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【映画】墓泥棒と失われた女神 La Chimera/アリーチェ・ロルヴァルケル


タイトル:墓泥棒と失われた女神 La Chimera 2023年
監督:アリーチェ・ロルヴァルケル

「幸福なラザロ」のアリーチェ・ロルヴァルケルの新作「墓泥棒と失われた女神」。登場人物たちがガヤガヤとすったもんだする感じはフェリーニっぽい雰囲気があったり(インスピレーション元として「ローマ」を挙げている)、クストリッツァみたいなオフビート感も若干感じつつヨーロッパらしいテンポ感が懐かしくも心地よい。回想シーンでの太陽光が刺すフレアがフィルムらしい美しい質感を持ち、ロマンチックな雰囲気を醸し出す。
分かりやすく、かつ細かな所で点と点を結んでいたりと次から次へと出てくる小粋な演出が中々にくい。とはいえオフビートやウィットと簡単に片付けられない不思議な魅力がある。「幸福なラザロ」もそんな感じだったと思うが、単純に観ていて楽しいのは本作の方が強く感じられる。
遺跡が多く残るイタリア中部エトルリアの土地が持つ時代感の希薄さにスマホも出てこないあたりに一体いつの時代だろう?と思わされる。そんな最中、唐突にホールトーンスケールのシンセのフレーズが印象的なクラフトワークのSpace Labが流れる時、70年代末辺りだと気付かされる(実際には80年頃の設定らしい)。

チャネリングで遺跡を掘り当てる胡散臭くも神秘的な能力を発揮するイギリス人(アイルランド人?)のアーサーが、遺跡を探し当てた時に上下反転するのは地上と地下遺跡の在り様を端的に描いていると思われる。さらに失った婚約者ベニアミーナへの想いがオルフェの如く地下の冥界を記しているのも、監督のコメントにも記されている。水面に映る先にあるものを考えれば、まさにオルフェのあのシーンと繋がってくる。
墓泥棒と密輸という資本主義的な価値観(墓泥棒を目撃したイタリアが、その後のシーンで泥棒扱いされているのは笑える)と、墓が持つ魂の祀られた場所という対照的な関係性のアンビバレンスな状況に苛まれるアーサーの迷いが後半描かれる。船上でオークションに出される埋葬品は、元々持つ意味合いから切り離され即物的な価値観に置かれる皮肉。壊されたばかりの女神像はあたかも遥か昔に壊されたように扱われ、ニケなどの作品と比較される皮肉。人の目に晒されるためのものなのか、埋葬された人々の魂を祀るためのものなのかという本質的な疑問を投げつける。
ユーモラスな物語でありながら、どこか不穏な空気が漂うのは失った婚約者への喪失感が拭えない部分が大きいが、監督がインスピレーション元としてアニエス・ヴァルダの「冬の旅」も挙げている辺りに共通点は見出せる気がする。場当たり的な行動で日々を過ごす「冬の旅」と本作は根底に描いているものは近い。だからこそ、明るくなりきれない不安と不穏な空気が常に流れている。
ラストシーンも魂の繋がりを感じさせるとてもロマンチックで、切ない終幕に心が締め付けられる。
エンドロールではイタリアロックのフランコ・バッティアートのGli Uccelliが流れていた。

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