなく通り過ぎる周りにあるものに、ふと意識が向く事がある。何も音を立てずに部屋で寝そべっている時、外の車が通り過ぎる音や人の声などの環境音だったり、窓から見えるいつもの風景の中の朝の空気、昼の明るさ、日が翳り始める明暗が体の中のリズムと重なり合う。街の中でも、信号待ちをしている時の辺りの音や景色が突然ぱっと自分を取り囲むよう

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